2011年09月18日
●和文解釈入門 第121回
БондаркоのТеория морфологических категорий и аспектологические исследования(形態的範疇理論および体の研究), Языки славянских культур, 2005によれば歴史的現在という用法は18世紀末までは完了体未来形で行われ、それ以降は衰退し、その後不完了体現在形が用いられ現在に至っているという。私などは完了体未来形が過去で使われるのは時制の転用(転移)と簡単に片づけていたが、これは過去の名残だということになる。А.А. Потебняの用いた有名な例文、「足で蹴って壊した」という文は、普通に考えればПнул ногой – изломал.と完了体過去形の順次的用法である。ところが完了体未来形を用いてПнёт ногой – изломал.とすれば、より生き生きとした表現になるという。これは歴史的現在があたかも眼前で行為が行われているかのように表現するの謂なので生き生きととらえられると考えれば納得がゆく。このように先行する動作には完了体未来形が使われるというのが時制の転用での説明である。現在の時制の反復・習慣の用法でも、完了体未来形が先行する動作を示し、かつ平板な文章にを生き生きしたものに変えると言われている。Когда хлор улетучится, я наливаю раствор в банку.(塩素が蒸発したら、溶液を瓶に〔いつも〕注ぎます)。この他に生き生きとした感じを出すために、完了体未来形が過去で使われる例としてよく見られるのは、какと共に使われるものである。Замер его голосок, и с ним в одно мгновение точно всё умерло... Зато через минуту все как вскочет, словно бешеные, и ладошами плещут и кричат.(彼のか細い声が消え、それとともに一瞬で全てが死に絶えたようだった。その代わり、そのあとすぐにすべてが急に湧き上がり、気違いのように〔人々が〕手を鳴らしたり、叫び出したりした)。これらはいわゆる歴史的現在の用法で、вскочетは単数の完了体未来形、その後の動詞は複数の不完了体の現在形である。
Поживём – увидим.(その時はその時)というような諺は、一つの事例を取り上げて全体を代表させるという例示的意味の完了体未来形と見るか、歴史的現在の古い用法の名残と見るかだが、この歴史的現在の用法が発展して例示的意味を持つことにより、完了体未来形の成文法に生き生きした表現という生産性を与えたといえないこともない。
このような歴史的現在という用法は我々外国人は会話では使いにくい。ある程度これが自然に出るようになればロシア語かなり上達したと言えるだろう。しかし露文解釈においてはこの用法を頭に入れておけばすぐにでもかなり役に立つと思う。
設問)「わざわざお見えになったのですか?」をロシア語にせよ。
(1) Вы пришли сюда
специально ?
(2) Спасибо, что вы
специально
потрудились зайти.
---------------------------------
(1)は正解です。(2)は皮肉な感じを出そうとしたもので、文脈によっては正解となるでしょう。設問はそれほど深く考えたものではありません。私の答えは、Вы специально приехали?
まあ一応結果の現存と理解するのが普通だろうが、2週間前などと過去を意味する具体的な副詞を入れればアオリストとも考えられる。不完了体過去形にしてВы специально приезжали в Москву.は「わざわざモスクワにいらっしゃったのですか?」と訳すよりも、もうモスクワにはいない(уехали)というニュアンスがあるので、「わざわざモスクワにいらっしゃっていたのですか?」と訳した方がロシア語の意味に近い。
最近、和文解釈がますます理論的になり難しくなってきました。ここで文法的に一つひとつこなしていくとほんとに力をつけていただいているような気がします。いろいろ考えすぎて前回のように逆にわけがわからなくなってきたりしますが… なるべくついていこうと思います。
回答です。
①Вы специально уделили время и приехали к нам?
②На самом деле вы попали сюда(к нам) ?
いつもですが、こういうなんでもない会話が一番弱いです。設問は二つの意味にとれると思いましたので、それぞれ回答しました。
①素直に丁寧文ととり、「わざわざ」を推測し具体的に訳しました。
②「(本当は電話かメールでも済んだのに)わざわざやってきたのですか」ととり、訳してみましたが、敬語の「お見えになった」をどう処理したらいいのかわからず訳せませんでした。
-----------------------------------------------
(1)は完了体過去形の順次的表現と取ったのでしょう。正解です。(2)はна самом делеは大きく3つ意味があり、一つは現実(見た目)とは違って、「本当は、実際は」、二つ目は口語的で「その通りверно, совершенно правильно」、三つ目は強調の「一体全体」で、後の二つは挿入語ですからカンマが要ります(二番目にはつけない可能性もあります)。メイさんのは二つ目の用法を使ったもので、Я на саомо деле видел его вчера, не выдумываю.(昨日本当に彼を見たんだ、嘘じゃない)という場合です。長く会っていなかった恩師が自宅に来て、それに対しては言えそうな感じがしますが、かなり無理のあるような文です。初めは知っている人の幽霊に対して言っているのかなという気もしました。「お見えになった」は敬語ですが、日本人はна выで自然に使っています。ロシア語には動詞を敬語で使う方法はほとんどありませんが、その代わりна выを使います。ですから深く考えることはなく、頭の中で会話をイメージすれば(例えば上司や恩師との会話)、回答が出るはずですし、現に出ています。(1)は正解ですが、まだ余分なものがあります。簡潔にしたほうが間違いは少ないというのが私の考えです。
Вы специально приехали ко мне?
最近読んでいる本では、似たような文章でпришлиとなっていました。車で来たのが推測できるシチュエーションだったので、何故だろう、、と疑問です。
訪問先が会社などでしたらк намにします。
文法書でも勉強しているものの、歴史的現在を使いこなせるようになれるかは自信ないですが、小説など読むときは意識するようにします。
-------------------------------------------------
正解です。タクシーである会社に商談に行くというのはサラリーマンではよくある設定です。そのとき「着いた」という意味でприехатьの過去形を使うかприйтиを使うかですが、厳密にいえば車はせいぜい車寄せのところまでしか行けませんし、車寄せのない会社もあります。また地下鉄や電車で行けば、駅から1分であろうと20分であろうと必ず歩きます。このときприехал и пришёлなどとは言いません。普通はприехал(а, и)を使います。ただ文脈によって歩く距離が長いというニュアンス、客観的ではなく主観的に(オフィスが40階にあり、玄関からエレベーターを使うにしろ、心理的な時間が長いという感じがある場合)прийтиが出てくる可能性があります。
(訳)
わざわざお見えになったのですか
1) Приехали ли Вы (к нам) несмотря на Вашу занятость?
2) Приехали ли Вы (к нам) специально?
・来て目の前に居る=結果の現存と考えて完了体過去
・1)は「お忙しいのに…」のニュアンス
2)は和露辞典の表現を参考にしました
さて、正解は
2)が○…でええんかな
---------------------------------------
1)は日本人が使いたがる表現ですが、よほど日本語をよく知っているロシア人でない限り、ロシア人はこうはいいません。