2009年02月12日
●ロシア語質問箱 第5回
千夜一夜物語というとバートン版が有名だが、最初のモスクワ駐在の時(25年前)に本のベリョースカ(外貨店)でサーリエСальеという人がアラビア語からロシア語に訳した4巻本(Правда, 1986年)を買った。第1巻は読んだのだが、そのまま放置してあったのを思い出し、最近20年ぶりに手に取って読みだしたら、結構面白い。バートン版を読んだわけではないが、第1巻には「アラジンと魔法のランプРассказ про Ала ад-Дина и волшебный светильник」、「アリババと40人の盗賊Рассказ про Али-Баба и сорок разбойников и небольницу Марджану, полность и до конца」などが収められている。アラジンの方は童話やアニメで聞いたり、見たりしたものとは幾分違う。アラジンは中国生まれであり(その中国の様子はアラブとしか思えないけれど)、悪童で街の悪ガキと遊ぶのが大好き。とうとう父親が心配のあまり死んでしまった。16歳のとき今のアフリカのリビアから魔法のランプを求めてやって来た魔法使いに言いくるめられて、ランプのある地下の洞窟に入る。魔法使いから魔法の指環をもらい、それをもってランプをもって地上に戻ろうとするのだが、ランプを渡そうとしない(ランプをポケットの奥にしまい、そこに宝石を詰め込んだのですぐには出せないため)アラジンに業を煮やした魔法使いは、洞窟の出入り口を魔法で封鎖してしまうが、魔法の指輪の精の力で、外に出る。その後、母親の勧めでランプを売ろうとしては汚いランプを母親がこするとランプの精が現れるという次第である。このランプの精は顔がさかさまについているという恐ろしい魔神だったが、言う通りに豪勢な料理をアラジンと母の前に出してくれた。最後はめでたしめでたしなのだが、その魔神が、アラジンの要求に愛想を尽かすというもの。アリババにも息子がいたりして面白い。
(質問)う~ん、難しい。やっぱり完了体・不完了体は奥が深いですね。これだからわからなくなってしまうのです。でも、私などは言われるまでそんなところに気づきませんでした。これは文法的にはどうとらえればいいのでしょうか。その行為をしっかり完了して下さいということを頭において言っているととらえてもいいですか? by メイ(新帯研第44回へのコメントから)
(回答)「トイレはどこか教えてください」と言う意味でГоворите, где туалет? は文法的に成り立たないと前に書いたが、厳密に言うと、文脈次第でちゃんとしたロシア語として通用するときもある。露訳された千夜一夜物語の中で、女詐欺師に騙された染物屋が、これも騙された将軍の妻や若い商人を共犯者だと勘違いして、二人に対して開口一番、Говорите, где она!という。この場合は、相手を共犯者だと思い込んでいるから、質問は「あの女詐欺師はどこだ?」というこれしかない。それで不完了体が出てくる。Говорите, где туалет?も、駅でトイレがしたくて股間を抑えているようなときに、その駅の職員が通りがかったら、駅員は駅のトイレの場所を知っているのが当然で、しかもただならぬ様子を見れば、察するはず。そういうときは、不完了体が出てくる。Скажитеという完了体は、新しい情報を得たいときに使う(これが質問するときの一般的な形態である)。つまり、完了体と不完了体の用法の違いを一言で言うと、完了体は「新規なもの、想定外のもの、場違いなもの」に用いられ、不完了体は、「その場では意識にのぼらないほど当然であることに用いられる」となるが、初級者・中級者では、具体的に命令法、不定形、過去形、未来形、現在形に分けて、それぞれ勉強した方が分かりやすいと考える次第。完了体は完了を意味し、不完了体はそれ以外と考えると一部の体の用法しか理解できないことになる。体の用法は露文解釈で基本を覚えるのが重要だが、そこで止まっていては畳の上の水練と同じである。ロシア人と会話するときに意識的に納得のゆく体を使えるよう積極的に心がけることである。