2011年07月21日

●和文解釈入門 第72回

谷崎潤一郎の「文章読本」(中公文庫、1975年)を読んでいたら、「文法的に正確なのが、必ずしも名文ではない。だから文法に囚われるな」という文が目に入った。ははあ、これを金科玉条としてロシア語の翻訳家の卵などが文法軽視をする大元かと思ったが、よく読むと、「日本語には明確な文法がありませんから、従ってそれを習得するのが甚だ困難なわけであります」とある。この本の初版は1934年であり、本書の中には谷崎自身の英訳もあって、「英文法における歴史的現在 Historical present」なる文章もあるから、よほど英語の文法には詳しかったのだろうと思う。日本語に明確な文法があるかないかは別にして、文法とは日本語の文法を指しているのであって、英語(外国語)ではないという事が分かる。本書には同義語を数多く知ることの重要さにも触れており、一読に値する。「数を数えるのに「一つ」「二つ」と言わないで、「一個」「二個」という風な言い方をするのも、田舎の人に限っているように思われます」と書いてあるが、今の日本語を聞いたら谷崎は何と言うだろう。
本書の中で職人の言葉に学べというところがあり、「うちのり」という言葉が出ていた。多分若い人はこう言う日本語を知らないだろう。これは内法と書き、造船関係でもたまに使うが、ロシア語にすればразмер отверстия в свету(穴の内法寸法)などといって、容器などの厚みを含まない寸法である。厚みを含むのは外法(そとのり)という。英語でもin the clearはロシア語в свету同様「うちのりで」という意味である。この他に取り合いというのがあって、部材связь(英語ならmember)の組み合わせや接続の仕方をいうが、100%の自信はないがпривязкаが使えるような気がする。
P.S. プーシュキンの詩Евгений Онегинの中に、
Как уст румяных без улыбки, 笑わぬ深紅の唇に似て、
Без грамматической ошибки  文法の誤りのなき
Я русской речи не люблю.   ロシア語は好かぬ。
 私は詩はレールモントフの方が好きだ。
設問)「次から次へと質問が浴びせかけられる」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2011年07月21日 06:07
コメント

(1) Меня засыпают
вопросами один за
другим.

(2) Меня атакуют
вопросы один за
другим.

(3) Подаются вопросы
за вопросами.
----------------------------------
(1)は一見正解のように見えますが、まず不完了体を使ったほうがодин за другимという構文的に自然だと思います。それとодинというのは質問を指しているわけで、こういうのは構文的におかしいと思います。(2)は質問が主語で私を攻撃するという変な文です。(3)は文法的に間違いとは言えませんが、Подаютとしたほうがまだよいと思います。ただ質問を次々と順々に提起するという感じで設問とは違うと思います。いずれにせよ設問のポイントは外していません。私の答えは、Вопросы сыпятся один за другим.
主語が女性ならВерсии отпадали одна за другой.(異説は次々と消えていった)となり、中性ならСыпались из него слова одно другого грязнее.(次から次へと罵詈雑言を彼は浴びせた)となる。主語でなく、目的語ならЯ пропускал одну лекцию за другой.(俺は次から次へと授業をさぼった)である。この構文の動詞は普通は不完了体だということはお分かりだろう。

Posted by パラショーノク at 2011年07月21日 06:41

(1) Меня забрасывают
вопросами один за
другим.

(2) Ко мне обращаются
с вопросами один за
другим.
-------------------------------------
両方とも不完了体を使っているのは、前のよりいいのですが、один (одна, одно) за другим (другой)の使い方がよく分かっていないようです。(1)も(2)も質問が主語にも直接目的語になっていないので、こういう文ではこれは使えないと思います。

Posted by パラショーノク at 2011年07月21日 08:26

Меня засыпают
вопросами один за
другим.
--------------------------------------
前のと同じです。

Posted by パラショーノク at 2011年07月21日 18:18

(訳)
次から次へと質問が浴びせかけられる
その1:一般的な場合
Меня задавают вопросы один за другим.

その2:子供が次から次へと質問してくるイメージ
Ко мне стремятся с рядом вопросов!

その3:論敵が詰問してくるイメージ
На меня набегают волной вопросов.
Мне допытаются одними за другими вопросами.
「誰に」かが見えてこないので、自分に向けられていると考えました。
また「誰が次々に質問しているか」が不明なので不定人称文を使いました。
機関銃絡みの語は調べても使えないことが分かりました。

>内法
初めて耳にします。
パイプの径であれば内径の方、
コップ等の容器なら容積の方、と理解しました。
合ってますでしょうか。
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1は正解です。2.はたくさんの質問がまとめてくる感じです。3はволнаと単数にすると1回だけたくさんの質問となります。Водопад вопросов обрушился.(質問がどっと押し寄せた)という表現がありますが、これに近いものです。複数にしたら使えるのかというと、動詞は不完了体になるわけで、思い浮かびません。3の二つ目の文はодинを質問に合わせて格変化させているのは評価しますが、主格か対格を除き、そういう例は覚えがないのです。
内法は容積ではないのです。家のドアをがらっと全部開けると外の光が入ってきます。この光の入ってくる面積(というよりは大きさ)を言います。ドアや穴の設置に重要な概念です。パイプの内径といえば言えるのですが、そういう考え方ではなく、ロシア語でも英語でも使っている単語を見ればよく理解できるかと思います。

Posted by コーシカ at 2011年07月22日 03:12

うむむ、ストレートなのだけが生き残りましたか…
語感がまだまだです
違いについてのご説明、ありがとうございました。

内法については自前でもう少し調べてみます:光が入りこめるスペース…?
リフォーム等、建築でも使われる用語のようですね。

Posted by コーシカ at 2011年07月22日 23:13

私も読みました。刺激に満ちた本でした。

たしかに日本語の文法は曖昧なところがありますね。

Posted by 前田忠志 at 2011年08月18日 11:59
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