2008年02月11日
●新帯研 第4回
今の若いサラリーマンは時間がないため、ニュースもネットでキャプションだけ流し読みして世の中の動きを調べるぐらいで済ませることが多いようだ。情報の質よりはその伝達スピードを重視しているように見える。多くはそれでよいのだろうが、世の中白黒はっきり分かれることはあまりないわけで、マスコミのキャプションに乗せられないためにも、ある問題について深く突っ込んだ記事を読む癖をつける必要がある。ロシア語の専門家だから、ロシアとせいぜい日本の新聞やテレビを見ればよいというのはおかしい。英語が国際語であり、タイムなど読めるように、またCNNなどを毎日見るようにしておけば、ロシアや日本に対してもより世界的視野から、政治、経済、社会、文化、歴史、科学技術などあらゆる分野の物事を客観的に見ることができるというものだ。私は30歳からタイムをcovet to coverで読み始め、この10年間CNNやBBCもニュースを毎日30分は見るようにしている。ロシアのマスコミも偏見があり、日本の新聞やテレビもそうだということがよく分かる。タイムとCNNは私にとってよい導きの書である。
一般の日本人はロシアのことについてもニュースの1行程度の情報ぐらいしか知らない。我々ロシアの素人専門家は、プロの専門家のやらないような、例えばロシアの大衆文化を研究し、日本の庶民に紹介してゆくためにプロの読み手となったらどうだろう?そうであれば、そのためにこそロシア語の俗語や隠語を極める必要があるのだと思う。今回の課題は、
На пустынном морском пляже одинокий мужчина встречает девушку:
- Скажите, здесь по близости есть милиции? – спрашивает он.
- Да нет здесь никакой милиции – отвечает девушка.
- Тогда раздевайся!
設問1)最終行のраздевайсяを完了体命令形に代える事ができるか?
設問2)訳せ。
先日メールにて回答させていただいたものです。そのときいただいたさとうさんのコメントも合せて投稿します。
問1)
不完了体の命令形で動作を促すことになりますので、ここは不完了体のままでいいのではないでしょうか。女性がぐずぐずしていたら(当然そういう状況ですが)、そのときには「とっとと脱ぎやがれ」と完了体の命令形「Разденься!」と強く出てくるのではと思います。
<和訳>
人影もまばらな海岸で、男がある女性と出会いました。
「すみません。このあたりに警察はいますか」と男は尋ねました。
「いいえ、ここには警察などいませんわ」とこの女性は答えました。
「それでは服を脱いでもらおうか」
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これは不完了体の着手(動作の促し)を示す用法ですから、不完了体命令形が普通です。完了体命令形にする場合には、何か新しい情報や場面設定が必要です。例えば、「ここではなく、向こうの家の中で脱げ」などという場合です。Садитесь! Сядьте ближе к столу.(お座りなさい、テーブルの近くにお座りください)などもそうです。こういう場合にいきなり完了体の命令形を使うと、非常に奇異な感じが出るので、逆手にとって文学では無礼な感じを出したりするときに使います。高橋さんが考えているように、完了体の命令形だから強い表現なのではなく、体の用法を違って使うと不完了体でも強いというか無礼な感じが出る場合もあります。まあイントネーションもあるのですけども。体の用法については、過去、未来、現在、不定法、命令法、時制の転用に分けて勉強する必要があります。最近ではさらに動詞群に分けて体の用法を研究するようでもっと細かくなっているようです。「ロシア語のアスペクト」(林田理恵、南雲堂フェニックス)は最初の歴史のところはこれが日本語かというくらい悪文ですが、主題に入ると分かりやすくそれなりに現代の体の用法研究の流れが分かる良い本です。ただこの本を読んでも体の用法が使えるようにはならないでしょう。露文読解の本であって、和文露訳に使える本ではありません。さて追記しますが、命令法では、不完了体は着手の意味が非常に強く出ます。不定法では不完了体は切迫感の意味でよく使います。高橋さんの和訳は私のよりよいと思います(特に「人影まばらな」とか、「警察がいる」とか)、私の訳は、
訳)人のいない海辺の砂浜で一人っきりの男が娘と出会いました。
「この近くに警察はあるかどうか教えてください」と男がたずねました。
「ここには警察なんぞありません」と娘が答えました。
「だったら脱ぎな」
引き続き追跡参加いたします:
設問1)最終行のраздевайсяを完了体命令形に代える事ができるか?
文の流れから難しいように思います。
完了体だと「(さっきから何度も言ってるのだから、さっさと)脱げ」となるので、この続きで女の子に抵抗してもらうか何かの件がないと完了体は出て来辛いのではないでしょうか
設問2)訳せ。
人気のない砂浜で独り者が年頃の娘と出会います。
「すみません、この辺りに交番はありますか」と男が尋ねます
「いえいえ。ここには警察なんてものはありませんよ」
女の子が答えます
「じゃ服を脱ぎな」
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命令形の完了体の用法についてのコーシュカさんの答えは結果オーライのように見えますが、まだ完了体の命令形には「さっきからいっているのだからさっさと脱げ」というようなニュアンスはありません。完了体を使うには新しい設定が必要になるということを理解ください。
>完了体を使うには新しい設定が必要になる
いい機会ですので原先生『ロシア語の体の用法』をひもといてみました。今回は脱ぐという動作への着手を促す、という意味で不完了体が正しい、ということですね。
「さっきから言っているのだから…」は取り違えていました。125頁中程の例文で、完了体の命令で動作の完遂を促したものの、相手がもたついているので不完了体に切り替えて着手を促す、というのがあり、これを逆にして覚えていたようです。おかげさまで間違いを正せました。ありがとうございます。
124頁の、相手に予期があるかないか、という解説が面白かったです。これでいくと(理屈の上では)完了体でもいけそうな気がしました:状況から脱ぐのが当然とは言えなさそうですし。
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誤解しないでほしいと思うのは、「脱げ」と言っている人にとっては脱ぐのが当然と思っているということです。言葉は、そして体の選択は話者が決めることで、はたで見ていて(客観的に)当然かどうかということではないのです。別の例で言うと、「タクシーをつかまえる必要がある」を訳すと、Нужно взять такси.でも、Нужно брать такси.でもどちらも正しいロシア語ですが、不完了体不定形は切迫感が感じられます。つまりこの表現を使うときにどちらかの体を話者は選んでいるわけで、どちらでもニュアンスが同じということではないのです。