2007年02月28日

●帯研(第60回)

ジューコフの自伝を読んでいて、ベルリン陥落のところでстремительная атакаという表現を見た。別になんてことはないもので、「集中した攻撃」、「素早い攻撃」というようなイメージが頭に浮かぶ。アマ(素人)ならこういうイメージだけで読み進んでよいが、通訳でも翻訳でもプロになろうという人はこれで止めてはいけない。ロシア語をイメージだけで読むのは考えるほど難しいことではないし、そのイメージ自体が感覚だけで正しい文法や語彙の理解に支えられていないと、誤訳を一生引きずることになる。理解した気になるというのが一番怖いということにアマは往々にして気がつかない。アマはそれでも実害はないが、プロは金をもらっている以上それでは済まない。プロには文脈に沿った的確な表現で日本語あるいは(日本語からなら)ロシア語にできるかが要求されているのである。そのためには露和だけでなく、訳に疑問が出たら露露辞典を引く癖をつけるべきである。Стремительный にはочень быстрый, отличающийся быстротой движенийとあるので、例えば「迅速な攻撃(これは露和にも載っている)」や「疾風怒濤の攻撃」というような訳を思いつくのもよい。全部を露露で引く必要はないし、そういう人は中級者とすら呼べない。取りあえずは訳する上で気になったところを辞書で見ればよい。露和は特定の文脈の訳ではなく、一般的な(多くの文脈で通じるような)訳が載っているということをよく理解し、露和に載っている訳を金科玉条とするのは辞典の編集者の意図とは異なるということをよく理解すべきだ。プロや上級を目指す人は露和に頼りすぎず(活用はするものの)、露露を頼り、また日本の文学や評論をよく読んで日本語の語彙を高めるのも重要であり、自動的に日本語訳やロシア語訳が出るように訓練を積むべきである。究極的には辞書を引かずに適訳が出るように努力すべきである。通訳はともかく翻訳者は辞書を引く時間があるので、そういう訓練は必要ないと考えるのであれば、それは間違っている。技術関係などの翻訳では提出日というのが設定されているわけで、適訳が早く出れば、訳全体のスピードが上がり、必ずといっていいくらい出てくる難訳語に対しても、余裕をもって調べることが出来るというものである。
Ребёнок подбегает к матери и спрашивает:
- Мама, разве вытрезвитель сгорел?
- Ты что, сынок, нет.
- А почему папа идёт по улице и поёт: «Враги сожгли родную хату».
設問1)和訳せよ。
設問2)オチを説明せよ。

Posted by SATOH at 2007年02月28日 15:31
コメント

ん〜
本文からしても露和だけでは心もとないなぁ…

訳:
男の子がお母さんに駆寄ってきて尋ねます
ーママ、”トラ箱”が燃えちゃったの?
ー坊や、なにいってるの。そんなことないわ
ーじゃあなんで街を歩きながら唄ってたの「敵どもは”別荘”を焼き…」って

オチ:
「вытрезвитель」と「хата」がそれぞれ関係しており、 恐らくトラ箱とブタ箱の関係であろうと見ました。岩波によると「хата」は住まいを指す隠語でもあるようですし。とはいえ憶測で押し切ったことに変わりはありません。ご講評をお願いいたします。

 露露辞典も見ましたが特に手がかりは見つけられませんでした。露露でも「隠語・俗語辞典」やないとドンピシャの答えは載ってへんやろ、と正当化(笑)
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コーシュカさんの日本語は非常にうまいと思います。これも才能とブログで鍛えた賜物でしょう。文学的な翻訳に向いていると思います。хатаは農家とか小屋というウクライナ語から来ている表現です。このような小話で、オチが詩の題名のものはポピュラー歌謡ではないかと疑うべきです。そしてインターネットで調べるとヒットする可能性があります。このように歌詞や詩をオチにしたものも(つまらないものが多いとはいえ)結構ありますから、その調べ方も練習してください(題名だけでなく、歌詞の中味も読み、できればメロディーも味わうということです)。私の訳と解説は、
訳)小さい子が母親のところに駆け寄って、こう尋ねました。
「ママ、トラ箱焼けちゃったの?」
「何てことを、そんなことないわ」
「じゃあ、どうしてパパは通りを歩きながら、「敵は我が故郷の家を焼けり」って歌っているの?」
解説)常に酔っ払っているパパの住処はトラ箱と子供は思っている。オチが歌謡曲という小話。ある程度年配のロシア人なら分かるはず。
Враги сожгли родную хату (музыка М. Блантер, слова М.Исаковский, Бернес) 1945 г.

Posted by コーシカ at 2007年03月01日 23:45

文脈を捉えながらしかもすばやく訳すということができるようになればいいですね。語彙・文法・読解が三拍子そろいもそろって欠けている状態で四苦八苦です。もう少し楽にロシア語を使うことができるようになりたいものです。亀の歩みでも継続は力なりと言い聞かせています。

<和訳です>
子供が母親のもとへ駆け寄り尋ねます。
「ママ、『トラ箱の家』が焼けたって本当?」
「何を言ってるの、そんなことはないわよ」
「だって、パパが通りへ出て歌ってるんだよ、♪敵が『トラの子の家』を焼いてしまった♪って」

вытрезвитель「トラ箱」は酔っ払いを保護してくれる酒飲みにとっては大事な場所です。родная хатаは「生まれ故郷の家」も同じく大事な場所です。この酔っ払いのお父さんはトラ箱をродная хатаと時に言うことがあるか、子供がトラ箱を大事な場所だと思っているかだろうと推測しました。お父さんが酒を飲んでいい調子で歌った歌詞に子供がびっくりしたというところでしょうか。ロシア語のオチがどうもすっきり理解できていないです。
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高橋さんのオチの訳はなかなか面白いと思います。ただ「すっきり分かっていない」のは、これが歌謡曲の題名をオチにしているからです。詳しくはコーシュカさんへのコメントを参照ください。

Posted by takahashi at 2007年03月02日 12:09

どうもありがとうございました。
オチがすっきりしました。パパの住処がトラ箱だと考えれば納得です。オチの理解にもうひとひねりできないところが歯がゆく感じます。

Posted by takahashi at 2007年03月02日 16:14

はぁ~そうだったんですか!私もオチがもっとあるのではと、сожгли родную хатуを必死で調べてはいましたが、Враги сожгли родную хатуにカギカッコがついているところまでは考えが及びませんでした。アネクドートの読み取り方その①ですね!ちょっと目から鱗でした。しかしこの歌、1943年とは。完全に懐メロ。今回はちょっとずるいあと出しでした。

Posted by メイ at 2007年03月02日 22:49

ご講評ありがとうございました

別荘=ブタ箱は考えすぎでしたか。最後の行の「パパ」も見落としてましたし…
ところで文中の「トラ箱」から質問をお許しください。
岩波も研究社も「泥酔者一時収容所/留置場」と、大掛かりな施設を連想させる訳となっています(それぞれ269頁、336頁)。
この語が指しているのは専用の施設、もしくは建物の一区画で、それは酔い醒しを兼ねて、冬期における屋外での凍死を防ぐために保護をする目的で使用されるのかな、と思いました。
ロシアの大都市では、泥酔などによる帰宅困難者を保護するための専用の施設が存在するのでしょうか。あるいは警察署などでは建物の一区画がそうした目的のために取り分けられている、ということですか。教えて下さい。
------------------------------------вытрезвитель = вытрезвиловка = специальное санитарно-медицинское учреждение для вытрезвления пьяныхということですから、専門の施設です。警官にはノルマがあり、運が悪ければ、問答無用と引っ張られることもあります。2、3年前の映画でも題名は忘れましたがトラ箱を扱ったものを見ました。Русская водкаといったような題名でCDを買いました。

Posted by コーシカ at 2007年03月05日 21:24
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