2010年09月20日

●ロシア語珍問奇問 第2回

次の文は露文解釈ということではなく和文露訳をする場合という事を念頭において読んでほしい。油やオイルはロシア語では二つに分かれ燃料油はтопливоといい、それ以外の潤滑油、冷却油、洗浄用のオイル、食用油などはмаслоという。それゆえ軽油は正式にはдизельное топливо (縮めてдизтопливо)といい、ディーゼル用によく使われるからディーゼル燃料と訳しても正しい。それゆえдизельные маслаというのはディーゼルエンジンオイル(ディーゼル機関潤滑油)のことで燃料ではない。しかし口語では軽油のことをдизельное топливо とは言わない。普通はсоляркаやсолярという。これはсоляровое маслоの略称から来たものである。燃料なのにどうしてмаслоと使うのだとさっそく疑問を持たれた方は将来有望である。このように常にпочемуということを頭に浮かぶ人はロシア語に限らずうまくなるのは請け合いである。соляровое маслоは初め灯火油として開発された。太陽のように明るくというのが原意のようである。ところがこれが後に農業用(特にトラクター)の燃料、船舶用燃料、機械用潤滑冷却用に使われるようになった。日本語の灯油керосинも文字通り灯火用だったのが、今や石油ストーブの燃料などに使われているのと同じである。黒沢明の七人の侍の脚本の参考となったというファジェーエフФадеевの壊滅Разгромの中に、В лампе догорал керосин.(ランプでは灯油が燃え尽きようとしていた)という文もある。ただсоляровое маслоを岩波の露和辞典ではソーラー油と訳しているが、調べてみたがこういう用語はないようだ。意味が判然としないものを直訳として書いておくというのは、インターネットにもこのソーラー油という訳が散見されるから、誤解を招かないように軽油と訳し直したほうがよい。研究社のは「ソーラー油(ディーゼル機関用軽油)」としているからまだましだが、それにしてもソーラー油は余計だ。もしソーラーオイルとかソーラー油という用語があるなら、無論訂正してお詫びする。
 軽油が出たから重油の話をすると、日本では重油は税制の関係でA, B, Cの3種に分けているが、A重油は成分的には軽油とほぼ同じで、使用を農業用と漁業用に限定することを条件に無税にしたものである。B重油は残渣油(石油精製後の)と軽油を50%ずつ配合したものだが、最近は生産されないので無視してよい。C重油というのは残渣油が90%のものである。残渣油はロシア語でмазутといい、普通通訳するときはそれゆえC重油として差し支えない。鋼材とか燃料油などはJISやGOSTという日露の工業規格により細かく具体的に規定されており、国柄が違うので当然定義は似ているものがあっても一致しない。それゆえ日常にはできるだけ内容が近いものを用語として使わざるを得ないことが多々あるのである。ちなみにмазут にはфлотский мазутバンカー重油(C重油)と топочный мазут(ボイラー燃料油)があるが、ボイラー燃料油はおおざっぱにいえばA重油とC重油を混合したものである。

Posted by SATOH at 2010年09月20日 06:27
コメント

こんにちは。私は、エネルギー関連の仕事をしています。主にロシアから輸出される重油のM100について検索していたところ、当サイトに行きつきました。

ネットの検索で、M100は、GOST規格により定義された重油・マズートで、GOST10585-99などが該当することは分かりました。ただ、M100の100が何に由来する数字なのか(規格上のソート・コードなのか、意味のある数字なのかなど)が分かりません。もしご存じでしたら、ご教示願います。また、英語でも大丈夫なので、もしGOSTの詳しい内容(実際に重油をどのように定義しているか)が分かるウェブサイトなどがありましたら、ぜひ教えていただきたいです。

突然語コメントで申し訳ありません。よろしくお願いいたします。
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わざわざお尋ねいただきありがとうございます。重油は専門ではありませんが、ネットでмазут М100で検索しましたところ、下記のような説明を見つけましたので、お知らせします。
Цифры марки обозначают расчётную вязкость состава при определённой температуре. ГОСТом нормируется вязкость на флотский мазут при температуре 50 градусов, на мазут м 100 и м40 - при температуре 80 градусов.(グレードの数字は一定の温度での成分の計算上の粘度である。C重油の粘土はGOSTでは50度で規定され、M100およびM40は80度である)
 お役に立てるとよいのですが。当方でも何か助けていただくことがあるかもしれませんので、その時はよろしくお願いいたします。

Posted by むっち at 2013年03月07日 08:38

わざわざ調べていただいてありがとうございました。参考にさせていただきます。

Posted by むっち at 2013年03月20日 23:34

ロシア人がよく使う солярка という言葉、ソーラー油という辞書の訳になじみがなく、どういう油なのかとずっと不思議に思っていました。要するに軽油だったのですね… やっとすっきりしました。ありがとうございます。
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こちらこそわざわざコメントありがとうございます。このような普通の辞書に出ていない類語については、電子書籍の拙著『るいごプラス!』にまとめてあります。

Posted by 通りすがり at 2014年12月02日 21:45
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