2020年02月03日

●第160回

ということは普通の文脈ではありえない展開であろう。もし敢えて露訳するならРазбейте вазу.と完了体動詞命令形が来るはずである。そういう意味で、забыть忘れる、потерять失う、разбить割る、сломать壊す、убить殺す、ударить殴る、уронитьなくす、などの瞬間動作動詞(瞬時の移行・変化を示す動詞)を含む否定的結果の意味がある動詞は語義的に場独立型であり、完了体が出やすいという事が言える。2-2-6項参照。

5-1-1 促し(着手、切迫感、焦燥感) → 不完了体動詞命令形

 不完了体というのは話し手にとって、動作事実の有無の確認、つまり、頼み、助言、命令などの付属的なニュアンスのない動作そのものを示すわけだから、命令法においても、すでに状況設定(心理的な踏み台)が出来上がっている場合、あとは動作を促すだけであるので不完了体命令形が用いられる。それは2-1-6-1項のみなし反復の一種とも言える。促しпобуждение к действию(着手приступ к действию)といっても、不完了体の属性であるニュアンスのなさから発生するもので、自発的に(勝手に)促すのではなく、その場でその動作をすることがその状況下においては自然であるという認識が、聞き手や第三者にとってはともかく、話し手にはある場合である。その場の雰囲気によってなされる自然体である動作の要請、つまり相手の動作にきっかけを与えるための合図に使われ、勧誘的な意味合いを持つ。いわば、その場の空気を読む用法だと考えてもよく、不完了体は場依存型であるといえる。動作することを特にイメージしない、その状況では他に動作の可能性がないという事で、純粋に動作自体を意味する不完了体が用いられるのだとも言える。
完了体は刻々と動く動作のその瞬間を表現できないことから、完了体には叙想的(主観的)ニュアンスが出てくる。そのため明日とか2時にとか、動作への促しと発話時点を結びつかないような時の状況語がある場合は、完了体動詞命令形が用いられる。ただこのような状況語がない時は、発話の時点ではないとはいえ、一瞬後以降の未来の動作を示すので、促しの用法と見分けにくいことがあるが、完了体命令形は新規の具体的1回の動作に用いられると考えればよい。
着手という用法は動作の完遂をイメージしない、完遂であれば、完了体の命令形を使えばよい。そのため着手の用法では、始発(начать/начинать, отправлиться/отправлятьсяなど)、継続(продолжать)、終了(кончить/кончать)を意味する動詞の後では、不完了体不定形を取ることになる。
動作の継続を前提したときは不完了体命令形が用いられ、その他にも今すぐといった発話の時点での動作の着手のときは、切迫という用法という事で、不完了体動詞命令形を使うと考えてもよい。この切迫という用法にしても、暗黙かそうでないかは別にして、切迫となるような前提条件があるわけで、その前提があるということ自体がみなし反復となり、不完了体が用いられるということである。切迫に不完了体が用いられるのは6-1-4項の動作の着手の説明も参考にされたい。
この促しの用法は、かけっこのときのよーいドンや、試験の時の試験官の「始め」の合図のようなものだと考えると分かりやすい。話し手は合図をするだけであり、動作をするかしないのかは聞き手次第と考えているから、促しは任意の時間軸の特定かつ不動の一点における動作ということになる。この用法では聞き手はその一点をなんとなくイメージしているが、話し手は完了体のようにその一点を明確にイメージしているわけではない。促しの用法と関連のある5-1-2項の勧誘の用法では、動作が行われるのが任意であるということがより明確である。

(始め!〔続行!〕)Начинайте! (Продолжайте!) <начинать, продолжатьは、新しい事態や情報が出て来る場合や予想外の状況とか、話題の転換を除き、不完了体動詞命令形で使う事が多い>
(おかけ下さい)Садитесь!

Posted by SATOH at 2020年02月03日 21:14
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