2007年03月05日

●ウオッカの話(その2)

僕のぞっとしないなという顔つきを見て、横から若いロシア人が本当のブラッディーメアリー(トマトジュースとウオッカのカクテル)の作り方を教えましょうと言う。おもむろにテーブルにあったナイフを持ってきてから、コップに半分ほどトマトジュースを注いで、そのナイフをコップの内側に、トマトジュースより上の方にぴったりとくっつけた。そして厳かにしずしずとウオッカをナイフにたらしていった。そうすると無色と赤の二色のカクテルが出来上がった。これを飲めば最初にウオッカが胃の腑に納まり、その後を追いかけてトマトジュースがやさしく胃を保護してくれるし、ビタミン豊富だから体によい健康飲料だときた。
元船に乗っていたというロシア人の部長が、昔、冬カムチャッカのどこかにいた頃、酒も何も飲みつくし、95%のエチルアルコールを飲んだときのことを話してくれた。まずバターをたっぷり胃にぬったくり、それから95%のやつをあおり、サーロсало(豚の脂身の塩漬け)を食べるというサンドイッチ方式。僕も後年水だとだまされて飲まされた。胃から血がピュッ、ピュッと吹き出す音が聞こえたような気がした。欧米人はロシア人も含めて二日酔いのもとであるアセトアルデヒドを分解する酵素をほとんどの人が持っているが、日本人は半分も持っていない。酒に関しては大人と子供の喧嘩のようなものである。
契約が決まったらとりあえず酒とタバコを公団に持って行き、調印後宴会というふうだったが、ゴルバチョフ登場後、性急に施行された節酒令のため御法度となり、あの大の酒好きのロシア人がジュースをすすっていた。おかげで僕は宴会といわれてもおびなくてすむと喜んだ。しかし、しばらくして漁業公団の宴会に招かれたとき、フォトセッションと言われてジュースで乾杯した写真をたくさん撮った。写真は十分撮ったかと言われて、そうだと言うと、カメラは一時預かりということで没収された。カメラがないことを確認したロシア側幹事は、おもむろにテーブルの下からウオッカを何本も取り出した。いつもと同じ繰り返しである。ロシア人はほんとうにしたたかだなと思った。しかしこれは例外で今はほぼ元に戻りつつあるが、酒不足で今度は飲みたくても飲めないという風になっている。何もいっぺんに飲んじゃいけないなどとはせずに、あの一気飲みをやめさせれば随分違うと思っている。この話をあるロシア人にしたら、「あーた、ぜーんぜんロシア人のことが分かっていない。ちびちび飲んで温まろうと思ったってウオッカが腹におさまる頃には蒸発しちまってるよ。ここはぐいっと飲んで熱いものを腹に感じて初めて、生きててよかったということになるんだ」と言われた。
それでも僕はウオッカが嫌いだ。

Posted by SATOH at 2007年03月05日 19:56
コメント

前回(ウオッカその1)疑問に思っていたことが今回ですべて解決です。やっぱり胃壁を保護しながら(でも)飲むのですね!しかし、保護のし方がまたすごい!バターやサーラではウオッカを飲む前に胃がやられてしまいそうです。やっぱりロシア人の胃は特別なのでしょう。ウオッカとアネクドートがないと生きていけないとロシア人から聞いたことがあります。

Posted by メイ at 2007年03月06日 21:39
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