2020年02月02日
●第117回
(彼は死んだ、死んでいる)Он мёртв.
(彼は死んでいた)Он был мёртв. <発話の時点以前に>
(彼は墜落死した)Он упал мёртвым.
(俺の勝ちだ〔お前の負けだ〕)Бита! <カードゲームで、Ваша карта (ставка) бита. を略したものであり、この動詞битьは不完了体だが、無接頭辞単純動詞(本源動詞)と考えてよく、被動形動詞過去短語尾で結果の存続を示すことができる>
3-2-2 否定の強調 → 完了体動詞未来形の否定
完了体は刻々と動く動作のその瞬間を表現できないことから、その一点を仮に広い意味での今(今現在の一瞬後)と考え、それでも具体的な1回の動作が遂行されないとなると、主観的イメージということから否定の強調という用法になる。万に一つの動作も否定するわけで、これは例示的反復の否定と考えてもよい。一方、動作の否定は動作が全くないのだから、一般的に動作がないというのは意味的に不完了体動詞の領域に属する。つまり過去、現在、未来の動作における規則的反復の否定ということになる。一方完了体動詞未来形を否定するというのは、完了体の本質である具体的な動作を否定することになり、次項で説明する不可能の用法もそうである。
完了体動詞未来形の否定の強調は、4-2-3項の例示的用法や3-2-4項の例示的反復から派生したもので、一つで全体を示す、つまり一つたりとも(ほんの少しでも)~しないということがниなどを用いて明示的にも、あるいはниなどを用いずに暗示的にも表現されている場合は、潜在的可能性すら否定するため完全な否定となる。例示的用法と関係があるために、完了体動詞未来形が用いられているが、その動作を打ち消しているために、発話直後の出来事を含む広い意味での現在の時制でも用いられると考えてよい。未来の時制の完遂的用法4-2-1項でも述べるが、完了体は話し手が動作遂行の結果として、時間軸の特定かつ不動の一点(到達点)をイメージするため、主観的ニュアンスを帯びる。この用法では近接未来ближайшее будущее(発話時点のすぐ後に続くか、発話時点と融合した未来)において動作がないことを示しているのであり、否定の意味の近接未来完了(完遂的用法4-2-1-4項)とも言える。この用法には未来を示す状況語が動詞を修飾していないという前提がある。修飾していれば未来完了の可能性が高い。完了体未来形の否定というのは、未来の時制における具体的な1回の動作を否定するということであり、文脈によって、近接未来完了(4-2-1項参照)の否定の強調なのか、未来完了(4-2-1項参照)の完遂的用法(具体的な1回の動作)の否定なのかを区別することになる。
また否定の強調という主観的ニュアンスがあり、そのため動詞に焦点が来ているので完了体が用いられていると考えることもできる。この用法は不可能の用法と区別がつかないことがあるが、和文露訳をする上で実用上は問題がない。
(返さないったら返さない)Не отдам, и весь сказ!
(弁護士がいなければ一言もしゃべらないぞ)Без адвоката я ни слова не скажу.
(これ以上安くは渡さないよ)Дешевле не отдам.
(許さん!)Не позволю!
(さっぱり分からない)Ничего не пойму.
(このことは繰り返しませんから)Это не повторится.
(作業割当担当者や班長も一人として敢えて囚人を足蹴にしたり、手を上げたりする者はいない)И ни один нарядчик и ни один бригадир не осмелится пнуть ногой или замахнуться на зэка.
(彼のことを呼んでいるのに、彼ったら動こうともしない)Его зовут, а он с места не сдвинется.