2020年01月31日
●第80回
在から未来への移行を示すような意味合いの動詞である。例えばビジネスレターで多用される「~をご案内〔連絡〕申し上げます、~を連絡します」をロシア語にするときに、レターなどに慣れていない人はСообщим (Сообщу) Вам, чтоと完了体の未来形を用いがちであるが、これは動作の出発点が未来となるため間違いであり、「連絡する」は遂行動詞なので、Сообщаем (Сообщаю) Вам, чтоと一人称現在形を使うべきである。
このように日本語の動詞には「知らせる」のように、遂行動詞の一面を持つものがあり、同じ文の中に動作を説明するような内容が含まれているか、暗示されていれば遂行動詞なので、露訳する場合不完了体動詞現在形で表現されるが、それが含まれていなければ、動作の出発点が未来であり、遂行動詞ではないという事になる。具体的な動作の内容を文の中に含まないか、未来を示す状況語を含むのであれば、それは遂行動詞ではない。その場合は、次の文のように、この動詞の完了体動詞未来形を、未来の反復や具体的でない内容を未来の時制で伝える場合には不完了体動詞未来形を用いることになり、それは今ではなく、後で連絡する(未来に動作を行う)という意味になる。
<遂行動詞と完了体未来形の近接未来完了の用法の違い>
(それゆえクリスマスと新年をつつがなく迎えられ、お過ごしになられることをお祈りいたしまして閉会とさせていただきます)А потому закрываю заседание с пожеланием встретить и провести праздник Рождества и Новый год в полном здоровье и довольстве. <遂行動詞>
(他に何かコメントがなければ、閉会しますが、その前にご出席されたことに感謝申し上げます)Если у нас нет каких-то дополнительных замечаний, я закрою это заседание, но прежде позвольте мне поблагодарить вас за присутствие. <近接未来完了のзакроюと発話した時点では閉会していないことが分かる。ちなみに(ご出席賜ったことに感謝申し上げます)Разрешите (Позвольте) выразить Вам благодарность за присутствие. = Благодарю Вас за присутствие. だがРазрешите (Позвольте) ...は公的な表現と言える>
(これについては追って連絡申し上げます)Об этом сообщим дополнительно. <内容を伝える時期が同時ではなく、後になるので完了体動詞未来形となる>
(我がエコファームで起こることはすべてお知らせいたします)Мы будем сообщать вам обо всём, что происходит у нас на экоферме! <内容が不定、未来の反復なので不完了体動詞未来形を用いる。従属文の時制は主文と同時。9-2項参照>
日本語では文末に述語が来るために、文章が長くなるのを避けるために、本来は遂行動詞を含む文を、二つに分けることがある。例えば、デパートのアナウンスで、「ただ今8階ではバーゲンセールを開催中であることを、御来場のお客様にご案内申し上げます」とはならずに、聞き手に理解しやすいよう、「御来場のお客様にご案内申し上げます。ただ今8階でバーゲンセールを開催中でございます」と二つの文に分けるのが普通である。だからこのような和文を露訳するときには、直訳して二つの文にすると、最初の文は完了体動詞未来形をつかうことになり、また接続詞もなく、ロシア語として非常におかしな文となる。そのため、Дорогие покупатели! Мы сообщаем Вам, что сейчас идёт распродажа на восьмом этаже. のように元の遂行動詞を含む文に復元して訳さないと、ロシア語としては正しい文とは言えなくなる。
遂行動詞は後に続く補語や節の示す行為を遂行する動詞であり、「~ということを遂行する」という意味である。つまりこの動詞の現在形一人称は「約束しつつある」とか、「知らせつつある」という経過(過程)を示しているわけではなく、続く内容について約束する(約束を破ればそれなりの罰を受ける)とか「~という内容をお知らせする」という意味である。