2011年06月08日
●和文解釈入門 第34回
初めて書いたロシア語の参考書は「アネクドートに学ぶ実践ロシア語会話」であり、思いのほか売れたらしく、出版社では第2版を出すことにしたが、お客様からの要望という事で、力点を打つことになった。それまでは打っていなかったわけである。別に力点を打つぐらいは何でもないのでオーケーして、それ以後の参考書や会話集にも力点を入れているが、馬鹿げた話である。力点を入れて少しでも得をするのは読者ではなく、著者なのである。校正もいれたら4、5回原稿を読み直すことになるので、忘れかけた力点の復習になるからだ。ネットなどでも「アネクドートに学ぶ実践ロシア語会話」の初版に力点が打っていないのはとんでもないと書いた人がいたが、趣味でロシア語をやるならともかく、プロを目指すなら、力点ぐらい辞書を引いて自分でコツコツ入れて、単語のスペルと力点を覚えるようにしないと、せっかく語彙を覚えるチャンスを失うばかりだ。いかに楽に(効率的にと読み替えてほしい)勉強するかというのは決して悪いことではないが、語学をやる上で重要なのはいかに多く、深くかつ広範囲に語彙を覚えるかであり、そのために辞書を引くのが役立つはずである。特にやる必要もない著者だけが力点の復習をして何になるというのだろう?力点が打ってあれば、力点が何度も目に入り自動的に覚えられるというならそれでいいが、分かるまで何度も辞書を引いた方が覚える確率が高いと思うがどうだろう。上級を目指すなら露露辞典を引けるように勉強すべきだし、それならなおさら露和辞典を引く練習を積み重ねるべきである。語学に王道なしである。そうはいうものの力点付けに加担した身にとっては、世の中の流れに抗すべきもない。露文の振り仮名付けについては中級ぐらいの学習者から読みにくいという声も聞くが、力点を外せという声は聞こえてこない。それで一応ここで問題提起をしておく。
старый другとстарший другの違いは、前者は古くからの友人で、後者は年上の友人。твёрдый сплавをлёгкий сплав(軽合金)から判断して勝手に硬合金と訳すと笑われる。これは超硬合金と訳す。плоскостьは平面という意味ならпрямая на плоскости(平面上の直線)のように前置詞はнаを取るが、точка зрения, сфераという意味なら、вを取る。искать всё-таки в иных плоскостях(それでも別な考え方を探す)。ちなみに複数形では生格以降語尾に力点が来る。前置格ではя。
設問)「ここは滑りやすいから、転ばないように注意してください」をロシア語にせよ。
さとう先生
Здесь скользко. Смотрите, чтобы не упасть.
よろしくおねがいいたします。
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正解です。完了体の体の用法もほぼ理解しているようで、少なくとも実用上は全く心配ないレベルです。後は応用ができるように理屈を覚えておけば迷った時に、自信を持って使いこなせるでしょう。ただもっと簡単にも言えます。私の回答と解説は、
Здесь скользко, (смотрите) не упадите!
完了体命令形の否定は警告「うっかり~しないでください」の意味しかない。Будь внимательный!(注意してください)とかБудьте осторожны!(気をつけてください)というようなニュアンスが含まれているということになる。例えば、Не простудитесь!(風邪をひかないでください)などである。それゆえ警告の意味はたやすく懇願の意味に比重が移る場合もある。一方不完了体命令形の否定は不必要性、好ましくない事(禁止)を示す。だから二つの体が用いられる可能性があれば、意味にニュアンスの違いが出る。
Не опаздывайте завтра, в нашем распоряжении будет очень мало времени.(明日は遅れないでください。時間があまりありませんから) → 好ましくないこと
Смотрите, не опоздайте завтра, мы не сможем вас ждать.(明日はうっかり遅れないでくださいね。あなたが来るのを待っていられませんから) → 警告 → 懇願(強い頼み)
分かりやすく言えば、明日受験だとしたら、不完了体の否定形を使えば、絶対に遅れるなという感じだし、完了体の否定形なら、大丈夫だと思うけど、うっかり遅れないでねという感じであろう。一般に不完了体の否定形は強く響くので、遅れるなという意味では個人的にはあまり使わない。
久々に投稿させていただきます。
まずは回答から
Смотрите, пожалуйста, не упадите. Потому что здесь скользко.
скользкоを研究社で引いたら、そのものズバリが載ってました…
なんで完了体なんやろ、とпадатьも引くと、
「注意、警告の意の完了体」とありました(1398頁)。
…いまいちわからんなぁ
第10回の一覧を参考に自分なりにまとめてみると
1)「気をつけて!」という話者と
そう言われることを予想していない聴き手との間には共通認識がない:
その場の雰囲気から当然、ということにはならない
2)話者と聴き手の目の前で誰かがすっ転んだわけでもない:
不完了体を導くサインがない
3)「気をつけて!」「転ばぬように」は具体的動作
→よって完了体の命令形がふさわしい
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>力点ぐらい辞書を引いて自分でコツコツ入れて
激しく同意です!!!
露文を読む際、辞書で調べた語には必ず力点を入れ、読了後に音読していた時期があります。格変化による力点移動をはじめ過去形、形動詞などなど
アクセント見るんに何べん辞書引いたか…
でも
おかげで被動形動詞過去になった時に-ённыйになるパターンが
何となく読めるようになりました:
語幹の末に力点のある動詞はそういう傾向があるように思います。
>твердый сплав
ドイツ帰りで向こうの俗語に堪能な方と仕事をしたことがあります。
その人もドイツ語の「超硬工具」という語を見て、
(hartmetallwerkzeuge)
「めっちゃ硬い金属の工具」としっかり語訳してくれたのを思い出します。
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asukaさん、はじめまして。コーシカと申します。
立て続けに投稿されているのを見るといい刺激になります。
今後ともよろしくお願いいたします。
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訳は完璧です。しかも体の用法の理解も私より徹底的です。わたしはそれほど深くは考えてはいないので、いろいろな見方があるなと思った次第です。解説はasukaのほうが早かったので、それを見てください。
コーシカさん
はじめまして。asukaです。ブログ拝見致しました。
こちらこそいい刺激になりました。
どうぞよろしくお願い致します。
Здесь скольско. Осторожно, не упадите.
自分で言うときはоткудаやкакで言うのに!でも、почемуと言ってはいけないことは知りませんでした。
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скользкоのタイプミスです。発音上は変わりはありませんが。откудаとпочемуの使い分けについては、ロシア人は間違えませんし、おかしいと指摘してくれるでしょうが、なぜそうなのかを説明できるロシア人はロシア語学者は別でしょうが、いないでしょう。理由が分からなければ、例文の丸暗記が果てしなく続くことになります。