2011年06月17日

●和文解釈入門 第42回

形容詞の最上級で語幹に-ейший-, -айший-のつくものは最上級の強意であるという参考書の説明もあるが、これらの訳について、中級者でも誤解をしている向きがありそうなので書いておく。силиьнейший шахматист в миреは「世界最強のチェス選手」となり、これが本来の意味での最上級суперлативである。これ以上強い選手は世界にいないからだ。しかし、сильнейший ход、строжайший запрет、глупейшая историяはどうだろう。これは仮に名付けて強意最上級элатив (элятив)という非常に強いレベルだが、最高級ではないという意味である。だから、сильнейший ход = исключительно сильный ходということであり、訳はそれぞれ「強力な一手」、「厳格極まりない(甚だしく厳格な)禁止」、「おろか極まりない(甚だしく愚かな)出来事」となる。ちなみに日本語の「極まりない、きわめて、この上なく」は最上級のようだが、「甚だしい」であり、偶然だと思うが意味が似ている。もう一つは、これも仮に名付けて比較最上級компаративといい、他の何かと比較が考慮されている場合である。Он бывал и в худшем состоянии.(彼はもっと悪い気分のときもあった)。これらの二つの用法はどんな形容詞でも現れるわけではなく、上記の他に程度を示すвысокий, длинный, богатый, лёгкийなどの形容詞に見られる。見分け方は簡単で、богатейший человек мира(世界一の金持ち〔最上級〕)とбогатейший человек(甚だしいお金持ち〔強意最上級〕のように、真の最上級は世界のとか、日本のとか限定詞があることが分かる。口語では誇張の表現にこのような最上級が出やすい。これを訳すときに自動的に「世界一」、とか「一番~である」と安易に訳しては誤訳になる可能性もあるという事を知っておいてほしい。
ロシア語もある意味で厳密な言語で、最上級を用いるのは地球でとか、世界でとか、日本でとつけても、本当に世界一、日本一かどうかは調べるのが簡単ではない。記録はすぐ破られるからだ。それでодин (одна, одно) из + 最上級というような表現をよく見ることになる。この訳し方だが、одна из крупнейших городских сетейを「市内最大のチェーンの一つ」と訳しても悪くはないが、「市内最大級のチェーン」とした方がすっきりすると思う。みんながみんな「~級」と訳せるわけではないが、こういう訳もできるという参考に書いておく。この他に「市内有数のチェーン」とも訳せる。通訳の現場では訳は時間の制約もあって自動的にせざるを得ないが、閑な時に他の日本語では他に適訳はないのか、露和辞典の訳に拘束されず、露露辞典の定義から文脈に応じた自然な訳を考えてみるのも私など年寄りのボケ防止になるのではないかと考える今日この頃である。
設問)「一カ月にわたって委員会は事故の原因を調べた」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2011年06月17日 05:42
コメント

さとう先生

Целый месяц коммитет рассматривал причину несчастного случая.

よろしくおねがいいたします。
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出題のポイントである体の用法は完璧に理解されていますから、これでほぼいいのですが、рассматривалというのは、「検討する」という意味ですから、事故の結果(評価)が出てそれを検討していたというニュアンスです。設問は事故の原因究明ですから、その点が少し違うと思います。これまでの回答を見る限り会話で使う体についてはほぼ卒業という感じです。ただ感覚的に正解が出るのか、理詰めで正答がでるのかは分かりませんが、会話では結果オーライならそれでいいと思います。通訳を目指すなら後は類語の使い分けや運動の動詞を徹底的にやればいいと思います。それもこのコーナーを100回ぐらいまで練習すればパターンは出尽くすはずですから、自分なりに語彙を増やすということになります。それと通訳する場合、初歩的なことですが、このような短文をプロはほぼ1~2秒で答えなければならないということです。答えがでなければちょっと長く説明してでも答えるという、反射的に答える練習をそろそろ始めたほうがいいと思います。そのためには語彙を増やすしかありません。私の答えと解説は、В течение месяца комиссия выясняла причину катастрофы.
これは不完了体過去形のимперфект(フランス語文法なら半過去、英語なら過去進行形や一般的過去形に近い)という用法でロシア語には大きく二つあると言われている。繰り返しや一般的動作(反復・習慣)と、設問にあるような過去のある時点から過去のある時点への動作の継続(一定の期間内の具体的1回の動作)である。時間の長さを示す表現はいくつかあるが、基本的なもので、一つは「~の間に(完了する)」Двадцать пять километров я прошёл за семь часов.(25 kmを7時間で歩いた)というように、за + 時を示す数詞や名詞の対格が普通で完了体が来る。これに в + 対格(月名は使えない)を用いてもよいが、集中的なニュアンスが出る。設問のような場合は、時間に関わる名詞句を前置詞をつけずに対格に置くのが普通である。Семь страниц я переводил два часа.(2時間7ページ翻訳していた〔訳し終えたということではなく、訳し続けたという意味である〕)、в течение двух часовとしてもよい。в течение + 生格は完了体も来ることがある。В течение жизин он прочитал более 200 тысяч книг.(彼は生涯で20万冊の本を読破した)。時の用法について私が読んだ参考書でベストなのはСпособы выражения временных отношений в современном русском языке(現代ロシア語における時制対応表現法), Всеволодова, Издательство Московского университета, 1975で、これは時の表現について非常に細かく解説した名著。「~まで」と言う意味のпоと доの違いなどにも触れている。

Posted by asuka at 2011年06月17日 20:36

投稿中にブラウザが妙なことになり、ダブって投稿しているかもしれません。
その場合はこちらを活かしてください。

(訳)
Комиссся расследовала причину аварии за месяц.

на протяжении месяцаを使おうか迷いました。
簡潔さを優先しза+対格でいきます。

過去における過程を表わすので、不完了体過去形を使いました。

комиссияとкомитетの違いも勉強になりました:
前者は特別な任務のために設けられた機関、
後者は国家機関などに常設されているもの
(研究社842頁、オージェゴフ233頁)

と、ここまで書いてasukaさんの回答とさとうさんの解説を拝見しました。

>за + 時を示す数詞や名詞の対格が普通で完了体が来る
за+対格で不完了体を持ってくると、
反復、習慣的動作になってしまうんですね(研究社568頁)

в течении+生格と
на протяжении+生格は同義のようですね。

語順は日本語原文と同様「1か月にわたって」を頭に持ってきた方が良いのですね。
頭にもってくると期間を強調する気がしましたので(原文もそういうニュアンスな気が…)

ありがとうございます。
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на протяженииもв течениеも同義ですが、使用例はв течениеのほうがはるかに多いと思います。в течениеはビジネスレターで納期を重視した表現のときに語末にくることがありますが、通常文頭で、文中という例もあります。普通は新しい情報(レーマ)が語末に来るということを覚えておいてください。расследовать = подвергать всестороннему рассмотрению (изучению, исследованию)ですから、徹底的に検討(吟味、研究)という意味なので、同じ理由を知るにしても、そう簡単には分からない仮説、理論を研究するという意味で少し意味が違うように思います。

Posted by コーシカ at 2011年06月18日 23:22

>на протяженииもв течениеも同義ですが、
>使用例はв течениеのほうがはるかに多いと思います
わかりました。今後は意識して見てみます。

расследоватьを引くと
うちの露露(科学アカデミー4巻本)にも同じような説明が載っていました。
研究社でпричинаを引くと(1,766頁)
расследовать [установить, выяснить, вскрыть, найти, искать] причину пожара.
火事の原因を調査する[突きとめる、あばく、解明する、発見する、探す]
とあり、そのまま使ってしまいました…
(露露が使えるのだからこそ)辞書の例文であっても裏を取る、
という姿勢が大切なのですね。

いい機会なので岩波、ЗиРも調べてみました:
岩波1,491頁
Причина пожара была неясна.
火事の原因は不明だった。
Выяснить причину.
原因を解明する。
(こちらを見ていればあるいは正解だったかも…)
ЗиРには
…該当する例文がありませんでした。

Posted by コーシカ at 2011年06月20日 23:17

В течение месяца комитет расслевовал
причины происшествия.
Комитет провёл расследование причин аварии один месяц.
一ヶ月にわたって、とあるので。でも、そのままでもいいような。動詞はсовのつもりですが。
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「1カ月にわたって調べた」というのは、必ずしも動作が遂行されたことを示しているわけではなく、過去における動作の継続です。それだと不完了体過去形を使うことになります。ところが1カ月で調べたなら、文脈により、アオリスト的用法か結果の現存で、за месяц + 完了体過去形となり、動作が遂行されたことをしまします。
 в течениеには露露辞典によれば、二つ意味があり、一つは на протяжении で設問と同じく、ある期間ずーっとという意味で、二つ目は、その期間の間に(一つの動作)が行われるというものです。一つ目の意味には不完了体が、二つ目の意味には完了体ないしは不完了体が来ることがお分かりになると思います。
 一つ目の意味の時で不完了体を使うときには、おっしゃったように前置詞をつけずに時間的意味の名詞を副詞のように使えます。заは完了体とともに使うのが普通です。

Posted by ゴ at 2013年02月17日 23:09
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