2007年03月02日

●帯研(第61回)

1985年頃から1990年までオチの面白そうなアネクドートを集めて、ロシア語原文とその和訳というふうに対訳本のように560編ぐらいコレクションができた。今思えば解説もなく、オチの理解も訳も深みがなくお恥ずかしい限りだが、当時は本になるかもしれないと思い全部コピーして、10の出版社に送付したら、そのうち2社から返事が来た。一つはナウカからで、アネクドートの対訳本は出せないが、あなたは商社マンだし、ちょうどいいビジネスレターの参考書があるので訳して見ないかといわれ、それが「ロシア語ビジネスレター」の編訳となった。例文は社会主義国向けなので使えず、すべて手持ちの実際のソ連の公団からのビジネスレターと差し替えざるを得なかったのを思い出す。もう一つの出版社は日本放送出版協会(NHK)からで、会いたいというので編集者と会った。アネクドートは出せないが(まあ硬いところだからあきらめてはいたけれど)、モスクワ駐在の経験があるなら、ラジオ講座の後ろに半年エッセーを書いてみないかと言われ、1991年2月(ウオッカの話)、3月(アムール、アムール)、5月(ウハーザラターヤ)、6月(車の話)、9月(庭のシャンピニオン)、11月(カムチャッカの湯煙)が掲載され、初めて原稿料12,000円/編をもらって感激したのを今でも覚えている。高橋さんが「アネクドートの小窓」でコンピューター関係の小話を英和で紹介しているが、100編ぐらい溜まったら(500編ぐらいが望ましいが)、その中で一般向けするものをいくつか選んで、コンピューター関係の雑誌社か英語関係の出版社に送ってみたらよい。コンピューターや語学の雑誌に硬い内容の記事ばかりでは読者が飽きると編集者は考えるだろうから、小話くらいあってもよしと思うかもしれない。採用されなくても私のように別の道が開けるかもしれない。小話の楽しみ方は各人各様だが、やはり出版を考えるなら一般読者のことも考えて、あまりオタッキーなものは、少なくとも最初は控えたほうがよいかもしれない。高橋さんのコラムの文章もなかなかよいのでトライしてみたらよい。Попытка не пытка.(ダメモト)という諺もある。
今回の課題は簡単なものを。
Допрос новичка начальником полиции.
- Ну что, парень, тебе известно, что такое детектор лжи?
- Да, комиссар. Я уже два года женат на одной из них.
設問1)最終行を Я женился на одной из них.とすることが可能か?
設問2)オチが分かるように訳せ。

Posted by SATOH at 2007年03月02日 15:53
コメント

ロシア語でビジネス関係のものは極端に少ないと思います。学生時代にたしか『ロシア語商業文の書き方』(たぶん?)というのがあったのを懐かしく思い出しました(出版社などは忘れました)。昔書かれたラジオ講座のエッセーもぜひ読みたいです。時代のギャップがあって今読むとまたおもしろいかも。どこかにUPしていただけないのでしょうか。takahashiさんも帯研受講生?としてぜひあとに続いて下さい!!
それでは今日の課題に挑戦です。

設問1)
Я женился на одной из них. 
женитьсяは完了体と不完了体が同じ動詞なのでちょっとひっかかりますが、今まで学習してきたことからすれば「完了体の結果の存続」で可能だと思います。その場合はУже два года を Два года назадに変えないといけないと思います。不完了体でも、Уже два года я женюсь на одной из них. と言えるのでしょうか。

設問2)
警察署長による新入り容疑者の取調べ。
「さあて、お若いの、うそ発見器とはどういうものかおわかりかな」
「へい、署長さん、そいつを嫁にして、はや2年になりまさぁ」

革命前の話らしいので、(полиция, комиссарから)昔風に訳したつもりだったのですが、若い容疑者の年齢を上げてしまったかもしれません(笑)。原文はна одной из нихとなっているのですが、日本人の読者には「そいつらの一人」というより「そいつ」だけのほうがわかりやすいと思いましたので。容疑者はいつも妻にうそを見破られているので、妻も、うそ発見器も似たようなものなんでしょうね。
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この小話はフランスあたりから入ったものかもしれません。ただ1921年にアメリカの医学生ラーソン,ポリグラフ(うそ発見機)考案(米)とあるので革命前ではないと思います。メイさんの考えるように新入りの容疑者に対する尋問かもしれません。ただ署長がわざわざ取調べするのかなと思い、新入りの警官としてみました。設問1)はженитьсяにはおっしゃるように完了体と不完了体が同形で、この場合は完了体です。ただ使用例をいろいろ見る限り、この動詞は継続では使えないと思います。嫌がらせではありませんが、設問1には2年という期間は入れていません。入れていないので可能ということになります。期間が入るとженатでしかだめだということになります。しかしそこまで考えているとは驚きです。私の訳は、
警察の上司による新人への根掘り葉掘り。
「ウソ発見器って知ってるよな?」
「ええ、警部。その一つと結婚してもう2年になります」
解説)женитьсяは完了体と不完了体と両方ありうるが、設問1のは完了体。Я даже женился на одном из них.としてもよい。つまりテキストでоднойと女性形になっているのは勘の鋭い女性と結婚したというニュアンスが出るが、男性形だとウソ発見機を受けていることになる。オチの意味は変わらない。口語では完了体での使用が多い。つまりпоженилсяとしてもよいが、あまり聞かない。

Posted by メイ at 2007年03月04日 01:34

いろいろアドバイスをいただきありがとうございます。
ただいまあれこれ収集しています。

設問1に関してはженитьсяは不完了体だとばかり思っていました。完了体もあるのですね。辞書をよく見ろ!ですね。メイさんです、鋭いですね。
ひとつ疑問なのですが、Я женился на одной из них.という表現ではженился が不完了体なのか、完了体なのか、は文脈次第ということですか?

設問2)は一応こんな和訳になりました。
《和訳》
警察署長による新人への質問
「さて、お若いの。ウソ発見器とはどういうものか、ご存知かな」
「はい、署長。私はそのひとつと結婚してもう2年になりますから」

女性の勘の鋭さをウソ発見器にたとえているところがオチですね。начальник полицииやкомиссарという表現でまずどの地位にある警官をいうのか、迷いました。ここではначальник полиции=комиссарとなるので「署長」としましたが、捜査一課の主任とか、ある部署での長を表すという捉え方でいいのですか。
また、Допрос новичка というのは「新米警官への質問」とも「新たに収監した容疑者への尋問」とも取れ迷いました。なんとなく好きな方で訳してみましたが、ここは決め手となる表現はあるのでしょうか。
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メイさんへのコメントにも書きましたが、この小話は欧米のジョーク(特にフランス小咄)の露訳ではないかと思います。理由はメイさんも書いているように警察官の肩書きにあります。現代ロシア(ソ連でも)ではкомиссарという警察官の職位はありません。ただ有名なベルギーの作家シムノンのメグレ警部はполицейский комиссар Мэгреと訳している(もっとも警視としたほうがいいのかもしれませんし、メグレも昇進したのかも知れず、メグレものは詳しくないので知りません)ようです。допросは尋問や取調べですが、私の解釈はメイさんのほうに書きました。

Posted by takahashi at 2007年03月04日 16:20

どうもありがとうございました。
そういえば、英語でpolice commissionerとなると警察署長とか公安委員長のような役職で、民間人がなったりしてました。外国の小話もアネクドートに結構取り入れられているのですね。コンピューター関連のものはロシアンテイストがないものが多いですが、これは仕様がないですね。

Posted by takahashi at 2007年03月05日 14:43

革命前ではなくてフランスからの小話だったんですね。それならばポリグラフの発明時期と矛盾しないですね。警察の上司と新人の話だとは思いませんでした。допросにひきずられました。
женитьсяですが、口語で完了体の使用が多いということは、женитьсяの不完了体があまり使われないということでしょうか、それともженатよりも頻繁に使われるということですか。あるいはпоженилсяのほうがженитьсяの完了体よりもよく使われるということでしょうか。口語で一番使われるのは?どうもこんがらがってきました。
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別にメイさんのオチの解釈が間違っているということではないのです。別の解釈もあるし、допросが使われていることを重視すれば、メイさんの解釈のほうが自然です。またженитьсяには動作の意味だけで、状態の意味はないからだと思います。この動詞の不完了体は繰り返しを意味し、例えば、Он женился на 4-х женщинах за 70 лет.という用例では不完了体でしょう(こういう用例は少ないことは、回教圏を除きこの動詞の意味からお分かりかと思います)。またОн женился 2 года назад.も不完了体だと思います。これは事実を名指ししているだけで、現在そのまま結婚しているかもしれませんし離婚している可能性もあります。ただ口語での完了体の使用が多いのは、Я
женился.(結婚したんだ)という用例が多いからではないかと推測するからです。Женатだと既婚だということで、結婚したばかりというニュアンスが出ませんから。

Posted by メイ at 2007年03月05日 17:35

問1)最終行を Я женился на одной из них.とすることが可能か?
женатыйは結婚している”状態”を指し、женитьсяは入籍や挙式などを含めた”行為”を指す、と理解しました。従ってженитьсяとすると「結婚したが今は別れている」という含みになってしまい不適当かと思われます。

問2)訳
新入りを問いただす署長さん
—おい若いの、うそ発見機がどんなものか分ってるのか
—はい署長。本官もそれと結婚して既に2年になります。


きれいに訳すのが難しいですね。
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和訳はきれいな日本語です。設問1)женитьсяは完了体と不完了体が同形で、完了体過去なら使えます。詳しくはメイさんのを見てください。Я женилсяなら結婚した状態が続いているという意味になるのが口語では普通です。無論женатのほうが間違いないとは思いますし、期間が入ったときはженилсяは使えないでしょう。

Posted by コーシカ at 2007年03月05日 23:05

>женитьсяの不完了体
 ふと思いました。いつ頃から完了/不完了を兼ねるようになったんでしょう。アメリカと並ぶ離婚大国となってしまったソ連時代以降かな、という気がします。もっとも分ってもあまり嬉しくない問題ですねぃ…
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それは知りませんし、最近かどうかも知りません。しかし厳密に言えば「兼ねているの」ではなく、同形なだけです。同じようなものはорганизовать, образоватьなどあります。前も言ったと思いますが、言語は文法が先に出来たわけではなく、言語現象を解明するために文法があるということをお忘れなく。ただ我々外国人は文法から入らざるを得ないのでそのような先入観をもつのでしょう。

Posted by コーシカ at 2007年03月05日 23:33

体の問題になるといつも一番先にわからなくなってしまいます。женитьсяは動作の意味だけで、状態の意味はないので、Он женился на 4-х женщинах (こういう人を私は知っています!)という場合は不完了体を使う、というところまでは理解できました。次に、Он женился 2 года назадが事実の名指しの不完了体のみというところがまだよく飲み込めていません。たとえば、Он женился 2 года назад. Но умерла жена из-за аварии.という場合は、事実の名指しの不完了体ととれると思いますが、Он женился 2 года назад. Но у него пока нет детей(ребенка). という場合は結果の存続の完了体と理解できないのでしょうか。メイ路です。
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最後の例文は文法的に正しいと思いますが、結果の残存ではないでしょう。назадが完了体と共存する例はあります。例えば、Этот случай произошел месяц тому назад.しかし、これは、25 июня 1945 года я встал раньше обчного.と同様アオリスト(原先生のいう動作の順次性)を示す用法で、完了体過去の二つある基本的用法(もう一つは結果の残存用法)の一つです。つまり過去における完結された具体的出来事を示します。メイさんの例文を完了体と取ればこのアオリストですが、結果の残存ではありません。不完了体であれば、無論結果の残存ではありません。つまり~年前と明らかに過去を示しているために、結果の現存ということとは論理的に矛盾することはお分かりになると思います(過去と現在が共通の時制になるという意味で)。完了体で明らかに動作が完了していて、過去の日付が明示されていれば、アオリストという用法だというのが私の理解です。アオリストの用法については、城田先生の文法書(中級・上級編)130ページに記載がありますが、これではなかなか理解が難しかろうと思います。原先生の本では順次性(一つの動詞の例はなく、いくつかの動詞の順次的用例のみ)だけの例だけです(順次的用法のほうが一般的ですが、アオリストを紹介しないというのは片手落ちのような気がします)。結局アカデミーの文法書がこれについては分かりやすいと思いますが、手に入らないでしょうから不十分ながら上記のように説明した次第です。過去の日付が入って、動作が完了しているなら、完了体過去を使うと覚えておいてください。これがアオリストです。過去で事実の名指しは不完了体ですが、これは動作が完了しているかは関係しません。アオリストについては第26回で取り上げています。

Posted by メイ at 2007年03月06日 21:31

詳しい説明をありがとうございました。よくわかりました。過去の日付が入り、動作が完了していれば完了体過去(アオリスト)ですね。第26回にも行って確かめてきました。私が一番誤解していたのは過去の日付が入っていても現在に続きうる(結果の残存が可能)と考えていたことでした。体の用法についてはまだまだ理解不足ですが、少なくとも今後женитьсяに関してはまちがうことがなさそうです。

Posted by メイ at 2007年03月07日 13:36
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