2011年07月17日

●和文解釈入門 第68回

черезとсквозьの違いは、Ради тебя я готов переплыть через океан, пройти сквозь огонь и джунгли.(お前のためなら大海原を泳ぎ渡り、火もジャングルも超えていく覚悟だ)という文でも分かるように、сквозьの方が意味は強い。海は泳ぎ渡れるかもしれないが、火の中は無理だろう。ただ海と言っても大洋だし、火といっても火くぐりや火渡りなどはテレビでも見るから、説得力がないかもしれないなとは思う。ロシア語難語辞典Словарь трудностей русского языка, Розеньталь/Теленкова, Русский язык, 1981の解説によればсквозьとчерезは空間、環境を越えて通過する、浸透する、見えるという意味ではシノニムだが、сквозьにはより多くの努力をするという付加的なニュアンスがつくことがあると書いてあるので念のため。
鉄鋼用語で真円度(パイプの端面がいかに円に近いか)というのがあるが、これはロシア語ではкруглостьではなく、овальность(直訳すれば楕円の程度)である。発想の違いであろう。日本語でも技術用語というのはこれが同じ日本語かと思うほどに違う。鋼の非金属介在物というのは鉄鋼用語ではありふれたものだが、一般人にはまずわからないだろう。介在物というのは異物(混入物)であり、普通のロシア語ならпримесьだが、専門用語では鋼の非金属介在物はнеметаллические включения сталиとなる。また、同じ「差」でもразностьは引き算の差であり、разницаは性質などの差である。公差という日本語を知らない日本人もいるかもしれないが、技術用語では一般的なものである。これは許容誤差のことで、ロシア語ではдопуск, допустимое отклонениеといい、допустимое отклонение по диаметру(径の公差)などと使う。ちなみに技術用語では直径とは言わず径という。端も普通はкрайだが、技術用語ではкромкаを使い、торецは端面である。菌株というのはштаммだが、日本人の専門家は「きんかぶ」と言っていた。これは菌種と紛らわしいからだろう。私立を「わたくしりつ」、市立を「いちりつ」と言ったり、バケガク(化学)の方じゃないカガク(科学)の方だと言ったりというようなものだ。
設問)「この世界的に有名な場所の名称を記した道路標識がまったくないことにびっくりしないでくださいよ」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2011年07月17日 05:58
コメント

(1) Не удивляйтесь
тому, что тут совсем
нет дорожных знаков,
показывающих
название всемирно
известного места.

(2) Не будь пораженным
тем, что совсем нет
дорожных указателей
с названием
всемирно известных
достопримечатель-
ностей.
------------------------------------
構文自体はこれでいいのですが、設問の狙いは動詞です。動詞が問題です。поразить = сильно удивитьということですからますますいけません。私の回答は、Не смущайтесь, что нет никаких дорожных знаков с названием этого всмирного места.
宇宙飛行士の住む町として有名な星の町Звёздный городокの説明にあったもの。設問の「驚く」は「言われてみれば変だなと思う、まごつく」くらいのニュアンスの日本語なので、上記のような動詞を使う事になる。удивиться = испытать удивлениеということで、удивлениеというのは不可思議な、思いがけない、奇妙な、理解不能なことからから起きる強い印象を受けた状態ということで、驚愕という感じである。ただロシアのご婦人がたや若者の愛用するобалдел(а) というのは少しでも自分でいいと思うものを見たり聞いたりしたときに、「これはたまげた、びっくらこいた」という感じで使われることが多い。日本語の「たまげた、びっくり」もそれほど強い意味でなくとも用いられるからこういう誇張の用法に似ていると言えば言える。しかし基本を押さえてこう言う誇張表現を使うのは構わないが、まずニュートラルな文体、基本的文体をマスターしてからだと思う。不完了体の否定命令形が使われているのは、否定文には命令法も含めて不完了体を使うのが基本だからだ。完了体の否定命令形には危惧というニュアンスがあり、「うっかり驚くな」というのは「うっかり忘れるな」のと違い、語義的に無理があるからだと思われる。命令法ではないがне + удивитьという完了体の結びつきには不可能という用法もある。Её адом не удивишь.(地獄行きだといって彼女を驚かすことはできない)

Posted by パラショーノク at 2011年07月17日 19:50

Не считайте
странным делом то,
что вокруг совсем
не найдены дорожные
знаки с указанием
названий всемирно
известных
достопримечатель-
ностей.
-----------------------------------------
発想としてはこちらのほうがよいのですが、説明しすぎる感があることと、что以下は前(1)の文例のほうがはるかに良いと思います。

Posted by パラショーノク at 2011年07月17日 22:54

追いついた!
(露語では Я догнал(а)! とでもなるのでしょうね)。

(訳)
この世界的に有名な場所の名称を記した道路標識が
まったくないことにびっくりしないでくださいよ
Не удивитесь, что совсем нет никаких дорожных знаков,
на которых показывает имя знаменитого по всему миру места.

最初のудивитесь が完了体なのは
・(世界的に有名なのに)標識に何も書かれていないことに驚く、
 というのは具体的かつ1回きりの動作だから
 (次来る時には「あぁ、ここには何も書いてないんやな」と驚かないから)
・発話の時点では何も書いていないことに聴き手が驚いていないから
完了体現在形による未来の表現、と考えました。
後のпоказывает が不完了体なのは
現在の状態ないし存在を表わすためです。
написаться も考えましたが、これを使うと
被動形動詞過去を使う方がしっくり来るのではないか、
と思われるため、敢えて避けました。その場合は
Не удивитесь, что совсем нет никаких дорожных знаков,
написанных имя знаменитого по всему миру места.
となるのでしょうか。
удивляться の後が что なのは、
標識がないというのは(少なくとも発話者にとっては)事実だからです。
дорожные знаки と複数なのは、
道路標識は色んなパターンがあるやろ!というわけで、一般的複数であろう、
と思われるためです。

技術表現に関する疑問等は別に投稿させていただきます。
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道路標識が複数なのはその通りです。написатьは基本的に手書きです(タイプで打つという意味もありますが、これも手を使いますし、稀に足で書くというのもあるのでしょうが)。こういう標識が手書きというのは例外的だと思います。указанныйを使ったほうがよいでしょう。знаменитный в мире (в Москве, на каком-либо острове)という語結合で、поは来ないと思います。それ以外は私の回答を参照ください。

Posted by コーシカ at 2011年07月17日 23:47

>真円度
パイプは流量で勝負!という頭があったのでこの語は新鮮です。
施工のしやすさなどをアピールする時に使うのですか?

>鋼の非金属介在物
燐とかそういう非金属の不純物のことですね。
わかりませんかね…
(↑そらお前は鉄工所の息子でメーカ営業やろがぃ!)

>公差
>допуск, допустимое отклонение
公差も営業でたまに使いますよ。
- なんでお前とこの錐で穴あけたら(欧州製の)アンカ入らへんねん!
- いや、だってJISとDINで公差違いますもん
などなど
英語では tolerance ですね。
tolarate という動詞には「…を寛大に扱う、黙認する」という意味があるようで
She didn't tolerate his selfishness.
彼女は彼のわがままを許さなかった
How can you tolerate that rude fellow?
よくあの失礼な男に我慢できるね
などが例文として挙げられていました。
(『Eゲイト英和辞典』ベネッセ、2006年、1,764頁)
最近、人事考査などで「ストレス耐性」 stress tolerance
という使い方もされるのはそのためですね。
なんぼ現代っ子がひ弱とはいえ、
なんで入社時にストレス耐性とか尋ねんねん!
うちブラック企業でっせ、知りまへんで、言うとるようなもんやろ!!
という怒りの投稿をネット上で見かけたことがあります。
うちの取引先の商社の営業さんを見てるとさもありなん、という感じです。
デフレは経済的側面ばかりが強調されますが、
それは価値観のデフレないし精神的なデフレに根があるように思われ
(ニーチェはそれを虚無主義=ニヒリズムと呼びました)、
それらのデフレは着実に日本社会を蝕んでいるように思えてなりません…
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製鉄所にとってはパイプは真円に近ければ近いほど、圧力が均一にかかり、長持ちするという観点からだろうと思います。それで真円度というのが重要な検査項目になっているのです。

Posted by コーシカ at 2011年07月17日 23:49

ありがとうございます。

>これはたまげた、びっくらこいた
>обалдел(а)
ロシア人の友人は「それはすごい、いいね」という意味で
здорово をよく使っていたのを思い出します。

>否定文には命令法も含めて不完了体を使うのが基本
改めて第10回の一覧を見てみました。
命令法での体の選択はほとんどが不完了体でした。

>написатьは基本的に手書き
そうなんですか、知りませんでした。

>указанныйを使ったほうがよいでしょう。
会話で形動詞が出てくるのはそれほど問題ないでしょうか。
以前に副動詞がいきなり出てきては…
というお話があり、あえて形動詞を外して回答しました。

>真円度
>パイプは真円に近ければ近いほど、圧力が均一にかかり、長持ちするという観点から
なるほど~
鋼管も定尺4mでしょうから、非破壊検査で(音波?放射線??)
肉厚を測定して真円度を割り出すのでしょうね。
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писать/написатьには「絵を描く」という言意味もありますが、рисовать(鉛筆、ペン、絵具で), писать(画家が絵具で)という違いはあります。パイプの長さは4メートルというような短いパイプは記憶にありません。ラインパイプだと径だけで530ミリとか大径管で1600ミリというのを覚えています。長さも10メートルぐらいはあったような気がします。真円度はもっと原始的なな方法で測ります。管端を8等分(つまり4回)してその直径を物差しで測るのです。これが同じ値なら真円となります。形動詞については特に気にすることはないでしょう。意味が曖昧ではないからです。要は程度問題です。形動詞を全く使わないと文が非常に説明的になり、くどくなります。くどくなると、つまり美しくなくなります。美は簡潔にありというのが私の考え方です。

Posted by コーシカ at 2011年07月18日 23:37

漏れてました…

>знаменитный в мире (в Москве, на каком-либо острове)
>という語結合で、поは来ない
これも知りませんでした。勉強になります。

Posted by コーシカ at 2011年07月18日 23:39

>рисовать(鉛筆、ペン、絵具で), >писать(画家が絵具で)という違いはあります。
してみると、前者の方が(使用する画材という点で)広がりがありますね。
(露露で確かめたかったのですが、明日以降にします…)。

>パイプの長さは4メートルというような短いパイプは記憶にありません。
>ラインパイプだと径だけで530ミリとか大径管で1600ミリというのを覚えています。
>長さも10メートルぐらいはあったような気がします。
うわぉ!!!水道屋とはまた別世界ですね:
水道で使う塩ビ管や鉄管は4mが定尺なのだそうです。
確かにプラント関連であればさもありなん、という径ですね。
長さ10mも驚きましたが、日本国内でも、
レール輸送用の貨車はコキ(12ftコンテナx5個ないし20ftx3個搭載用の貨車)を
何本も束ねた貨車を使いますので、海運専用のサイズというわけではないですものね:
実際にコキを3~4本束ねたレール運搬用の貨車に出くわしたことがあります。

>真円度はもっと原始的なな方法で測ります。
>管端を8等分(つまり4回)してその直径を物差しで測るのです。
>これが同じ値なら真円となります。
管端を8等分ってどういうこと?と今日一日営業しながら考えてました。
管の円周を8等分して、その8辺の肉厚の平均値が誤差の範囲なら真円、
との理解でよろしいでしょうか。
物差しで測るって、まさかノギス?いやいやマイクロやろ、いくらなんでも…
けど相手は最大φ1,600mmちゃなバケモンやろ?圧延か引き抜きか知らんけど…
百分台(の誤差)でも10万分の何mmやで??

……
確かに、ノギスでも十分すぎるかも…

>形動詞については特に気にすることはないでしょう。
>美は簡潔にあり
と言われて、レーニンの演説『ソヴィエト権力とは何か』を思い出しました。
http://www.youtube.com/watch?v=-l53FPENoAU
改めて見てみると結構形動詞が出てきますね。
自分の中では"耳にしてなおかつ分かりやすい文章"の典型なのですが。
恐らく、(時期が時期だけに)インテリ層以外にも向けた演説だったと思いますが、
幅広い聴衆に分かりやすいお話だったのではないか、と思います。
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писать/написатьというのは手書きと説明するよりも、印刷ではないというほうが正確かもしれません。絵を描くという意味でрисовать/писатьの違いは、画材の違いというよりはアマとプロの違いと考えたほうがよいと思います。真円度については肉厚を測るのではなく、径を8等分して、つまり4方向(上下、左右のほかに斜めに2方向)の径を測ります。パイプの径には公差がありますから、仮に2ミリ(プラスマイナス2ミリとか、マイナス0、プラス2ミリとかいろいろありますが後者として)の公差としたら、530ミリの径のパイプなら530.1 mm, 529.9 mm, 530.15 mm, 529.00 mmなら問題なしとなります。測るのはノギスではなく、定規линейкаです。

Posted by コーシカ at 2011年07月20日 02:36

・рисовать と писатьの違い
・パイプの径の測定法とその測定器具
とも、おかげさまでよく分かりました。

長々お付き合いくださり、ありがとうございました。

Posted by コーシカ at 2011年07月22日 01:33
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