2011年10月10日
●和文解釈入門 第143回
ロシア語には「いただきます」に当たる表現はないが、ロシア人に説明する場合どうなるだろう?これは私ならЯ буду есть.とする。逆に日本語にはПриятного аппетита!(強いて訳せば「おいしそうですね」とか、食事をしている友人への別れの挨拶なら「お先に」だろう)にあたる表現はない。生格が来ているのは次にжелаю/желаемという生格を取る動詞(一般にロシア語の動詞には願望には生格が来ることが多い)が省略されていると考えられるため。この表現はフランス語由来 bon appetit(お腹一杯召し上がれ)であろう。желатьは本来は補語が抽象的なものが主体なので生格を取るが、具体的なものについては対格を取る場合もある。これは生格というものに抽象的なものを、対格が具体的なものをというロシア語の動詞(欲求を意味するпроситьなど)の本来の使い方から来ている。またжелатьは最近хотетьの代わりに使われるようになってきているが、これはソ連崩壊後、接客(サービス)に対する意識の変化もあるのかもしれない。動詞 (просить) のように、これが廃れてきているものもある。
否定生格というと、なんでも他動詞を否定すれば生格となると考えるのは間違いである。基本は抽象的なものは否定形において生格が、具体的なものは対格が来る。現実的には具体的なものでも生格が来る場合が多いが、Я не люблю её жену.(彼の奥さんを私は好きではない)はженыとはならない。
出世主義者はкарьеристだが、他にМолчалинやФамусовも意味が似ている。ともにГрибоедовのГоре от умаの登場人物だが、使うニュアンスはかなり違う。Молчалинの信条はУмеренность и аккуратность(ほどほどと几帳面)であり、上司の前ではへつらい、謙虚である。余計なことは口にしない慎重さを持っている。一方Фамусовは上にはへつらい、部下にはふんぞり返るという、あまり昇進が望めそうもない小役人タイプである。
設問)「諸君が任務を遂行したという報告を直に受けるために明日同じころに来る」をロシア語にせよ。
(1) Я сюда приду завтра
в такое же время для
того, чтбы прямо послушать ваши доклады о том, что вы выполнили свои
задачи.
(2) Я приду еще раз
завтра в такое же
время для получения
докладов о вашем
выполнении своих
задач от вас непосредственно.
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正解です。(1)はчтобы ...что と続くので、чтобыは取った方がよいと思います。ただ報告は個人的には時間の長さを考えればこの場合一つの任務に対して一つの報告と考えるので、両方とも単数の方がよいと思います。私の答えは、Завтра в эту же пору приду - лично от вас доклад принять, что задачу выполнили.
日本語では特に珍しくはないが、相対時制で未来時制に過去完了が含まれているという珍しい文例である。これは完了体未来形を二つ続けて書くと、動作が続けざまに起こったと思われるし、どちらの動詞の出来事が先に起こったのか分かりにくいので、先に完了する動作を完了体過去形で示すことにより、時間の経過を示す用法である。無論文法的には完了体未来形をいくら続けて書いても間違いではない。文意が取りにくいというだけである。
Завтра в это же время я приду сюда, чтобы прямо(от вас) получить (принять) отчёт о том, что вы выполнили задачи.
今回自信がありません。①「報告」「任務」はどの単語を使えばいいのか,次に,②これはロシア語が完了時制をもっていないため,相対時制によって動作の順番を表すという例でしょうか。
この設問では,現在「諸君はまだ任務を遂行していない」状態で,「明日私が来るまでの間に諸君は任務を遂行する」予定であって,未来のことを言っているにもかかわらず完了体過去形を使うことで主節より従属節が先だって行われるという構文ととりました。
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素晴らしい。ここまで理解しての回答には頭が下がります。その通りです。ただчтобы ...что と続くので、чтобыは取った方がよいと思います。「報告」という意味では、докладや отчётが考えられますが、докладは職務に関しての上司に対する報告で、口頭、書面どちらでもよいとはいえ、口頭が多いです。一方отчётは口頭ないしは書面による自分の仕事、任務についても公的な報告で、責任者ないしは機関に対するものです。ただотчётには会計報告という意味もあるし、現在起こっていることの詳しい報告(新聞雑誌に掲載されるものも含む)と意味もありますし、また学術的報告お言う意味もあります。今回は軍事関係という事もあり、докладのほうが適切でしょう。任務はзадачаとзаданиеが同義語ですが、前者は遂行ないしは解決しなければならないもので、しかも重要な、あるいは複雑な任務をいい、後者は遂行すべきもの(解決ではなく)で1回のものを指す場合が多いのです。