2011年04月24日

●日本の心 第26回

(122) 「函館・ロシアその交流の軌跡」、清水恵、函館日ロ交流史研究会、2005年
若くして世を去った清水さんの生涯をかけた力作。この著書のおかげで、幕末の箱館奉行所のロシア語通訳志賀浦太郎がロシア語の通訳者育成を命じられ、合田光正(1847~1908)がその門下生となったことが分かる。当時ロシア語の通訳となって箱館奉行所に採用されたのは、志賀を除き、合田、千葉弓雄、若山弁太郎のみであり、ニコライ師も彼らにロシア語を教えたという。北洋漁業のメッカだった函館についていろいろな事柄が丹念に裏付けされているが、特に湯の川のトラピスチヌ修道院の近くに旧教徒が住んでいたなど知らなかったことが多く、教えられ、ほんとうに惜しい人を亡くしたと思う。本書の初めに出て来る「2人のマホフとフィラレート司祭」について、同じ函館のロシア人を扱った「函館や北海道のロシア人、欄外のメモРусские в Хакодате и на Хоккайдо, или заметки на полях」, Хисамутдинов, Издательство Дальневосточного университета, 2008の中で、著者のヒサムヂーノフはワシーリー・マホフとロシア文字を函館で出版したイワン・マホフは親子関係になく、ワシーリーは戸田で遭難したヂアーナ号の司祭であって、函館とは関係がないと書いており、また修道司祭иеромонахフィラレートは1860年函館で最初の教区を開いたが、函館が嫌いだったようで、1861年10月31日にはウラジオに戻っているとある。その後のフィラレートについても若干記載されており、このことを清水さんは知らなかったようだが、いろいろな知見を組み合わせてもっといろいろな研究が清水さんの手で世の中に出たのではと夭折が本当に惜しまれる。いずれにせよこの二つの書を通じて19世紀中ごろの函館の様子がロシア側の資料からよく分かるといえる。

(123) 「ロシア艦隊幕末来訪記」、ヴィシェスラフツォーフ、長島要一訳、新人物往来社、1990年
1859年ムラヴィヨーフ東シベリア提督のひきいるアムール艦隊の船医として訪日した著者の日本印象記。このときにロシア人士官1名と水兵1名が浪士に暗殺された。外国人襲撃事件で犠牲者が出た最初の例である。本書の訳者の長島要一氏の訳文および解説や注が非常に良い。

(124) 「ロシア人の見た幕末日本」、伊藤一哉、吉川弘文館、2009年
 幕末の日ロ関係を知る上で欠かすことができない人物である初代駐箱館領事ゴシュケーヴィチ(1814~75)について、ロシアの史料を駆使してその人物像を描いた傑作。ゴシュケーヴィチはプチャーチンとともに1852~55年および領事として1858~62年夫妻で滞日し、和魯通言比考(橘耕斉との共著)などの著作もある。、また1860年江戸から箱館までの陸路(駕籠での)の旅行や対馬事件、1862年の徳川家茂への謁見など貴重な記述がある。ロシアの史料館で行われている特殊な分類法の説明など、こぼれ話も非常に面白い。

(125) 「開国―日露国境交渉」、和田春樹、日本放送協会、1991年
 プチャーチン使節を中心に、日露国境交渉の歴史を分かりやすく説明したもの。プチャーチンとペリーの競争意識、当時の米露日の状況がよく分かる。

(126) 「ロシア人の日本 Русская Япония」、ヒサムヂーノフА.А. Хисамутдинов, Вече, 2010
 著者はすでにこのテーマで「箱館や北海道のロシア人、ないしは欄外の注Русские в Хакодате и на Хоккайдо или заметки на полях, Издательство Дальневостоного университета, 2008や「ロシア人の長崎、ないしは稲佐での最後の停泊Русский Нагасаки или Последний причал в Инасе」, Издательство Дальневостоного университета, 2009を書いており、まだ横浜と東京編の出版を予定されていると聞く。私は函館生まれであり、個人的に内容が興味深いのは当然だが、末尾の取材日記は外国人による最高級の日本印象記であり、日本の観光案内としても大いに役に立つと思う。本書は箱館(現函館)、長崎、横浜、東京など日本に足跡を残したロシア人についてまとめたものである。惜しまれるのは日本語の読みについて20か所近く間違いがあることである。これについては著者に指摘し、感謝され、お付き合いをいただくきっかけとなった。今回の大震災についても丁寧なお見舞状をいただいたことを申し上げておく。

Posted by SATOH at 2011年04月24日 13:36
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