2010年03月31日
●新帯研 第108回
(всегда) стрелочник виноват(なんでも下〔の人〕が悪い)とか、делать/сделать стрелочником + 対格〔人〕(下〔の人を〕を悪者にする)という表現が口語ではあるが、この由来は、20世紀初頭のモスクワで路面電車にはстрелочник(転轍手)というのがポイント(線路の分岐するところで車両を別の線路に導くようにする機械、転轍機)を切り替える仕事をしていたわけだが、たまに忘れたり、タイミングが合わないことがあった。そうすると上司から叱責されるわけで、この叱責が3回目になると首になった。転轍手の給料は1カ月20ルーブルで、これにボーナスが3カ月、住宅手当が5カ月分つく。仕事は6~12時間で、そう頻繁には電車も来ないので、忘れることもあったろう。ガイドや通訳をしていると自分が悪くなくとも、なんとなくガイドや通訳のせいにされていると感じることもある。被害妄想気味だがВсегда гид-переводчик виноват.とならないことを祈る。
ロシア人をロシア語のインフォーマントとしてお願いするという場合があるが、原稿のチェッカーとなると、バイリンガルでないと無理だ。日本語の日常会話が流暢でもそれはバイリンガルとはいわない。ロシア人で日本語とロシア語のバイリンガルとは、日本語でも新聞やテレビはよく理解し、コンピューターを用いて正しく漢字変換もでき、日本語も書ける人を言う。ロシア語だけ読んで、そのロシア語らしさだけ問題にして、肝心の日本語の意味がよく理解できていないと、結局チェッカーとしての役目を果たせないことになる。そういう場合は、スペルミスや力点のチェックだけをしてもらえばよい。インフォーマントとしても、教育程度、出身地域、年齢、性別(一般的に女性に技術関係、男性に着物や化粧品を尋ねるという意味で)によって信頼度が違うということも忘れてはならない。
人力車рикшаについては幕末の英国外交官アーネスト・サトウが1867年関と桑名を旅行したときに、人間が引く小型の無蓋の乗合馬車に大人が6人ほど乗っており、同行した医師のワーグマンが富田から桑名まで5マイル乗ったのが最初のころの人力車ではないかと述べている。1869年から日本で人力車が流行りだしたという。ロシアには人力車はなかったが、19世紀のモスクワの学生の間で贔屓の女優に対しては、馬車から馬を外して、自分が馬となって馬車を引きその女優(あるいは俳優)をモスクワ中引張りまわし、彼女あるいは彼の自宅まで送り届けたという。これをездить на студентах「学生に引かせて(馬にして)行く」と言った。1929年から31年コムソモールの中央委員会ビューロー委員だったチェモダーノフ(1903~37)の経歴に、13歳から働きだし、電信技手になる勉強をしていたときに革命を迎え、その後2年間消費協会モスクワ連合のエージェント・車夫агент-рикшаとして働いていたとある。お抱え運転手みたいなものか?これ以外ロシアやソ連に人力車があったかどうか筆者は知らない。没年から分かるように彼は銃殺された。
最近見つけた喫煙者への掛け口。Кури, кури, скотина – умрёшь от никотина.(喫えよ、煙せよ、ニコニコと、さすれば、くたばるニコチンで)。他の掛け言葉でЧасть речи , которая упала с печи и ударилась об пол, называется глагол(暖炉から落ちて床にぶつかった品詞は動詞という)のを見つけた。今回の課題は、
Поручик Ржевский и Наташа Ростова гуляют в парке.
- Поручик, вы любите романы? – спрашивает Наташа.
- Очень люблю, особенно, с введением.
お願い致します。
パルーチク・ルジェフスキーとナターシャ・ラストーワが公園を散歩している。
―パルーチク、あなた長編小説はお好き? ナターシャが尋ねた。
―大好きだ。特に冒頭部分がね。
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поручикは革命前の軍の階級ですから、チャンと訳すべきでしょう。романыに長編小説と恋愛をかけ、введениеはвводитьの動名詞で、「導入」、「中に入れること」というそのものズバリのことが好きだと言っているわけです。「冒頭部」ではオチが伝わらないと思います。私の訳は、
ルジェーフスキー中尉とナターシャ・ロストーヴァが公園を散歩していました。
「中尉、小説はお好き?」とナターシャがたずねました。
「とても好きです。特に導入部は」
>поручикは革命前の軍の階級ですから、チャンと訳すべきでしょう。
そうでした。なぜか、人の名前だと思い込んでしまっていました。
>романыに長編小説と恋愛をかけ、введениеはвводитьの動名詞で、「導入」、「中に入れること」というそのものズバリのことが好きだと言っているわけです。
そういうオチでしたか。いろいろ考えましたが、長編小説を読み通せずに最初の部分しか読まないとは何と馬鹿な男―というオチかと思っておりました。
有り難うございました。
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ロシアのアネクドートにはいくつかジャンルがありますが、ルジェーフスキー中尉も大きなジャンルで、スケベで下品な小話が多く、トルストイの「戦争と平和」の登場人物ナターシャとよく一緒に出てきます。