2011年09月21日
●和文解釈入門 第124回
露文解釈なら体の用法を十分理解していなくても、何となく意味は分かるし、直接お金を貰うわけでもないからそれでいいが、露文和訳となるとプロだということもあり、体の用法をきちんと理解していないと、文のニュアンス(文体の差とか、方言であるとか、非標準的用法をわざと使っているなどの)が十分に汲み取れない。それにロシア語の特に会話の部分は自分である程度長い期間ロシア人と接して日常的に使っていなければ、体の用法や類語の使い分けの違いを感覚的に会得できない。しかし子供ではないから感覚的だけで100%正しく体の用法を使いこなせる自信があるならいいが、普通は理論的裏付けが大人には必要である。そうでないと応用が利かない。ましてやロシア語で分からないことがあっても自分で調べようとせず、安易に何でも最後にはロシア人に頼ろうという姿勢ではいつまでたってもロシア語は上達しない。体の用法や類語の用法の違いなど露露辞典や参考書を使って自分で調べ、理解して納得するという努力が不可欠である。
ロシア語で発想できるようにすることがロシア語上達の道だと考えている人がいるが、そうではない。二十歳すぎくらいからロシア語をやってバイリンガルにはなれないと思う。どうしても母語の日本語との兼ね合いと言う事を考えざるを得ないからだ。ロシア語で話す場合、比較的短いフレーズならちょっと慣れればロシア語がすぐ出てくるが、長いものとなるとどうしても日本語からの翻訳となる。だから日本語が母語として確立しているという事を長所と考えて、常に日本語とロシア語を対比して、どちらからでも日露双方の語彙が出て来るように訓練すべきだ。これはロシア人にはできない芸当だろう。
прекрасныйはочень хороший, очень красивыйと言う意味なので、оченьと一緒には用いない。使える程度を示す副詞はпростоとか、後は絶対的な尺度を示すнесомненно, безусловноなどである。очень, весьмаは比較級とは用いず、比較級で程度を高める副詞を使うとすれば、намного, гораздоだということを知っている人は多いはずだ。намного (гораздо) лучше (хуже)となる。медикаментыは複数だけの名詞で、訳はその通り医薬品である。つまり薬を硬く言った表現で、лекарствоと同義であり、同じ単語を繰り返したくないときに使える。средствоも薬だが、この単語は手段という意味もあり、多義なので薬というときにはлекарствоのほうが多く使われる。それと他にпрепаратという言葉は製剤という意味で、調合された薬剤(つまり漢方薬などは入らない)、таблетированные препараты(錠剤)などのような使われ方をする。
設問)「二つのうちからましな方を選ばないと」をロシア語にせよ。
(1) Мне придется
выбрать получше из
двух вещей.
(2) Мне необходимо
подобрать получше
из двух предметов.
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両方とも「二つのものからよりちょっとでも良いものを選ばなければならない」ということですし、лучшеにпоをつけて「ましな」というニュアンスを出そうとした工夫は評価しますが、まだ足りないように思います。私の答えは、Из двух зол надо выбрать меньшее.、つまり英語のlesser evil を用いて「ましな方」というニュアンスを出そうという考え方です。
露文和訳で体の用法による文のニュアンス(文体の差とか、方言であるとか、非標準的用法を
わざと使っているなどの)が読みとれるのは理想ですが…… 現実との差は大きいですねぇ。
回答します
①Нужно взять(выбирать) лучшее из двух.
②Взять(выбрать) бы тебе лучшее из двух.
①「どっちもあんまりぱっとしないけどとにかくどっちかを選ばないと」というニュアンスです。
②隣にいる人に「選んだほうがいいんじゃない」というニュアンスです。
最初、взятьもбрать(行為の着手)もどっちでも使えるかなと思ったのですが、「ましな方を」と具体的指示がありましたので完了体のみにしました。
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この設問を完了体と考えるのは正しいと思います。ただそれならвыбратьのはずです。タイプミスでしょう。初めの方は「二つのうちからよいものを取る必要がある」で、二つ目は「二つのうちからいいものを取ったら」ぐらいですから、ましな方(どちらもぱっとしないが)というニュアンスは感じられません。また着手というのは雰囲気的に(常識的に)~するのが当たり前と感じられるという前提がありますが、この設問はそういう風には感じられません。着手の用法についてはご理解されていると思いますが、初学者のために一応書いておきます。いわゆる着手といっても不完了体の属性である無標性(完了体は何か新しい具体的なことをする、それを有票性と表すことにすれば)から発生するもので、自発的に着手するのではなく、その場ですることが当然であるという場の雰囲気によってなされる無意識の動作の要請、つまり話相手もその動作をしようとしているその動作にきっかけを与えるために使われ、勧誘的な意味合いを持つものです。かけっこのときのよーいドンや、試験の時の試験官の「始め」の合図と考えると分かりやすいと思います。これから不定法などの義務の用法が出ると考えると分かりやすいかもしれません。
えっ?!
これは自分に言い聞かせておるのか
周りが「気ぃ付けや」と助言しておるのか…
(訳)
二つのうちからましな方を選ばないと
1) 自分に言い聞かせている場合
(Мне )Надо выбрать лучше из двух. Или...
2) 周りが助言している場合
Выбери лучше из двух. Или...
具体的1回の動作と考え、完了体を使っています。
後者の場合は「ましな方を選んで当然やろ」という空気から不完了体、とも考えられますが
おそらく選んで当然の切羽詰まった状況と考え
あえて着手を促す必要もないかと考えます。
илиだけお尻にくっついとるのは、「…しろ、さもないと…」の「さもないと」で「…しないと」の意味を出そうとしてのことです。
さて、正解は
лучшеだけでは「まし」の意味にはなりませんか(「より良い」ですから当然といえば当然ですが)…