2020年02月03日
●第159回
第5章 命令法
命令法の体の使い分けは不定法と非常によく似ている。命令法では過去や厳密な意味での現在の時制は示せず、また示す必要性もない。なぜなら過去や現在の動作はすでに起こったか、起こりつつあり、命令する意味がないからである。もし過去や現在の時制を命令法で示すとしたら、起こった、ないしは起こりつつある動作とは反対の、つまり起こらなかったり、起こっていない動作を示す事になる。それは仮定法過去の過去と現在の時制ということになる。命令法は時制的には未来であり、多くの場合近接未来に属する。ただ遂行動詞(3-1-4-3項末尾参照)的な用法(お詫びします)Извините.もある。
(トイレはどこか教えていただけませんか) Вы не скажете, где туалет?
上の文は丁寧なお願いであり、普通に言えば、Скажите, пожалуйста, где туалет?となり、ここから命令法はこれからの動作ゆえに未来の時制を示すことが分かる。完了体命令形は近接未来(発話時点のすぐ後に続くか、発話時点と融合した未来)が多いが、遠い未来も動作の結果を踏まえて表現できる。完了体は回りの状況に左右されないので、聞き手の感情にも左右されないという超然的なニュアンスがある。不完了体は回りの状況に依存するので、願い事、説得、主張、反抗的態度、脅しなどの感情的な色彩をもつことがある。Продолжайте.(〔そのまま〕続けなさい)やОставайтесь.(〔そのまま〕残っていなさい)というように、現在の状態のまま動作をつけるという命令も、そのままにせよという指示は一瞬後であり、ほぼ現在と言える動作事実の有無の確認、近接未来の反復や状態の動作を命令する。つまり、命令法では不完了体も完了体も時制的に言えば、早くて一瞬後とはいえ、これからの動作だから、未来の時制との関わりが強いと言えるため、未来の時制の体の用法が大いに参考になる。5-2-4項などその典型だろう。8-13項の一人称複数、9-12-1項の三人称や一人称単数の命令法も同様な解釈ができる。
命令法では一般的に二人称の主語をつけないが、тыやвыをつけると、命令、助言、鼓舞などに断固たる調子を加味することになる。
(どんどんお尋ねください)А вы спрашивайте.
5-1 命令法における不完了体の用法
動作の全一性というのは完了体の特質とされるが、不完了体にも現れる場合がある。特に強く現れるのが次項で説明する命令法の促しや着手の用法である。完了体は話し手が動作遂行の結果として、時間軸の特定かつ不動の一点をイメージするのだが、不完了体におけるこの点は全体を一つの大きな点として見立てたものであり、不動の無限小の一点ではない。完了体の動作の全一性には動作の結果を包含しているが、不完了体は動作の結果を意識しないから、全一的動作を提示ないしは示唆していることになる。いわば動作に主観性を与えず、聞き手にその動作を行うかどうかの選択の余地があることを示しており、この状況下ではこうするのが自然であると言っているに過ぎない。ただこの状況下ではこの動作ということを強調すれば、義務や強制というニュアンスが出てくるが、これは何色にでも染まる不完了体の特性であり、それは飽くまでも文脈に依るのである。
不完了体が場依存型で、完了体が場独立型だと何度か説明したが、これは不完了体が聞き手にとって恣意的動作であり、完了体は話し手にとって恣意的な動作であることを示しており、それが語義からも分かる場合がある。部屋に人を招いて、ソファーがあれば、「おかけ下さいСадитесь.<不完了体動詞命令形>」というのは雰囲気的に自然で、これこそ場依存型の典型みたいなものだが、部屋に花瓶があっても、「花瓶を割りなさい」