2006年11月27日

●帯研(第15回)

ロシア語上達のためにはロシア語で書かれた本の読書しかない。会話会話というが話し合う内容を自分が持っていなければ無意味だし、通訳するにしたっていろいろな考えに触れておかなければ(語彙や構文など)、日本人であろうとロシア人であろうと相手の言うことが分からず、分からぬものは通訳しようがない。読書の始めるタイミングというのはというと、その本を1ページ読んでみて、精読(力点、文法、意味など全てについて少しでも分からなければ辞書を引くという意味)で辞書を10回以上引くならその本はまだ早い。辞書の引く回数が増えると気が散って筋が頭に入らなくなる。ただ筋さえ分かればいいからと、辞書を引くのをけちるような人はまず上達しない。その時点で分からないところは、いつかはまた出てくるし、いつまでも辞書を引くのをパスするような人はロシア語のプロには向かない。最初は自分に合った児童文学を読めばよいと思う。そしてロシア語を勉強していてつまらないことでも、おかしいなと思うことが増えたら、それは中級者から上級者への道の第一歩である。初級者は疑問を抱かない。何でだろうという疑問が湧く癖は自然につくものではない。疑問を持つようになればしめたもので、これは上達した証拠である。自ら疑問持たずして上達はない。ただ疑問を胸に納めているだけでは進歩がないというのも当たり前で、あらゆる手段を通じていつかは答えを見つけてやるという気迫と粘りが大事である。今回も小話ではなく、ある文章の一節からの出題である。
Операцию ему делали без наркоза – нельзя было. Боль невозможная. Хоть бы застонал!
設問1)和訳せよ。
設問2)Хоть бы застонал!を分かりやすく言い換えよ。

Posted by SATOH at 2006年11月27日 18:08
コメント

設問1)和訳せよ。
彼は麻酔もせずに手術を受けた。とんでもないことだ。痛みには耐えられない。うめき声でも上げればよかったのに。

設問2)Хоть бы застонал!を分かりやすく言い換えよ。
Если бы он застонал, боль была бы легче.

 быがあって動詞が過去形となると仮定法だと思ってしまいます。事実の反対やら実現可能性の薄いものやらを述べるのが仮定法ですから、実際に「彼はうめき声もあげなかった(あるいはうめき声すらあげないよう我慢して受けた)」という事実なり認識なりを筆者が持っていることになります。そして、Хоть быには!もあるところから願望を示す表現になっていると考えました。 さらに願望は条件節を表すものとなるので、主節がここは省略されているのではと妄想を膨らまし、上記の文章「うめき声でも上げたとすれば、痛みは楽になっただろうに」となりました。回答したロシア語が文法的にいいのかちょっと自信はありませんが・・

ちなみに第1文のнельзя былоはダッシュの前の内容が「存在してはいけないことだ」というところから「とんでもない」や「まさかねえ」などという意味になると解釈していいのでしょうか。さらに第2文は過去形の動詞がないので、麻酔なしの手術に対する一般的見解を示していると読みましたが、それでいいのでしょうか。
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訳も正解です。内容的にも理解は正しいと思います。емуを「彼は」と主語にしているあたり自然な日本語らしさを出そうという高橋さんの工夫が光ります。非常に論理的な解釈で、やはり20歳以上で語学を本格的にやろうとする人には、こうは言わないからただパターンを暗記しろというのでは勉強が長続きしないという私の持論を高橋さんは証明してくれるような人です。強いてコメントすれば、Боль невозможная.と名詞句なので(述語がないということで、невозможнаяが述語ならбыла невозможнойとなるはず)、かなり感情のこもった強い語調の訳が求められます。私の訳が正しいかは別にしてそういうニュアンスだということを頭に入れて置いてください。日本語でもそうでしょうから日本語も名詞句にしてもよかったかもしれません。設問2)の解答は分かりやすいが冗長です。私の訳は、
彼の手術は麻酔なしで行われた。それはあってはならないことだった。耐えがたい痛み。でもうめき声さえ立てなかった。
解説)小詞については露和辞典の解説だけ見ていると分からないことが多い。露露辞典の説明は無論正しいが、外国人にはすぐにピンとは来ないだろう。設問2)の答えはНи разу не застонал!
хоть быは感情的譲歩的否定または用いられなかった可能性の強調という意味の小詞です。感情的に強い意味の否定と考えればよいと思います。小詞ではведь, уж, жеなどいろいろありますから、そのニュアンスの差も勉強されたらよいと思います。

Posted by takahashi at 2006年11月29日 12:51

一応私も回答を出させていただきます。高橋さんの回答は見せていただいたのですが、その前に自分の回答はメモしていましたので。

設問1)彼は麻酔なしで手術をした。無理だった(あり得なかった)。とても辛抱できない痛みだ。うめき声さえたてられなかった。

設問2)Он не мог даже застонать(от боли или от обморока).

設問2は私も最初еслиを使おうとして、
Если бы ему сделали опероцию под наркозом, можно было бы застонать.
として、あとで読み返して自爆してしまいました。麻酔をしてたらうめき声なんて出ないよなぁ…まさにдурак! 高橋さんの、痛みが和らぐという表現が思いつきませんでしたので私はそのまま別の表現(意味のみの)にしました。
 それにしてもいやに口語的なбы やらведь, уж, же にはいつもまいってしまいます。外国人がこういう小詞を自由に使って会話ができたら、あるいは文章が書けたらすばらしいでしょうね。хоть бы は限定願望という理解ではいけないのでしょうか。
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設問2で「うめき声さえ出すことができなかった」というのは誤訳です(手術を受けているのは彼で、彼の状態について第三者が述べているわけですから)。麻酔なしで痛いはずなのに、「うめき声すら出さなかった(だから立派だ)」ということです。前にも高橋さんにも言いましたが、分析的に小詞をとらえることはよいことですが、一旦自分で意味の整理ができたら、今度は記号として覚えてゆかないと、せっさの通訳ができませんし、和訳するにしても時間がかかります。このхоть быは「限定願望」ではなく(~さえしてくれたらというのは、強いて日本語にすれば限定願望になるのでしょうが、そういう用語を知りません)、基本的には感情のこもった「否定」です。このхоть быがなければ「彼は痛みで気絶した」ということも一概に否定できません。この「否定」ということは辞書にははっきりとは書いていません。私はParticles in Colloquial Russian, Vasilyeva, Progress, 1972で小詞の勉強をしました。どこかの大学の図書館に、あるいは日本ロシア語情報図書館にあるかもしれません。この本にははっきりと否定として理解せよと書いてあります。他の小詞については辞書の説明である程度分かりますが、この本が一番詳しいと思います。私の出題に関する参考書は「ランポポー」の「引用文献2(実践ロシア語会話用)」をご覧ください。

Posted by メイ at 2006年11月29日 16:04

さとうさんにそう言っていただけるとロシア語学習の励みになります。ありがとうございます。

第2文は名詞句としてとればよかったのですね。さらに第3文の小詞ですが、これでいろいろなニュアンスの差が出るようですね。研究してみます。変な理解をしていたらまさしく小詞千万となってしまいますね。失礼しました。
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非常にユーモアのセンスがおありです。今、ロシアの駄洒落をいかに和訳するかというのを実験的にやっています。次に出す「ロシアのアネクドート」に入れるつもりですが、高橋さんこそ私より才能があるかもしれません。まだだれもやっていない分野ですから(多分あまりに馬鹿馬鹿しくて)、今から始めると第一人者になれるかもしれません。これでお金は入ってきませんが、一つの生きがいになるかもしれません。これに限らず、損得抜きでロシアの庶民文化の同志を募っています。まあ帯研やっても大衆文化をやりなさいということではありませんが。帯研でやっていることは中級の人ならちょっとしたヒントで実戦的(実践的)なレベルに上がれるということを証明したいがためです。せっかくロシア語をやっているのだから、勉強のための勉強ではなく、後進にロシア語を教えるとか、他の人のやっていないロシア語の分野で足跡を残してもらいたいということです。みながチェーホフやドストエーフスキーをやる必要はないでしょう。ちなみに36年ロシア人と付き合っていますが、ドストエーフスキーを読んだ人に会ったことはありません。私が一応全部著作は読んだというと、えらいとかああいうものは聖書と同じで全部読むと頭がいかれるといわれました。どっちも極端です。がんばってください。

Posted by takahashi at 2006年11月29日 17:42
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