2006年11月09日

●帯研第5回

中級者というのは辞書を引きながらたいていのロシア語の意味は聴いて分かる、あるいは読んでわかるレベルであり、上級者を目指すのであれば、意味だけではなく、言葉のニュアンスも理解できるように勉強すべきである。多くの場合イントネーションや語順や小詞で判る場合もあるが、強意とか対照とかぐらいで細かいニュアンスまでは理解できないことが多い。体の用法によってでも、あるいは会話の動詞の前置詞の有無でも意味のニュアンスが異なる場合もある。今後その点も含めて紹介してゆきたい。今回の課題は、
Мы едем к вам.
В будущем месяце мы едем к вам.
Завтра мы поедем к вам.
Мы будем ехать.
Смотри, машина приходит!
設問1)ビジネス会話ということを念頭において、上記の短文の中で正しいもののみ和訳せよ。
設問2)間違っているものはどこがおかしいのか説明せよ。訂正できるのなら訂正せよ。

Posted by SATOH at 2006年11月09日 19:58
コメント

今回こんな体の問題が出されたということは、きっと何か落とし穴があるのでは? (^m^)
と、しっかり調べてきました。

まず、運動の動詞なのでМы будем  ехатьは言わないかな、と削除しました。

В будущем месяце мы едем к вам  

Завтра мы поедем к вам
は、
В будущем месяце とЗавтраによって体を変えるか変えないかになってくるような気がします。

私のもっている『ロシア語の体の用法』(原求作)ではЧерез год я уеду в Россию(一年後に私はロシアにたつという場合は、事態をある程度客観的に表現することになるので 完了体)、 Через два дня я уезжаю в Россию(2日後にロシアにたつのように近い将来のことをいう場合は不完了体)となっています。

まず私は、В будущем месяце は近未来か遠未来かがわからなかったので、ロシア人の先生(国立○○大学大学院卒業後、別の国立大学で10年間外国人にロシア語を教え、最近まで日本の某国立大学でもロシア語を教えられていた)に聞いてみると、なんとВ будущем месяце мы едем к вамにおいても、Завтра мы поедем к вамにおいても完了体・不完了体のどちらを使ってもよいとおっしゃいました。で、私は、Через два годаならどうかと食い下がりましたが(オバサンだなぁ)、それでもどちらでも可とのこと。古代ロシア語には未来形がなかったとか。考えてみれば私たちだって、「~でしょう」という未来形を使ってあまり会話してないなぁ…、ということは日本語にも未来形はないのでしょうか???

次に、
Смотри, машина приходит!
ですが、まずは一番手もとの研究社の辞書でприйтиを引くと、
Поезд приходит в пять часов(列車は5時に到着することになっている)(приходить現実に進行しつつある動作ではなく、予定を表わす;比較 Смотри, поезд идёт)
とありましたので、
Смотри, машина приходит! はまちがいだと思いましたが、これも同じ先生に尋ねると、
「言えます、言えます」とのことでした(ちなみに私はпоездで質問)。私の聞き間違いでなければ、приходитьはпроцессуальность(?)とかおっしゃっていたような…

以上のことから、ビジネスロシア語とのことですので、以下の回答に決めました。どうぞよろしくお願いします。

設問1)
私たちはあなたのところに向かっています。
来月私たちはあなたのところに行きます。
明日私たちはあなたのところに行きます。
ごらん、自動車がやってくる!

※(乗り物で)は省きました。

設問2)Мы будем ехать
運動の動詞なので。Мы поедемに。
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ロシア人の専門家に聞かれたとは、その努力には感心します。ロシア人に尋ねれば、一応答えは出ます。ただ質問が的確でないと、より的を得た答えは返ってきません。よほど聞き取り能力がないとその説明が完全に理解(ニュアンスを含めて)できないということはありえます。それと人によっては可能性全部を答えるロシア人もいます。私は可能性よりも蓋然性を重視したいと思います。漱石が英語の可能性と蓋然性の違いを生徒に聞かれ、先生が教壇で逆立ちするのは可能性で、ただその蓋然性は低いと答えたという話を思い出します。ご回答についてですが、ビジネスでの場面なので、「あなた」と言う言葉は使えません。これは一般でも目上が目下(特に女性が)言う言葉で日本語らしくありません。выというのはビジネスロシア語ではваша компания, ваша фирмаという意味です。つまり御社とか貴社という風に訳すべきです。ビジネスでは口語ですが丁寧な表現が求められます。それを除けば訳は正しいです。1番目は定動詞で進行形(過程)を示せるというよう例ですが、どのような場面で使うかお分かりにならかったようです。これはпробка(交通渋滞)などでアポイント(appointmentのことでアポともいい、面談の約束と訳します。面会では刑務所のようなので商社では使いません)に遅れそうなときに携帯で言い訳するときなど使います。едемの他にподъезжаемも過程を表しますから可能です。
2番目は現在形で近い未来とか遠い未来とかは別にして予定(現在から見てほぼ間違いなくそうなることが分かっている時に使います。英語の現在進行形で予定を表すのに似ています。どんな動詞の不完了体でも使えるわけではなくコーシュカさんへのコメントで使える動詞を書いておきました)。ビジネスは出張、面談と予定ばかりで多用します。実質的に半年後でも2年後でも、予定がはっきりしていれば使えますが、1年後まで予定がはっきりしているのは稀だと思います。ですからВ будущем месяце уеду к вам.としても完了(つまり未来の行為がより明確化される)というニュアンスは出るものの、実質的に同義です。原先生は1年後では完了体未来形を使ったらと書いているのには賛成です。ただ先生のように完了の意味で客観性が出ると言う説明は理解できず私のと違います。不完了体はものごとを漠然と捉えるのに対し、完了体は動作をはっきりと明確にとらえるというのが本質的な体の機能であり、そこから完了体未来は未来において行われる1回の具体的動作を示す。これは近い未来(これからすぐとか、明日とか)でも、比較的遠い未来(1年後とか)でも使えます。これが3番目の回答です。4番目は、Если мы будем ехать по той улице, я покажу вам памятник.(その通りを車で行くときに、銅像(がどこにあるか)を教えてあげよう)とすればちゃんとしたロシア語です。つまり行くということは分かっていて、主文にアクセントがある場合でないと、идти, ехатьは合成未来となれないということです。5番目はロシア人の先生が何と言おうと(多分、汽車がないと思っていたのに、駅で時刻表を見て「ほら汽車が来る」という予定か反復と考えたのでしょうが、それでは蓋然性というより可能性の問題ということで、文脈からかなり無理があると思います)、間違った文です。Смотриがあるから、車がやってくるという進行形(過程)を示しているので、接頭辞при-のついた動詞群は使えません。これはРассудова教授なども体の用法に書いています。ただ単にПоезд приходит в 5 часов.(予定)や毎日来るという反復なら正しいでしょうが、「見ろよ、列車が入って来ているよ(Look, a train is coming.)という文章でпри-のついた動詞群が使えるというなら、原先生もびっくりというところです(先生の体の用法の115ページ、137ページ参照ください)приходитьで過程を表しうるのは抽象的な場合だけです。つまり正解はСмотри, машина идёт(又はподходит).です。идтиは移動手段を主語として陸(ехать)水上(плыть)空(лететь)の代わりにも使えます。ただオートバイмотоциклはехатьだけです。過程を示すことの出来ない動詞群は случаться(替わりにпроисходитьを使う)などです。

Posted by メイ at 2006年11月12日 14:14

毎回、予想の数倍の知識をこんなかたちでいただけるのは本当に幸せです。おかげで、приходитьは過程としては使えないというのはしっかり頭に入りましたので今後忘れることはないと思います。ちなみにネイティブの先生との会話では私がしっかり内容を伝えられてなかったか、あるいはподходитьがпроцессуальностьだとおっしゃったのだと思います。原先生の体の用法にそっくり書かれていたとは露知りませんでした。まずいですねぇ。原先生の文法書は、次に何が書いてあるかが楽しみでわくわくしながら読める文法書なので、読んでいたつもりだったのですが… これがビジネスなら責任ものですね。久しぶりにスリリングな経験でした。ありがとうございました。

Posted by メイ at 2006年11月13日 22:54
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