2013年01月03日
●和文解釈入門 第594回
(264) 「旅順」Порт Артур, Степанов, Хужожественная литература, 1988(2巻)
日露戦争における旅順での戦いを扱った1200ページにのぼる長編歴史小説。日露戦争においてロシア側から見た旅順港攻防を描いている。日本人が敵として描かれているのは興味深い。記述が簡潔で読みやすいし、戦闘場面は圧巻で迫力満点であるほかに、女性も大活躍をして彩りを添えている。例えばヒロインのベーラヤ(実在のベールィ将軍の娘がモデル)とか、かかあ天下で有名なステッセル夫人とか、ハルチーナ(実在の女性で、女性ながら一兵士として戦闘に参加するも戦死)などである。大和魂をヤマトダサキと書いているのも御愛嬌。特に知将といわれたマカーロフ海軍司令官(1848/49~1904)のエピソードとそれにからんで広瀬中佐の名が出てくるのも一興である。マカーロフは水兵からたたきあげて提督になった当時のロシアとしては伝説的な人物である。惜しくも日本軍の機雷に船が触れて戦死した。彼が生きていれば旅順攻略にさらに時間がかかったかもしれないと言われている。司馬遼太郎の「坂の上の雲」と併読すれば一層興味が湧こう。私は未読だが、「旅順口」(袋一平・正訳、新時代社、1972年、3巻)という題名で邦訳されており、司馬遼太郎が前書きを書いている。
(265) 「対馬」Цусима, Новиков-Прибой,Узбекистан, 1985
日露戦争における日本海海戦(対馬沖海戦)を扱ったドキュメンタリー小説。高慢で浅はかな艦隊司令長官ロジェストヴェンスキーの性格や戦闘場面の描写、各艦の艦長、士官、乗組員の人間模様、特に探検家ミクルーホ・マクラーイМиклухо-Маклайの弟で戦艦ウシャコ-フ号艦長の戦死の場面などは優れているが、無理を承知で言えば、日本人や女性がほとんど登場しないこともあって彩に乏しいのが残念である。
設問)「彼女が急に現れたら、ママは何と言うだろう?」をロシア語にせよ。
Если бы вдруг появилась она, что же сказала бы мама?
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正解は正解なのですが、仮定法を使ってこの設問に回答する場合、時制が現在や過去といった事実に反する動作をしめすのであれば、つまり、男の人が「自分が女だったら」とか、「1年前ならこうしないのに」という具合であれば、それは設問とは違います。仮定法でも未来ということなら正解です。日本語では仮定法も条件法も文脈でしか区別がつきにくいと思います。設問も天国のママがとか、死んだママがとすれば仮定法過去でしょうが、無理に殺すこともありません。日本語の仮定法過去で「~であろうに」とするのは英語からの翻訳からきているように思います。
また「ママが急に現れたら」というのは、「ご飯を食べたら出かけよう」というような、相対時制の未来完了です。日本語ではロシア語同様、未来完了という形式がないので、過去を使って先に終了する動作を示すのです。私の答えは、条件法で未来完了を使ったものです。Что скажет мама, если она вдруг явится?
出題は例示的用法と順次的用法の組み合わせである。ちなみに、設問は、Горе от умаのФамусовという出世主義者のセリフ、Что станет говорить княгиня Марья Алексевнаを現代風にアレンジしたЧто скажет княгиня Мария Алексевна!(マリヤ・アレクセーヴナ公爵夫人は何とおっしゃるだろう!)をひねったもの。
設問のような未来に関する仮定を、上のような条件法ではなく、仮定法を使って回答してもOKである。仮定法は過去や現在の事実に反する仮定を示すが、未来においては条件法と意味はほとんど変わらない。未来は未確定の事柄に属するからだろう。仮定法の方が話し手の動作の実現に対する疑いのニュアンスがある。これについては現代ロシア語文法(城田俊、東洋書店、旧版311ページ)の説明が非常によい。他の文法書にはこのような説明はないようである。
Интересно, что сказал бы Путин, если бы мы пригласили в Иерусалим чеченцев?(我々がエルサレムにチェチェン人を招いたらプーチンは何と言うか興味がある)
Если она внезапно
появится, разве что мама скажет ?
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正解だとは思いますが、разве что = может быть, если только, только, лишьという意味がまず頭に浮かぶので、развеは取るべきだと思います。聞く方がすぐ話し手のいうことを理解できるような単語だけにし、別のニュアンスを強く暗示させるような単語はできるだけ避けるべきだと思います。
Что скажет мама, если вдруг она появится?
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正解です。
Что скажет мама, если она внезапно появится?
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正解です。
Если она вдруг появляется, как отреагирует мама?
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お答えは従属節のеслиには不完了体現在、つまり繰り返しで、主節が1回の具体的動作を示す完了体未来形ということで、バランスが悪いということになります。これでは一般的な文脈では意味が取れないでしょう。ママが言うですからсказатьなどの言うという動詞を選択することと、動作が次々行われるわけですから(ないしはそれを仮定するわけですから)、完了体の順次的用法をつかうべきです。和文露訳では、時制を意識することが大切です。動作は未来(非過去、つまり現在でも、過去でもない)であり、それ見合った時制の体の動詞を選択する必要があります。
Если она неожиданно появится, что скажет мама?
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正解です。