2020年01月26日

●第9回

繰り返すが、どのような文でも、基本は動詞であり、動詞があれば過去・現在・未来という3つの時制やアスペクト(出来事が進行中か、継続中か、終了したかなど動きの局面に注目する文法形式)、法(命令法、不定法)が存在する。それを時制が現在(特に「毎日~する」などの習慣・反復)だけで、内容のある会話が5分も続くことは、普通はあり得ないだろう。ロシア語と日本語の時制が同じであれば、特に問題はないのだろうが、この二つの言語の系統は全く違う。日本語の時制は過去と非過去(現在と未来)であり、ロシア語の動詞には過去・現在・未来の時制の他に、完了体と不完了体の二つの体があり、それが時制とアスペクトの理解を難しくしている。ただチョムスキーの生成文法で説かれているように、人間の言語には普遍的な特性があり、時制や法についても形式が違うだけで、ロシア人と日本人との間で意思が通じる以上、その本質は変わらないはずである。そこで和文露訳について、語彙などの事柄を中心に据えるのではなく、日本語とロシア語の時制やアスペクトがどのように対応するかを念頭において、和文露訳の入門書を書いて見ようと考えた次第である。
話は飛ぶが、和文露訳の研究のために、動詞の体や語彙の収集のほかに、ロシア語を極めるには語彙だけではなく、ロシア人のメンタリティーやレアリア(背景知識、言語外現実)を知る必要があると考え、またアネクドート(小話)のオチの訳どうするのかなどの個人的興味もあって、ロシアのアネクドートの研究もしている。それはアネクドートが会話におけるロシア語の理解にも役立つのではないかと考えたからである。そこで2006年10月ロシア語黒帯研究会(後に新帯研と改称)というコーナーを、ロシア関係のサイト「ロシアンぴろしきhttp://rosianotomo.com/」内に御許可をいただき、閑話忙題http://rosianotomo.com/blog-anecdot/というコーナーを立ち上げたわけである。そのうちに常連の投稿者もでき、そのおかげもあって2010年7月まで続いた。この中で体の用法についても若干触れたが、そのときに会話における和文露訳についても、体の使い分けを中心にした勉強会を立ち上げることができるのではないかと考え始めた。そこで、2011年2月に同サイト内で「和文解釈入門」という和文露訳の短文問題を出題するコーナーを始めたのである。何人かの常連の投稿者の支持もあったが、600回を超えたこともあり、2013年1月に一旦終了したが、遂行動詞や評価解釈型動詞について検証してみたいと考え、2013年2月「続和文解釈入門」として再スタートし、2014年8月「和文露訳指南」と改題し、さらに2016年2月「和文露訳要覧」に引き継がれて、現在累計2,000回に近い。この間の投稿者からの回答やそれによるヒント、そのやり取りを含めたフィードバックを経て、他の学習者が抱える動詞の体に関するいろいろな問題の側面を知ることができた。これによりロシア語文法全体における自分の理解の独りよがりな点を、かなり改めることができたと思う。ご協力いただいた投稿者の皆様には深く感謝申し上げる次第である。そういうわけで、この10 年ほど集中的に体の用法について考察を深めた結果、自分なりに体の使い分けを本としてまとめられる見通しがつき、それが本書にも大いに反映されている次第である。
 ロシア語会話を学ぶときに、暗黙のうちにロシア語の時制と日本語の時制やアスペクトはあたかも同じであるという前提のもと、特に区別して、またイメージして教えられることはないようである。特に日本語の時制からロシア語の時制への移行をどうすべきかについては当然のこととしてあまり教えられることがない。日本語とロシア語とは全く別の言語であり、ロシア語の動詞には完了体と不完了体があり、その名称から片方は完了を、不完了体はそれ以外だと思い込む学習者も多い。和文露訳をマスターするときに覚える語彙の量は非常に大切ではあるが、文の骨格を成す動詞とその時制やアスペクトが会話の基本にあり、それに注意を向ける方が、初級や中級の段階でのロシア語会話の習得においてはより重要である。いずれにせよロシア語会話(和文露訳)で動詞の体を実際に会話で正しく使えなければ、体の理論を理解し、露文解釈ができたとしても体の用法をマスターしたとは言えず、それをマスターしないうちはいつ

Posted by SATOH at 2020年01月26日 17:06
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