2007年05月17日
●帯研(第83回)OB-Ken
今から30年ほど前商社に入って、ある造船所にロシア語の通訳見習いで出向したときのこと、ある技術者から「クレーンのブームの飛翔」とは何かと聞かれた。技術者のくせにといったら失礼だが、ロシアの詩にでも興味があるのかと思ったら、そうではない。RS(РС = Регистр СССРソ連船級協会)のルール(船舶建造規則)の和訳に書いてあるという。クレーンのブーム(boom)というのはクレーンの腕に相当するところだということは分かった。問題は飛翔である。クレーンがロケットでもあるまいし、どうやって飛び立つというのだ?問題の訳を見せてもらい、相当するロシア語文を探し出した。вылет стрелы кранаとある。一般の辞書にも「飛び立つこと、離陸、出撃」とある。「飛翔」と訳した気持ちも分からないわけではないが、意味が分からないことには変わりはない。ふと見ると、露文にはカンマの後にмとある。「メートル」であろう。長さに関係することらしい。しかし想像ばかりしていても、正確でなければ誤解の元だと思い、家で調べることにした。その頃露英海軍辞典というのを買ったばかりだったので、それで調べると「reach, outreach」とある。ブームの長さらしい。念のため2巻本の露英技術辞典で調べたら、working radiusとある。クレーンのブームの旋回半径のことだったのである。道理で単位がメートルのはずだ。それからしばらくは造船所でブームの旋回半径を飛翔と称することが流行った。飛翔と訳出した人はどういう気持ちで訳を書いたのだろう。(?)でもつけておけばよかったのに。訳せないと認めることの難しさであり、他山の石でもある。
Объявление: «Перевожу с Немецкого и Армянского на Ваганьковское».
設問1)オチを説明せよ。
しばらくのご無沙汰です。
「クレーンのブームの飛翔」笑ってしまいますが、せっぱつまったら自分でもやってしまいそうでこわいものがあります。のちに「今回の工事はブームの飛翔○○mでいこう」って言われるかもしれないことを想像して肝に銘じます。
帯研81回に書かれている「例文が女子中学生の仲良しクラブのような感じ」については、ずっとわが家の話題でした。実生活で使える例文がほしいですね。中学で英語を学び初めたときのような例文ではがっかりします。にしても最近の英語の教科書はかなり変わってきているかもしれませんが。
回答です。今回は背景の文化がわからず、ネット検索でかなり頑張ってみたのですが、最終的にわからず、これはмосквичに限る、とちょっとカンニングしました。モスクワ直行便です。
広告(貼り紙):
«ドイツ人墓地およびアルメニア人墓地からプレステージNO1のワガーンコフスコエ墓地にご遺体を搬送いたします» と、
«ドイツ語、アルメニア語からワガーンコフスコエ語への翻訳承ります» をかけたもの。
今回のはまさに社会的背景を知らないと訳せないアネクドートですね。モスクワにあるワガーンコフスコエ墓地は各界の有名人が埋葬されている墓地だというところまではネットでわかったのですが、ドイツ人墓地、アルメニア人墓地まであるとは知りませんでした。難しかったです。しかし……ワガーンコフスコエ語ってどんな言葉!?死者との会話ってテレパシーじゃなかった!?
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ワガーニコフスカヤ霊園はВысоцкийやЕсенинが埋葬されていることで有名です。オチもその通りです。オチを知るためには違法なこと以外は何をしてもよいのです。ネットで調べるのは当然のことですが、モスクワなら百科事典「モスクワ」 Москва, Энциклопедия, Большая россияская энциклопедия, 1997というのがありますから、機会があれば入手したほうがいいかもしれません。私の解説は、
)外国語の翻訳とモスクワにある墓場への引越しをかけている。Немецкое кладбище(現在のВведенское кладбищеで1771年ペスト疫のときに創設。昔ドイツ人など外国人が多く葬られた)、Армянское кладвище(Ваганьковское кладбищеの向かい側にあり、18世紀末より主にアルメニアの商人や職人が葬られた。現在ではその支部霊園)、Ваганьковское кладбище(1771年ペスト疫のときに創設。由緒ある霊園でВысоцкийが葬られているのでも有名)。
ありがとうございました。百科事典「モスクワ」というのはロシア語ですか、それとも日本語ですか?今回はходячая энциклопедияを使ってしまいましたが、力点まではついて来ず、やはりまちがっていました。どっちかな、と気になってはいたのですが…ワガーンコフスコエではなくワガニコーフスキーだったのですね。ロシア語の固有名詞は刻々変化するのでどれが元の形なのかもいつもわからなくなってしまいます。それとも後につく名詞によってそのつど変わるのでしょうか(日本語に訳す場合)。
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ロシア語の百科事典「モスクワ」です。失礼しました。力点を間違えてしまいました。Ваганьковское кладбищеはワガーニコフスカヤ霊園と訂正ください。力点のないоеを「オエ」とするか、「アヤ」とするかは、訳者の考え方次第だと思います。つまり発音に忠実にか、スペルに忠実にかということですが、慣用となったものを除き基本的に発音にできるだけ忠実にしたほうが私はよいと思います。
ヴィソーツキーのサイトを見つけました。
http://www.kulichki.com/vv/
試写・試聴できます。
メイさん、お久しぶりです。
今回はВаганьковскоеが分からずお手上げ状態でした。ネット検索も上手にならなければいけませんね。
Wikipediaで調べたら、「水爆の父」サハロフ博士もこの墓地に埋葬されているようですね。へえーとなりました。Высоцкийもなつかしい名前ですね。早速サイトをチェックしました。
昨日やっと入手できた「現代ロシア はなしことば辞典」を引くとなんとВаганьковоがВのトップに出ているじゃありませんか。二度びっくりです。
Скоро придётся наверно, сменить место жительства на Ваганьково.とありました。墓地へ住所変更とは笑わせてくれます。
>takahashiさん
「現代ロシアはなしことば辞典」とうとう買われましたか!私はいま発注しているところです。それにしてもすごい例文!!楽しみになってきました。在庫があるといいのですが…