2010年09月12日
●日本の心 第4回
露文のものは除いて、観光ガイドの参考になると思われる200冊ほどこの半年に読んだ。それらを紹介するつもりだが、行き当たりばったりに読んだわけではない。一つ読めば、その後書きや解説に、似たような参考文献について書かれてあるのが普通なので、それを参考に読み進んだわけである。読んだものをテーマ別に分けて挙げる。
(6) *「タテ社会の人間関係」、中根千枝、講談社現代新書、1967年
日本の社会を個人的な資格よりも会社などの場を優先にするタテの社会としたのは非常に先見の明がある指摘である。そのため日本では能力主義が極めて限定された枠内で行われているとか人間平等主義が日本人の民主主義であるという主張には考えさせられる。ただタテの社会を上意下達としている指摘は、稟議制に触れてはいるものの、そのチェック機構や、根回しに全く触れていないということで、それは著者が研究者であって、実際に日本の会社で働いたことがない所以であろう。義理人情の理解には必読の書。
(7) 「日本および日本人」(福田恆存評論集第4巻)、福田恆存、新潮社、1966年
日本人は和合と美を生活の原理とする民族である、日本人は化に論理的に正しくても全体の調和を欠いたものに対しては本能的に疑いを持つ、自己主張は日本人の道徳観にとって醜いなどの指摘は参考になる。
(8) 「日本の思想」、丸山真男、岩波新書、1961年
1957~58年初出。日本では思想が伝統として蓄積されないとして、西洋のササラ文化に対して日本の文化をタコ壷文化と称しているのは面白い。そのタコ壷をつないでいたのが天皇制であり、臣民意識であるとしている。五輪の君臣、父子、夫婦、兄弟にタテの関係を、朋友にヨコの関係を見ているのも中根千枝よりも先に指摘している。
(9) *「日本美の再発見」、ブルーノ・タウト、篠田英雄訳、岩波新書、1939年
本書で感銘を受けるのはいわゆる「桂離宮の(美の)発見」というよりは裏日本や東北の紀行文である。当時の日本の様子が分かって面白い。
(10) 「ニッポン」、ブルーノ・タウト、森とし郎訳、講談社学術文庫、1991年
日本的なものに対しより客観的な見方で見るとどうなるかというのは大いに参考になる。他に、「日本文化私観」、ブルーノ・タウト、森とし朗訳、講談社学術文庫、1992年がある。
(11) 「つくられた桂離宮神話」、井上章一、講談社学術文庫、1997年
いわゆる日本趣味(質実、簡素、明快)もモダニズムの影響を受けているという指摘は非常に参考になった。東照宮など華美過ぎて日本趣味ではないというロシア人に説明するのも今後考えざるを得まい。
(12) *「能芸論」、戸井田道三、勁草書房、1965年
幽玄は詩歌・管弦の道とともに能から来ているため、この理解には本書を読むのがよい。離見の見など能のみならず日本文化の理解には不可欠な書。
(13) 「面とペルソナ」、和辻哲郎、講談社文芸文庫「偶像再興・面とペルソナ」所載、2007年
1935年初出。「表情を抜き去ってあるはずの面が実に豊富極まりのない表情を指名し始めるのである」や「顔面は人格なり」も玩味すべき言葉である。