2006年11月22日
●帯研(第12回)
出題をどう見つけるかというと、この頃は翻訳や通訳の仕事が閑で、本の執筆が一本だけ(ロシアのアネクドート決定版)なので、もっぱらロシアの本を精読(力点や文法のおかしいところなど徹底的に調べる)している。主に自伝でГромыкоやЖуков、Маяковскийの詩、ЧуковскийのНекрасовなどの評伝、Русский Китайという昔のハルビンについてという本を10ページずつ10冊、つまり100ページほど精読している。その中で偶然出題できるようなものが見つかるというわけである。アネクドートについても本を書いたぐらいで、コレクションはいっぱいある。オチが面白くなくて本に載せられないアネクドートでも、会話などで出題に使えるものもたくさんある。そういう中から出題している。今回はビジネスロシア語で工場見学のときによく使われる表現から。もっとも前回も出張がらみでビジネスロシア語でよく使う表現ではある。前回の続き。
Завод построен в 1991 г.
Первый завод был построен в 1991 г.
Завод был построен в 1991 г.
設問1)ロシア語としておかしい文はあるか?あるならその理由を述べよ。
設問2)正しいと思う文だけ和訳せよ。
設問1)ロシア語としておかしい文はあるか?あるならその理由を述べよ。
ロシア語の学習不足が露呈してしまうようで恥ずかしいのですが、私には文法的にすべて可能であるように思えます。次のように考えました。
一番目の文章は過去に建設されて今も建っていることを示している文で、英語でいえば現在完了形のような意味合い。2番目・3番目の文章は、был が使用されているため「1991年に建設された」という過去時の事実を述べている(現在は工場が存在していない可能性も示しているように思えます)か、あるいは「1991年当時にはすでに工場が建設されていた」という意味で用いられている場合もあると思いました。(後者の場合は英語でいうと過去完了形ですね)。
ちなみに私事で恐縮ですが、予備校で英語を教え始めて16年になります。そのため英語とのアナロジーで考えてしまいました。
設問2)正しいと思う文だけ和訳せよ。
この工場は1991に建てられたものです。
最初の工場は1991年に建てられました。
その工場は1991年に建てられました。
былがあるのとないのとでЗаводに対して時間的なものだけではなく空間的にも認識の上からも距離感が出てくるような感じを持ちました。
ご教授のほどをお願いします。
ばっさり斬ってください。
takahashi
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見事な解答です。これほどの解答は予期していませんでした。英語は専門ではないので英語での比較には答える資格がありませんが、私の解答は、
全部正しい文だが、ニュアンスが違う。1991年という過去にこだわる必要はない。証拠にロシアの検索エンジンでоснованというのを検索すれば年とбытьの過去形の有無でいろいろな組み合わせが見つかる。被動形形容詞過去短語尾は完了体他動詞から作られるから、当然結果の存続(現存)というニュアンスを持つ。Бытьの過去形の有無は、その存続の効果が現在までか、あるいは過去のある時点までかを指す。1番目では現在まで工場が変わらずに存在しているというニュアンスがあるし、2番目では第一工場は1991年に建てられたが、今は取り壊されたか、改装されたというニュアンスが出る。3番目も2番目と同じニュアンスになる。この疑問文は Когда завод построен?と現在形で聞かれるのが多いのは、聞き手がすでに目の前にある工場を見て質問しているからであり、Когда была основана ваша фирма?と言えば、会社が設立されてから、組織が変わったということを前提にして尋ねているというニュアンスになる。そのためか、会社概要などには、Когда основана фирма:という欄があり、現在形である。これはビジネスロシア語で工場見学の際に必ずといって聞かれる文である。もっと分かりやすい文で説明すると、
Рукопись представлена в издательство.(原稿は今現在出版社にある)
Рукопись была представлена в издательство.(原稿は今現在出版社にない可能性が高い)
これについては城田先生の「現代ロシア語文法」の解説が非常によい。サイトなどでロシア語上級文法と銘打って書いているものもあるが、ロシア語のアカデミー文法やその類を和訳しただけで、咀嚼されていないし、例文も使えないものが多く役に立つとは思えないが、城田先生文法書や原求作先生の「体の用法」は、完全に咀嚼消化してわかりやすく解説しているので非常に役に立つ。大学の先生というのはこういう風に語学学校以外で(語学学校を終えて)勉強する学習者にも語学力向上の機会を与えるのが責務だと思う。ただこの種の本が他にあるのか私は知らない。
ご無沙汰しております
1)ロシア語としておかしい文
どれもいけそうやけどな…
最初の文でしょうか。「91年に建てられた」、と過去のことを言っているのに、過去を指す要素が含まれていないので不十分な気がします。
仮に91年がなくて、「[これから]建てられる」と言うにしても、被動形動詞の過去を使う以上はбудетくらい付けてあげた方が親切な気がします(それとても不自然な言い方だという気がしないでもないですが…)。
2)正しいと思う文の和訳
真ん中のが「[幾つかある工場棟のうち]第一工場は1991年に建設された」で、3番目が「[施設全体を指して]工場は1991年に建設された」です。
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体調回復したようで嬉しい限りです。私の解答は高橋さんの(この解答が一番早かったので)コメントを見てください。大学でも被動形形容詞短語尾現在についての説明がなされていないようですが、これは使う環境がどのようなものか先生方が知らないからだと思います。ビジネスロシア語の工場見学ではよく使われるものです。
お褒めいただき恐縮です。
英語で身につけた感覚でロシア語を捉えても同じことが言えるのでは、と以前から思っていました。人間の使う言語ですから通底する同じイメージがあり、それがたまたま英語なりロシア語なりで表されているだけかも、という自分なりの西洋の言語に対する”勘”があるのですが、今回はそれが幸運にもあてはまったようです。被動形形容詞過去は英語の過去分詞と同じ捉え方ができることが認識できてよかったです。
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英語とロシア語は同じインド・ヨーロッパ語族ですが、違う面もあります。例えばロシア語は時制の一致にこだわりませんし、when, ifなどで英語は現在時制ですが、ロシア語は未来時制です。英語から類推あまり当てにしないほうがいいと思います。未来時制については日本語との方がはるかに近いような気がします。
この出題はとてもありがたかったです。
実はすでに一度失敗ずみだったので。数年前、ロシア人からпостроенなのかбыл построенなのかどっちなんだと詰められたことがあり、懐かしく思い出しました。いま一度こんなかたちで確認でき、皆さんから正確な説明をうかがえて本当によかったです。ありがとうございました。