2007年01月10日
●帯研(第38回)
最近岩波の露和辞典がネットオークションで3万円とか3万2千円という値をついたというのを「ろしあんピロシキ」の掲示板で読んだ。需要があるのであろう。再版はともかく新版が出ないのは、露和辞典には国語辞典や英和などロシア語以外の対訳辞典と違う事情があるのではないかと思う。国語辞典や英和辞典は新語を吟味して取捨選択し、用例が古くなったものはそれを除けばよいのだが、露和辞典ではそう簡単にはゆかない。それはソ連政権が誕生してから、帝政時代には犯罪など悪いことがあったがソ連時代にはそのようなものはないとして、それを想起させるような隠語、俗語、はては口語まで辞典にほとんど採録されない状態がソ連崩壊まで続いた。そのため新版の露和辞典にはこの15年間の新語だけではなく、革命直後から現在までの口語、俗語、隠語を新たに追加しなければならないわけである。革命前にも隠語、俗語、口語は存在したし、革命直後や、1930年代政治犯として収容所に入れられた一般市民が犯罪者から隠語を教わるということもあり、その後政治犯が釈放されたりしたり、1950年代半ばの大恩赦などで犯罪者が一般市民と交わることが増えて、1980年代からヤクザの隠語がかなり市民の間に広まった。一部Самиздатの小説などにも(ソルジェニーツィン他)こういう隠語が反映されているし、ソ連崩壊後、小話や若者向け雑誌を理解するには、ソ連時代に出た辞書では歯が立たないわけである。ロシアにおいては最近俗語辞典、口語辞典が出版されているが、日本では最近コンサイスの新版が出たのみで、岩波や研究社の露和は15年近く新版が出ていない。コンサイスは新語も取り入れ、訳もこなれたもので非常によい辞典だとは思うが、いかんせん収録語数が10万語と少なすぎる。私が思うにはロシアの若者向け雑誌、小説や小話を理解するためには、岩波の露和の収録語数13万プラス3~5万語は必要だと思う。たんにロシアで出版された口語辞典や俗語辞典を和訳するだけでなく、それを十分咀嚼して新たな露和辞典に反映させることが出来るような研究者が育っているのかというのが私の疑問である。チェーホフやドストエーフスキーの研究者は非常に多いが、ロシア語の口語俗語で我々一般が名を知っているのは狩野亨先生ぐらいというのは淋しい限りである。先生の「現代ロシア話しことば辞典」も全て網羅されているわけではなく、この辞典だけに頼ることが出来ないというのが現状である。帯研の参加者は一応露露辞典は使えるだろうから、ロシアの隠語辞典や口語辞典を買って使うのが早道かもしれない。もし露露はという方は早く露露が読めるように努力すべきだ。今回もロシアの大衆文化の理解なしにはオチがわからないだろう。
Цыпленок бьется головой о стенку и кричит:
- Позор! Позор!
Подходит Курица.
- Мама, а это правда, что у меня отец – Петух?
- Да, сынок.
- Позор! Боже, какой позор!
設問1)オチが分かるように和訳せよ。オチを別にしてもよい。
オチがわかっているとはいえませんが、トリあえずトライしてみました。
[和訳]
ヒナドリが壁に頭をぶつけて叫びました。
「畜生、畜生!」
メンドリが近づいてきました。
「母さん、本当にボクの父親はオンドリなのかい?」
「そうだよ、お前」
「畜生、本当に畜生だ!」
父親の出自・職業などを改めて認識して子供が自分の運命を呪って嘆くさまをトリの一家で表現したということでしょうか。петухは「短気な人間」などというネガテイブな意味が辞書に出ていましたが、弱きものを助けるヒーローとして描かれる場合もあるようですね。この辺りの単語の捉え方はお手上げ状態です。「動物(=畜生)」と「悔しい・恥ずかしい」という言い回しをかけただけでした。Позор! Позор!
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オチが分かっていないようです。私の訳もかなり無理はありますが、一応私の訳と解説は、
カマトトが(自分で)頭を壁にぶつけて泣き喚いています。
「恥だわ、いい恥だわ」
お母さんが近寄って来ると、
「マーマ、私のトト様ってオカマなの?」
「そうよ」
「恥だわ、神よ、何て屈辱なの」
解説)ロシア語の原文では、カマトトがヒナドリ、お母さんがメンドリである。Петухには「オンドリ」という意味の他に女役の「ホモ」という意味がある。ホモに子供が出来るというのも面白い。
ヒナドリはカマトトなんですか?「若い娘」とありましたが、なるほどです。Петухが「ホモ」とはやはりお手上げです。
へぇ~ オンドリが!ですか。去年「клетки」(2004)のビデオを見ましたが、案外刑務所内の言葉だったりしませんか?козёлも同じですか?この調子でいけば、だんだんロシアの雑誌や新聞を読んでもわかるところも出てきそうな気になってきますね。ほんとに少しの間ですが、「MK」を読んでいた時期があって(センセーショナルでおもしろいので)、結構俗語に悩まされました。
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петухは多分最初は刑務所からの隠語だと思いますが、俗語として十分市民権を得ている言葉だと思います。козёлも同様です。卑語ではありますが普通に使われる俗語です。МКというのは知りません。
ごめんなさい。略字にしてしまいました。"МК"(Московский Комсомолец)新聞です。