2010年10月22日
●ロシア語珍問奇問 第10回
技術通訳をしていて、いざロシア語にしようとして一見何でもない単語で詰まることがある。ピンなどもそうである。日常会話なら安全ピンбезопасная булавкаもタイピンもбулавка для галстука というからбулавкаあたりでまあいいやと思う(それでもヘアピンはзаколкаとかшпилькаというけれど)。ところが技術用語のピンだと具体的に何のピンかが分からないと訳が決まらない。テーパーピンならконический штифт、ピストンピンならпоршневой палец、割りピンならшплинт、コッター(ピン)ならчека、ノックピン(位置決めのピン)ならштырь, штифт, установочный палец, установочный штифтという。日本の商社やメーカーでは英語ができて当たり前で、技術スペックや資料は英語が多いが、すぐロシア語になると考えている素人は多い。英語の技術用語はロシア語の技術用語と同じように対応する(日本語のポンプ〔ロシア語はнасос〕のように少し発音を変えればよい)と無意識に考えている人も多い。英語のスペック(仕様書)にあるcutter(カッター)というと、ножを思い浮かべるかもしれないが、技術用語では、фреза(フライス)、резак(ガス切断用の切断トーチ、ガスバーナー)、резец (= режущий инструмент彫刻刀や工作機械のバイトで、バイトはドイツ語由来の言葉)、отрезной круг(丸のこ)といろいろあり、具体的にどのようなものか分からなければ訳も決まらない。テーブルはстолだが、上にローラーがついていて、その上をパイプなどが移動するようなものはрольганг(ローラーテーブル、ローラーコンベア)というし、ロールでも、ガイドロールはнаправляюший роликでよいが、圧延ロールはвалокという。ローラーも普通はроликでよいが、道路工事で使うものはкатокというなどである。翻訳会社で技術をよく知っているところでも、図面を見ないと基本的な訳が決まらないはずなのに質問一つせず、やっつけ仕事でやり、それに対してメーカーの人はロシア語が分からないからかそれで通っているということもある。翻訳の資料とロシア人技術者が使う用語が全然違うということはよくあることである。技術通訳するときにロシア語の資料がありますからと言われても、あまり役に立たないことが多い。