2009年02月03日
●新帯研 第43回
原求作先生の「ロシア語の体の用法」の読者の書評に「誰にでも分かるような用法なら、「整理して、まとめて書く」ことも簡単ですが、いわば、用法の端っこの方になればなるほど、「まとめて書く」なんてことは難しくなります。この本は、そんな、ちょっと向こうの方の用法を、分かりやすく解説した本で、体の基本的な使い方をマスターした人には大いに役に立ちます」とあった。体の基本的な用法というのは、完了体は完了を示し、不完了体は、過程、習慣、一般的なできごとを示すということなのだろうか?ロシア語で道を尋ねたり、ホテルのチェックイン程度できればよしとする、いわゆる趣味や余技のロシア語程度なら、その通りかもしれないが、プロを目指すなら、少なくとも本書に書かれているようなことは体の基本的用法であり、最低限マスターすべきである。本書は、「ロシア語の運動の動詞」とともに必読書である。この体の基本的用法を理解しないと、ロシア人の使う簡単な言葉のニュアンスすら分からず、しかも、会話や作文でもほぼ不完了体の現在形(「いつも~である」とか、「一般的に~である」)しか使えず、いつまでも外国人のロシア語から離れることができずに、一方通行の子供の会話のままで終わることになりかねない。今回の課題は、
Мать со взрослой дочерью входят в кабинет к врачу.
- Попрошу раздеться, - говорит врач девушке.
- Но больна не дочка, а я, - поясняет мать.
- Ах, Вы! В таком случае покажите язык.
設問)和訳せよ。
原先生の「ロシア語の運動の動詞」は説明もさることながら、金太郎飴の絵などヴィジュアルなイメージも残るように工夫されていて面白いですね。この辺りをマスターしないと先はないと思ってやっています。
<和訳です>
母親が大人びた娘をつれて医者の診察室へ入ってきた。
「さあ服を脱いで」と医者は娘に向かって言った。
「ちょっと、具合が悪いのは娘じゃなくて、私の方ですよ」と母親が言った。
「えっ、お母さんの方?! じゃあ、舌でいいですよ」
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まあTakahashiさんには簡単すぎたでしょう。взрослыйは露露辞典にもあるように、вышедший из детских и отроческих лет, достигший возмужалости, зрелостиということですから、「大人びいた」というのは誤訳だと思います。この小話の出題の理由は、2行目のПопрошу раздетьсяで、自分で和訳から露訳した時にこう言う風にпопрошуと完了体が出てくるかなと思い、自分のメモ用にということです。自分ならПрошу (просим)となった可能性大だと思います。よく考えてみると、これは医者にしても、子供ではなく(これなら特に新規な状況ではないので不完了体だと思います)、娘にいきなり脱いでくださいと言っているので、普通の状況ではないという意識が医者の方にあるからだと思います。お母さんに対して「娘さんに脱ぐように頼んでください」と命令形を使うなら、これはПопросите вашу дочь раздеться.と普通の文です。私の訳は、
母親が成人した娘と一緒に医者の診察室に入ってきました。
「お脱ぎください」と医者が娘に言いました。
「具合の悪いのは娘じゃなくて、私なんですが」と母親が説明しますと、
「あなたでしたか。それじゃ、舌を出して」
初級者向けの解説)
*объяснить「説明する」の同義語であるразъяснитьとрастолковатьは「詳細に説明する」というニュアンスがあり、пояснитьは「補足的に説明する」、あるいは口語ではобъяснитьと同様に用いられる。
* в таком случае = тогда(その場合には、それなら)
どうもありがとうございます。
взрослыйは「成人になった」という意味合いなんですね。どうも単語の意味がしっかり定着していないようです。
зрелыйであれば「大人びた」という意味で大丈夫ですね。
それと、もうひとつ、просить とпопроситьについてですが、普通は「Прошу раздеься」という表現を使うという理解でいいわけですね。さとうさんのご説明の中に「普通の状況ではないという意識」とありましたが、この場合は具体的にはどういうものなのですか?
ただ単に母親と娘が二人で診察室へ入って来たのを見て「通常の状況とは違う」という意識が医者に生じたとも思えません。娘に対する感情が医者としての職業意識を超えたもの(=「今回はきれいで若いオネーちゃんのヌードが見たい」--お下劣ですいません)になっているから、ついつい完了体が出てきてしまったという理解でいいですか。
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おっしゃる通りです。ミスプリでなければ、妙齢のご婦人に裸になれとは、やはりいいにくいという意識が完了体を選ばせたのではないかと考えた次第です。「大人びた」というのは、「おとならしくなる」であり、зрелый = достигший полного физического развитияですから、「大人びた」にこだわるなら、こちらの方が適切だと思います。しかし、зрелыйは基本的に成熟したという意味ですから、私ならТелом взрослая, а ум детский.というような書き方になると思います。
詳しい説明をありがとうございました。
とてもわかりやすいです。今まで、こんなかたちでまとまった説明をきいたことがありませんでした。まずは、日常、もう少し完了体、不完了体を意識するよう努力してみます。たとえばこの医者のことばなど、彼の頭の中まで想像して文章を作らないといけないとなると、こんな和文露訳はまだまだ私にはとうてい無理だと思いますが。