2020年01月31日

●第99回

 経験には明確に一度だけという経験と、回数は一度ないしはそれ以上の経験と、いつかという事も分からないという経験があるが、明確に一度だけという経験は点過去であり、2-2-1項を参照願う。この項で扱うのは、後者の回数ははっきりしないが、一度ないしはそれ以上であり、いつかという事を覚えていないか、特にイメージしない場合である。

3-1-7-1 経験の用法と不完了体動詞過去形

(不名誉な〔彼の名誉を棄損するような〕係累なし)Связей, порочивший его, не имел. <人事考課の決まり文句>

 上の例文でも分かるように、経験(~したことがある)の用法は〔過去の時制〕の項の動作事実の有無の確認の用法の一つであり、不完了体動詞過去形を使う。これは経験では過去の動作はあるが、現在や未来の動作はなく、過去の時制以外では使われることがない不完了体過去形が用いられているためである。過去において少なくとも1度そのような動作があったことを示すが、いつかとか、回数については言及しない。同じ経験という用法でも、ただ1度の経験に言及し、かつ動作の起きた時点がいつかということを明示するかどうかは別にして、念頭に置く場合は、完了体動詞過去形の点過去の用法が使われるので、違いを明確に理解することが必要である。不完了体動詞過去形は、具体的な過去を示す時の状況語(3日前とか、1965年とか、昨日など)を話し手が特にイメージしないため、相性が悪く一緒に使えないと考えてよい。使えるとしたら、例えば昨日のような状況語が時間の軸の一点ではなく、期間を示す場合である。この用法であることをより明確にするために、прежде, раньше(以前に)、хоть раз(一度でも)、когда-нибудь(かつて)、уже(すでに)という状況語と一緒に使われることもある。また否定文では不完了体動詞現在形も使える。3-1-9項の多回動詞の用法も参照願う。

(淋病、梅毒の治療を受けたことがおありになりますか?)Вы лечились когда-нибудь по поводу гонорея, сифилиса?
(以前尿に血が混じっているのに気がついたことがありますか?)Вы замечали прежде кровь в моче?
(胃の切除のとき1度アシストしたことがある)Один раз ассистировал при резекции желудка. <1回の経験だが、具体的にいつの時点かを意識していないのと、動詞に継続の意味があるので不完了体動詞過去形が来ている>

この用法は日本語の「~したことがある」と訳の上でかなりうまく対応するが、いつもというわけではない。日本語では「一度~したことがある」や「一度も~したことがない」は普通の日本語だが、ロシア語にする場合、肯定文である前者でも過去の特定のいつかをイメージしている場合は、完了体動詞過去形を使うし、否定文である後者でも完了体・不完了体両方の過去形(2-2-1-6項参照)が使われる。100%言葉だけに頼らずに場面をイメージすることが大切である。

(肉を食べましたか?)Вы ели мясо?

 上の文を「肉を食べたことがありますか?」とするのは、菜食主義者への質問などを除き、よほど特殊な文脈であろう。これは食あたりのときに肉を食べたかどうかを医者が聞いているにすぎず、動作事実の有無の確認という用法である。日本語の「~したことがある」という経験の用法も、露訳すれば動作事実の有無の確認の有無の一つではあるが、обедатьなど日常動作の規則的反復を意味する動詞は経験の意味に用いられない。これは経験という用法が日常的で当たり前に行われるような動作には用い

Posted by SATOH at 2020年01月31日 16:08
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