2007年03月05日
●ウオッカの話(1991年2月号)その1
僕はウオッカが嫌いだ。こんなことを今から10年前にロシア人に言おうものなら、火星人を見るみたいでもう相手にしてもらえなかったろう。何が嫌いといってあのエチルアルコールみたいな匂い。しかもロシア人が強制する一気飲みとくる。今日はバンケートбанкет(宴会)なんて聞くとぞっとする。みなが席についたところで、どちらかが音頭を取り、ダドナーДо днаと言ってぐいっと飲み干し、リュームカрюмка(杯)をひっくり返して見せて、もう一滴もないとジュスチャーをしてみせる。それからおもむろにこちらをぐいっと睨みつけさあーっとばかり。あわててこちらも飲み干すと、ハラショー・ナスタヤーシシャヤ・ムシシーナХорошо. Настоящий мужчина.(それでこそ男だ)とくる。これで終わりかと思うと、さにあらず。ザジェーンシシンЗа женщин(女性のために)とか、ザズダローヴィエЗа здоровье(健康のために)際限なく続く。ロシア人は乾杯の音頭なしには勝手には飲めないきまりだからだ。いくら帰り運転しなくちゃいけないといっても3杯ぐらいは飲まされた。これでウオッカを好きになる人もいたが、僕はますます嫌いになった。ロシア人にはビールは水だし、ワイン、シャンパン、カクテルなんぞは女の飲み物。カニヤークконьяк(ブランディー)だって40度はあろうというのに、ウオッカと比べればまともな男の飲み物じゃないと言いおる。
ウオッカはビールと同じで喉越しで飲むもので、リュームカを口に持っていったら、姿勢を正し、ウオッカを喉にぶつける感じで一気に空けるというのが由緒正しき飲み方だと教わった。しかも外国人はウオッカのちゃんとした冷やし方を知らないというので、それも教えてくれた。まずソ連のウオッカじゃなくちゃいけない。冷凍庫(冷蔵庫じゃないよ)に入れ、次の日取り出し30分ほどしたら、また冷凍庫にしまう。これを3日繰り返す。4日目には瓶の外側がうっすらと霜がかぶったようになる。これをシューバшуба(毛皮の外套という意味)といい、こうなればもう飲み頃。リュームカに注ぐとトロっとしてオイルみたいだ。こういう話はロシア人それぞれに一家言あるらしい。乾杯の声さえ聞かなくて済むならと考えている僕にとっては渡りに船。
風邪を引いたときにウオッカがあれば薬なんぞ要らない。一番いいのはウクライナのトンガラシ入りウオッカのペルツォーフカперцовкаで、このピンク色の酒の入った杯に胡椒をパラパラと2、3回振り掛ける。ペルツォーフカがなければ普通のウオッカでもよい。これを一気に飲んで一晩ぐっすり眠れば、あーら不思議、翌日風邪なんぞケロリと治ってしまう。
ウオッカの話、面白かったです。
一度学生時代にソ連旅行をした際、なんだか分からずに唐辛子入りウオッカを買ってきてしまいました。知り合いにふるまったところ、評判が・・・。風邪対策で使えばよかったんですね。悔やまれます。
-------------------------------------------------
NHKラジオロシア語講座に掲載されたエッセーの原稿はすべてワープロで作成したため、今ワードに打ち変えています。全部で6編ありますが、量が多いので、1篇を二つに分けて掲載予定です。この他に3編ほど採用されなかったものがありますので(五木寛之の連載が決まったので打ち切られたようです)、これも順次発表予定です。内容の細部で忘れていたものもあり懐かしいかぎりです。皆さんにも何かの思い出は書いて残しておくと、любопытная детальを後で思い出す助けとなります。
ウォッカ、おもしろいですね。ウォッカに関しては飲まされることがないのでつくづく女性でよかったです。日本人の男性がロシア人と付き合う場合は必ず通る道のようですが、こんなことをして急性アルコール中毒にならないのでしょうか。人ごとながら気になります。ロシア人とじゃ体格も違うし、彼等は胃壁も丈夫とか。韓国のキムチの場合は、小さい頃から慣らされている韓国人と違って日本人はあまり辛いのを食べると胃壁がやられますよね。
さとうさんの文体も、テーマのせいか、○○のせいか、今よりちょっと軽いのりでなかなかいいですね。引き続き楽しみにしています。
ウォトカ。
美味しいかどうかはアテと相手と量次第、ですね。バターを塗った黒パンやサラミなんかをつまみながら、ウマの合う人と、これまた濃いお題で盛り上がる…でも100mlもあればたくさんです。
お酒はおいしく適量を。
「おいしく」にこだわるあまり潰れたことがあります。職場の仲間と飲んだときのこと。僕はいつもどおり短時間で=ビールが美味しいうちに開けてしまい、しばらくしてからまた頂くつもりでいました。ところが周囲は飲んだと見るやすぐ注いでくれます。不味なってはかなわんとすぐに開け、また注がれ…
頭も体もふわふわ。月に寄り添う雲のよう。「これも仕事」と割り切るべき場合もあるんやなぁとくずおれた秋の夜長でした。