2011年03月03日

●和文解釈入門 第18回

「ロシア語基本熟語500」という本を2009年に出したが、出してからこういうことを言うのはどうかとは思うけれども、こういう熟語集は体の用法を理解していないと使いこなせないものである。かといってまえがきに体の用法を簡単に書くという訳にはいかない。そこで遅ればせながら会話で使う簡単な和文露訳についてこの和文解釈入門というコーナーを設けたという次第である。しかしこのコーナーを開設した直接のきっかけは別にある。それまでは体の用法というのはロシア語をやりだしてから3~4年しないと理解が難しいのではないかと自分の経験から考えていた。そうなると興味を持つ人も限られてくるし、文法を敬遠する人が多いというのも承知している。ただ簡単な会話の和文露訳をするにしてもどちらの体を使うかの基準がわかっていないと、文をいくつも理屈抜きで丸暗記せざるを得ず、二十歳を過ぎた人には、仕事でロシア語を使うとかの刺激や動機がない限りロシア語の勉強が続けるのが難しかろうとも感じていた。
比較的最近メーカーのモスクワ駐在員候補生にビジネスロシア語を教える機会があった。若い人で、英語はできるようだったが、ロシア語をやったことがなく、社命で2ヶ月間日本で日本人教師からロシア語のイロハを習い、そのあとモスクワの外国人専門のロシア語学校で6カ月間語学研修を受けたという。モスクワの先生は英語はできず、ロシア漬けの毎日だったとも聞く。こういう風に金槌の人がいきなりプールに突き落とされと、そのまま沈んでしまうか、なんとか泳げるようになるかどちらかだが、その人は優秀な成績で帰国した。その会社では現地社員のロシア人を除けば社内でロシア語のできる人はいないため、ビジネスロシア語を1日5時間11日間教えるように頼まれたわけである。カスタムメイド(そのメーカーの製品を中心にした語彙構成)のビジネス会話を教えるにあたって、子供相手ではないので、ビジネス会話を効率的に覚えてもらうため、体の用法を試しに教えてみたところ、理詰めと言う事もあってよく理解してくれた。ロシア語での自社の製品紹介、商談で使う言い回し、会話以外にも、和文解釈ではない、ビジネスメールでの和文露訳(クレームレターの処理まで)も教えたが、手応えは十分にあったと感じている。また教えた語彙はエクセルにして和露でコーパス(文例を入れた語彙集)を作って、赴任まで復習しますと言っていた。
 こういう例があるので、まじめに半年か8カ月ロシア語をやれば、体の用法を日本語でも理詰めに説明すれば、理屈抜きで暗記するというよりは会話の上達に効果があるのではないかと考え、このコーナーを立ち上げたわけである。そうすれば当初考えていたより関心を持ってくれる方々もより広範囲になり、このコーナーによってロシア語の文法に興味を持ってくれる人も増えるだろうという期待もある。これまで何人かの方々からの反響もあり、それには本当に感謝しているが、反響がなくなった時点でやめればいいという気持ちもある。自分で設問を出して解答を示すという一人相撲をする意味はないし、必要とされないものを続けていくつもりもないので、どこまで続くか取り敢えずやってみようと思う。
 ちなみにまじめに半年か8カ月ロシア語をやるというのは、例えばNHKのラジオ講座のテキストを暗記し、1/3ぐらいでも頭に残っているということである。丸暗記するなと言っておいて、暗記させるのかと言う人もいるかもしれないが、体の用法も含めてロシア語に疑問を持つためには、そして説明を理解するためにもロシア語に関して頭が空っぽでは困るのであって、ベースになる用例をある程度覚えていないと体の用法どころではないという事はご理解いただけるだろう。英語だって中学校の教科書ぐらいを暗記していれば、日常会話で困ることはないというではないか。ロシア語も同じである。ただそれ以上にロシア語の力をつけたいと考えるなら、なぜそうなるのかということを突き詰めて考える必要がある、つまりそのためには文法をしっかりやる必要があるのだと私は思う。
設問)「猛犬注意、立ち入るべからず」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2011年03月03日 23:05
コメント

Злая собака осторожно!
Нельзя входить!
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正解です。このように短時間で正解が出るとは思いませんでした。ただあえて重箱の隅をつつくようなことをすれば(заняться крохоборствомとでもいうのでしょうか?)、Осторожно, злая собака!とでもしないと書いたロシア語としては文法的におかしいと思います。正解としたのは、このコーナーは本来書くものではなく、会話を対象にしているため、Залая собака! Осторожно! Нельзя входить!と聞こえればということです。私の答えは、Не входить - злые собаки! これはロシアの街で、泥棒除けや訪問者などのために書いてある文句です。このように禁止を示すのは、否定詞 + 不完了体である。否定という文には基本的に不完了体を使い、不可能であれば完了体が出て来るというのは前に説明した。定動詞を否定する場合は、否定詞 + 不定動詞に変わると言う事もついでに覚えておこう。動作の完全否定になるからだ。Иди!(「行け」ないしは「来い」)は Не ходи!(「行くな」ないしは「来るな」)となる。Не иди!を使うときは、歩いていて、その方向にそれ以上行くなという意味になる。日常でよく使うのは泳いでいて、Не плыви!は「(そのままその方向にそれ以上)泳ぐな」ということで、不定動詞の否定命令形だとНе плавать!(遊泳禁止)である。不定形の命令というのはかなり強い。禁煙はНе курить!で、直訳すると「禁煙すること」であり、この意味をやや弱めるとУ нас не курят.(ここは禁煙です)となる。日本語でも名詞だけや、体言止め「~こと」というのは簡潔だが、意味の強い命令であり、偶然かロシア語にも同じ用法がある。ロシアに滞在している時はできるだけ散歩して、このような看板や標語をメモするとよい。辞典を引かなくても意味は分かるものが多いし、和露辞典には載っていないものもある。博物館にはРуками не трогать!(手で触れるべからず)というのがあり、不完了体がなぜ使われるかはお分かりだろう。ちなみに、「部外者立ち入り禁止」はПосторонним вход воспрещён.となる。出口はвыходだが、地下鉄の駅の中ではвыход в городとあるのに、地上側ではНет входа.と書いてある。これなども発想の違いだろう。拙著「そのまま使える!ロシア語会話表現集」159ページに看板などのコレクションの一部を挙げておいた。

Posted by 市川健 at 2011年03月04日 21:09
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