2010年10月25日

●ロシア語珍問奇問 第11回

和文露訳をするときに、和露辞典で引くときに水素というのはводородで、1語対1語で対応するからいいということを前に述べた。しかしレンズを引くとлинза, объективが載っている。これだけでは同義語なのか類義語なのか説明がない。同義語ならそれでよいが、類義語なら使用上の差を説明してもらわないと和文露訳の際に役に立たない。линзаはレンズそのものであり、объкетивは光学器械(カメラや顕微鏡)の一部としてのレンズだから、カメラのレンズはфотообъектив (объектив фотоаппарата)であって、линзаとはいわない。だから望遠レンズはтелелбъективという。メガネのレンズはочковые линзыとかлинзы очковという。この両者の違いが分からないと和文露訳では使えないことになる。基本語で訳語が1対1で対応するものはあまりないし、そういうものは覚えるのが簡単だから問題にもならない。和露辞典においては動詞や名詞にしろポツンと挙げられても、動詞なら次にどのような名詞の格がくるのかとか、どういう前置詞を要求するのか、例文付きで書いてもらわないと使えないということである。こういう事が起こるのは辞典の編集者が実際のプロ(通訳がガイド)の仕事の現場をよくご存じないからではないか。これは専門用語のことばかり言っているのではなく、イカ、イチゴ、イモ、ウサギ、オイル、ガラス、機械、雲、コイル、工場、ゴム、坂、サクランボ、絞り、大学、ダイヤ、ドリル、ネギ、ネズミ、箱、バネ、ブルーベリー、ピン、マス、虫、レンズなど日常で使われる言葉でもあてはまることである。つまり一般的な事柄や雑談などにおいても和露辞典が使えるのかということである。単語だけ並べるならともかく、まず使えないだろう。だから分からないときは逆説的だが、勘で露和辞典でキーとなる単語を引いた方が和文露訳では役に立つ場合が多いのは皮肉である。第2回で軽油はдизельное топливоであると書いたが、面白いことに和露辞典では、コンラッドのであれ、ラブレンチェフのであれ、コンサイスであれ、лёгкие масла, бензин と書いてある。前者は「軽い潤滑油」であり、後者は、「ガソリン、ないしはベンジン(これとて工業用ガソリンの一種だけれど)」である。嘘かほんとか、試しに露和辞典で、дизельное топливо, бензин を引いて見るとよい。лёгкие масла というのはмаслоのところでも見つけられないと思う。軽油というものが何かを知ろうとせず(百科事典を引く手間を惜しんだか)、既存の和露辞典の引き写しをしていることがよく分かる。これだから技術用語では危なくて和露辞典はまったく使えない。それ以外でも仕事関係では英露の技術辞典や露和辞典はよく使うが和露は全く使わない理由である。和英辞典も同様英作文には使えないと思う。だからロシア語でも和露辞典よりも新編英和活用大辞典(市川繁治朗、研究社、1995年、38万文例収載)のような語結合の辞典を出版してくれるとロシア語作文にははるかに役に立つと思う。

Posted by SATOH at 2010年10月25日 18:34
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