2010年10月11日

●ロシア語珍問奇問 第7回

泥棒が捕縛される場面で、Он шапку взял и хотел за шубой идти – глядь, дочка швейцара, девочка лет десяти и – закричи! Он бежать, она за ним. Его и схватили.という文を最近読んだ。ここで面白いと思うのはзакричиという完了体の命令形やОн бежатьという主語の後の動詞の不定形である。露文解釈だけなら文脈で何とか意味は分かるので、読み過ごすかもしれないが、露文和訳するときや和文露訳に活用しようと考えると、なぜそうなるかを文法書で調べることになる。自分勝手に文法体系が違う日本語と比較をしても意味はない。Русский язык, В.В. Виноградов, Высшая школа, 1972によれば、命令形の方は、действие, навязанное субъкту против его воли, предписанное ему как его обязанность(主体〔主語〕の意思に反し課された行為で、義務として予定された行為)で、негодование и протест(憤激と反抗)のニュアンスを持つとある。不定形の方は、Инфинитив несовершенного вида употребляется в значении прошедшего времени с интенсивно-начинательынм оттенком.(不完了体動詞の不定形は強い始動のニュアンス持つ過去の意味で使われる)とある。日本語で出ているいろいろなロシア語の文法書をざっとあたってみたが、満足な説明をしていたのは「ロシア文法の要点」(原求作著、水声社、1996年)と「ロシア文学観賞ハンドブック」(中沢敦夫著、群像社、2008年)である。もっともより徹底的に調べれば他に書いたのがあるかもしれない。「ロシア文法の要点」の218~219ページに動作の突発性、意外性を表現する方法という事で載っている。「ロシア文学観賞ハンドブック」のほうは259ページに「過去の不意の災難を現す命令法(1)」というのがあって、「過去の出来事を語るときに、不意に起こったり、望ましくない行為に、完了体動詞の命令法の形がつかわれることがあります。動詞の過去形を使う表現よりも、話し言葉的、俗語的な表現になります」とある。不定法については、265ページに「不完了体動詞の不定形が、主格の主語の述語動詞として文中に用いられると、動詞の行為・動作が急に始まることをあらわします。テンポの速い文章になります。話し言葉的・フォークロア的表現で、「やにわに」「たちどころに」と訳すことが出来ます」とある。この二つの文法事項にも十分な文例があるのがありがたい。さらにглядьについては意外性という説明をつけて261ページに「ふと気がつくと」という訳を添えてある。ロシア語を究めようと考える人であれば、両書は必携であると思う。一応訳してみると、「彼は帽子を取り、毛皮の外套に手を伸ばそうとした。ふと気がつくと、門番の娘が、10歳ぐらいの女の子だったが、不意に大きな声を上げた。彼はやにわに走り出した。女の子は彼を追いかける。結局(よってたかって)捕まえられてしまった」。ここで(よってたかって)を入れないと、女の子に捕縛されたことになり誤訳となるから、このような何かの工夫が必要だと考えた次第である。

Posted by SATOH at 2010年10月11日 12:53
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