2006年10月23日
●ロシア語黒帯研究会(略称「帯研」)第1回
ロシアへ興味を持つ人はそれなりにいるようだが、NHKのラジオ講座の扱いを見ていると、ロシア語学習者の人口が減っているように思われる。一番問題なのは初級を終えてから次の段階に進もうと思っても、教材自体があまりないことである。嘆いていても仕方がないので、その状況打開の一つとして、露露辞典を使えるか、使えると思っているロシア語学習者を対象として、小話や詩など短くて文脈の取れやすいテキストを使って、主にロシア語会話力向上のための研究会をやってみようと思う。やり方は手探りでやるしかないが、課題を出し、それに対する訳や解釈法、訳の問題点などを学習者のみなさんに書いてもらい、それを基に各自会話に活用するという形にしたい。語学研究会なので、ロシアに関するもので語学に関係しないもの(思想関係など)は対象外である。それとロシア語の初心者や初級者で、基本的な文法を知らない人(生格、完了体などという用語を聞いたこともないという人)は、NHKのラジオ講座テキストや現代ロシア語文法(城田俊、東洋書店)を勉強してから参加して欲しい。出題する小話自体は学習用なのでオチも面白くないものが多いということを頭に入れて欲しい。回答はコメントする要領でお願いする。また研究会であって、師範科や master classといった一方的に教えるものではなく、あくまでも私も含めてロシア語力を高めるためなので、正しい答えがない場合もありうるということと、文意は会話ではイントネーション、文脈(コンテキスト)による場合が多いという言うことを申し上げておく。多くの同志の方が参加してくれることを期待する。それでは出題しよう。
Муж приходит домой, смотрит – чемоданы стоят.
- Жена, к нам кто-то приехал?
- Нет, это ты уезжаешь...
設問1)和訳せよ。
設問2)2行目приехалを不完了体のприезжалに変えたら、意味にニュアンスの差が出るか?出るとすればどのようなものか?
設問3)設問のロシア語は正しいロシア語だが、和訳する過程で何かおかしいと感じたか?そうであればどこが?
…
黒帯、っちゅうことは初段…
初回にして既にアップアップですが、がんばります!
1、和訳
夫が家に帰ってみると、旅行鞄があります。
─ おや、誰か見えてるの?
─ 違う、あなたが出て行くのよ。
2、(2行目が)不完了体だったら…
来客があったが今は家にいるかどうか分らない、というニュアンスが出る…んですね、たぶん。
3、和訳する過程で何かおかしいと感じたか?
3行目で妻が不完了体を使っているところ:旦那を追い出すにしてもこれからなので完了体で未来の含みを持たせた方が良いように見えますが、さて。
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コーシュカ様、早速回答いただき感謝します。それでは私なりの訳とコメントを。
訳)旦那が帰宅して、見ると、スーツケースが置いてあります。
「お前、だれか来ているのかい?」
「いえ、あなたが出てゆくのよ」
解説)приезжалと不完了体を使うと、「誰か来てたのかい(来て、そして帰った)」となる可能性が高い。テキストにある完了体は結果の存続(つまり来て今も客がいる)という用法である。чемоданы(客がいると亭主は理解した)があるので、不完了体を使うと文脈が取れない可能性が出てくる。стоятなのでスーツケースは横に寝ていなくて立てて置かれていることがわかる。
コーシュカさんの訳は合格点ですが、「帰ってみると」が「帰って、見ると」とすると原文に近くなり、「旅行かばんがあります」の訳は一工夫欲しいところ。2行目 Женаが訳されていない(なくても意味は分かりますが、「おい」とか「お前」ぐらいの訳はした方がよいのでは?)。問題なのは訳は正しくとも、コーシュカさんが3行目の不完了体の用法の意味を理解していないことです。これは運動の動詞の不完了体の一部(定体であるидти, ехать, бежать, лететь, везти, вести, нести不完了体のгулять, переезжать, переходить(転職するという意味のみ), уезжать, уходить, уезжать, улетать, выходить, вылетать, отходить, отъезжать, отправляться, возвращаться, обедать, ужинать, завтракать, встречать. приступать, начинать, заказывать, брать, получать, посылать, пировать, кутить)で使う予定(未来)の用法です。вылетать, отходить, отъезжатьはかたい表現です。反復を強く意味しないような動詞群ということになります。例)В будущем месяце мы едем в Москву.(来週モスクワに発つことになっています(予定です))つまり未来なのに予定を意味するので現在形が使えるのです。これは英語の現在進行形で予定を示す用法と似ています。しかし不完了体全部にこの用法があるわけではないので、とりあえず上記の動詞だけと考えてそれらを丸暗記してください。
уедешьと完了体も使えますが、完了、つまりより明確だという意味が出て、夫が自分の意志で家を出るような感じなので、不完了体の予定の方が、「あなたが家を出ることになっています」となって小話のテキストのニュアンスが出ると思います。また完了体を使うと、遠い未来(半年後とか1年後とか)における行為の完了という風になります。完了体ほうが行為がより明確で具体的です。例) Он уедет в Японию через год.この他に未来形ではбуду, будетを使うものがありますが、未来において何度か行う行為やある一定の期間の行為について用いられます。例)Я буду читать "Войну и мир" через год.「戦争と平和」は通常一気に読めるものではないことはお分かりでしょう。через годを取ると、буду,будетの複合未来は口語(口語といってもビジネスから何から行うのは全て口語です。口語にも丁寧な表現とそうでないものがあるというだけです)では意向(~するつもり)を示します。例)Что вы будете пить, чай или кофе?設問の3に対する私なりの答えは次回にします。
コーシカさんの所ですれ違っておりましたメイです。初めてですが入れていただいてもよろしいでしょうか。こんなサイトを作っていただいて本当に有難く嬉しいです。ただ、雑事をかかえておりますので、できるだけチャレンジさせていただきます。今回はすでにコーシカさんに先をこされてしまいましたので、設問1私なりに会話部分のみ和訳(年期が入っておりますのでちょっときついかも)させて頂きます。
設問1)おい、誰か来てんのか?
いないわよ。出てくのはあんたよ!
設問3)すでにコシカさんに対する説明を読んでしまいましたので、それ以外でとなると1行目のприходитがどうして使われるのかなのでしょうか。今帰ってきたというならпришёлではだめなのでしょうか。
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メイさん、参加していただき感謝します。第2回のところで説明していますが、これは不完了体現在の特殊用法で、過去を生き生きと示すやり方で、歴史小説、伝記などでよく用いられます。無論 пришёлでもよいですが、生き生きとした感じは失われます。それと完了体の順次(一括化)用法というのがあって、пришел и посмотрелという風に、次のсмотретьも完了体とするのが普通です。これで「来て、そして見た」というようになります。小話でも地の文に稀ですが、完了体を使う例はあります。いずれ紹介します。 以上