2011年06月08日
●和文解釈入門 第33回
いくら語彙を増やしても、基本的な体の用法や被動形過去短語尾の使い方が分からないと、いつまでも挨拶程度のロシア語のままであり、実用的な会話ができない。前回は工場案内や観光案内でもよく使われる被動形過去短語尾の結果の存続について出題した。これに関連して、被動形動詞過去の短語尾と完了体過去形の違いについて書いたものを見つけたので紹介しよう。РозентальはСпоравочник по русскому языку Практическая стилистика, ОНИКС, 2008(ロシア語参考書実用文体論)の中で、「私は指示を与えた」の二つの文Мною дано указание.とЯ дал указание.を挙げて、Я дал указание.に比べてМною дано указание.は文学や実務的発話で用いられ、断定を避け、より表現を和らげる形であると書いている。
またニュースなどでよく目にするМною был подписан указ.と過去形のбылを入れれば、動作が発話以前に終了したことを意味するだけで、実際はともかく、話者の意識の上では「たった今~した」という意味はなくなり、たんに「私が政令に署名した」ということになる。被動形過去短語尾については5月に出た「ユーラシア研究」第44号に「観光ロシア語」と題して観光でよく使われる表現を2ページほどのエッセーに書いたので、ご興味のある向きはご一読を。
「模様」には普通はузорを使うが、これは細い線、滑らかなラインの繰り返し、調和が取れており、表面全体に及ぶ、ロシア文化的なものを指す。узор на крыльях бабочки(蝶の翅の模様)、русские узоры(ロシア的模様)で、ガラスについた霜はморозный орнамент (узоры) на стекле(ガラスの霜模様)とорнаментも使える。орнаментは幾何学的、動植物のパターン化・繰り返し、くっきりとしたリズムのある、または各民族の文化による模様で、ロシア的な模様はузорである。греческий (египетский) орнамент(ギリシャ的(エジプト的)模様)、растительный (животный) орнамент(植物(動物)的模様)、лепной орнамент(塑像の模様)。常に複数形で使われるразводыは大きめの模様で、境目がはっきりしない模様で、черный с лиловыми разводами(紫の模様が入った黒の)などと使う。рисунокはузорの同義語で、рисунок концентрических кругов(同心円の模様)といい、他にгеометрические фигуры(幾何学模様)、唐草模様はарабескиといい、手の込んだ模様は口語でвычурыという。
果物はфруктыだが、これは木になる(低木性のキイチゴも含めて)もので、ягодаはイチゴ類であり(キイチゴなどの低木性や草本性のも含む)、厳密に言えば両者は意味が重なる。日本語の液果(漿果)は、ナッツ類と対応するもので、木本性や草本性を問わない。英語のberryにはイチゴ類という意味と液果という意味がある。イチゴ、バナナ、トマト、ブドウはみなberryである。ягодаには総称的な意味もあるが、通常はягодыと複数形で使い、イチゴなどの実が複数あることを示す。лестницаには「階段」と「梯子」という意味がある。ставить лестницу к стенке(梯子を壁に立てかける)やкласть лестницу на землю(梯子を地面に置く)、спускаться по леснице(階段を下りる)である。この頃テレビや動物園でも人気のヘビクイワシを訳すと一見орёл-змееядとなりそうだが、正しくは(птица-)секретарьであり、орёл-змееяд (= карачун) ハラジロワシである。これなど学名を調べれば分かる。
設問)「どうしてそれを知っているのですか?」をロシア語にせよ。
さとう先生
語彙をふやしても、それが実際に使いものになってないなーと感じることがよくあります。
新しい語彙を覚える気力が失せてしまいます。いろいろながっかりを受けいれながら
勉強を積んでいかなければ、進歩していかないのですね。
Почему вы знаете это?
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かなりロシア語の実力がレベルアップしていればこそそういう疑問が生まれます。 いたずらに語彙を増やすのではなく、基本語彙を徹底的に会話で使えるようにするべきです。よく2000語覚えることを目標にしている人がいますが、趣味でロシア語をやるなら別ですが、無意味です。それよりもбратьの語義16を覚えたほうが実戦では役立ちます。もっというと16全部も要らないのです。その中で会話で使うもの(активный запас слов)を例えば7、聞き取り用(пассивный запас слов)に14ぐらい覚えるとか、優先順序をつけて覚えるようにしたほうがいいのです。このコーナーの例文は会話で使えるものを選んでいますので、これを通勤・通学のときに覚えるようにするというのも一つの手です。いたずらに語彙を増やすのではなく、自分の日常の日本語がロシア語で100%言えるかというのに重点を置いたほうが実戦的です。さて、asukaさんの回答は誤りです。こういうひっかけ問題は作りたくはないのですが、ロシア語として非常に重要な、根本的な問題を含んでいるということと、多分学校でも教えていないだろうというので出題しました。私の回答と解説は、
Откуда вы это знаете?
Почему вы это знаете?は誤りである。считать, думать (что), полагать, подозревать, сомневаться などのグループを推定の状況語путативы, путативные предикатыといい、一言で言えばмнение「意見」で代表される。これらはзнание「知識」で代表されるзнать, понимать, сообщать, догадываться, известно, пониятноなどの事実の状況語фактивные предикатыと対立する。推定の状況語の特徴を挙げてみると、(*は文法的に誤りの文を示す)
a) 間接疑問文とは一緒に使えない。「どうしてそれが彼に必要なのかと僕は思う」とは言えず、「どうしてそれが彼に必要なのか僕は知っている」となる。
*Я считаю, зачем это ему нужно. → Я знаю, зачем это ему нужно.
b) 理由を示す状況と共に使えるが、情報の出所(情報源)を示す状況語とは共に使えない。「なぜそう思われるのですか?」や設問の「どうしてそれを知っているのですか?」は、
*Откуда вы так считаете? → Почему вы так считаете?
*Почему вы это знаете? → Откуда вы это знаете?
c) 評価の副詞で正否を示すものправильно, неправильноとは結びつくが、一般的肯定的評価を示す副詞хорошо, прекрасно, отличноとは結びつかない。「時期を逸したと彼が考えるのは正しい」や「時期を逸したということを彼はよく知っている」は、
*Он хорошо (прекрасно, отлично) считает, что момент упущен. → Он правильно считает, что момент упущен.
*Он правильно знает, что момент упущен. → Он хорошо (прекрасно, отлично) знает, что момент упущен.
ロシア語における「知識」は、自然にできるものではなく、どこからか得るものであり、「意見」は具体的な人の意志の力により形成されるものだという考えかたがあり、これが各状況語の語結合に大きな影響を及ぼしている。「知識」はよいか、すばらしいかであって、正しいか否かという考え方はせず、「意見」も「よい意見」ということではなく、正しいか否かという判断をするのだということになる。
Почему вы узнали об этом?
Почему вы знаете об этом?
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ご回答は間違いです。これらが間違いだということを大学でも、ロシア語学校でも教えていないような気がします。『和文露訳入門』8-4項は33回の回答を基に書かれたものですが、より整理して書きましたので、そちらの方もご一読ください。