2020年01月26日

●第11回

いているわけであり、基本的にその書かれている体の用法は正しいと言える。ところが、外国人である我々が日本語からロシア語で会話をするとなると、体の用法に関する正しい規範が分かっていないと、日本語の敬語のように、明らかな誤用ということが多々起こり、意味やニュアンスが正しく伝わらないということが起こりうる。一つの文で完了体と不完了体が使えるとしても、それぞれニュアンスが違ってくる場合が多い。意味が形式を選択する、つまり叙想的ニュアンス(主観的なもので、懸念、期待、動作の完了、新しい情報や事態の出現とか、否定文では不可能、否定の強調などで、本質的に制御できない)の有無によって、どちらの体を選択するかが決まる場合が多いわけで、後述するが、叙想的ニュアンスがあれば完了体を選ぶことになる。日本語で何を言いたいのか、それを的確にロシア語で表現するためにこそ、それに合わせてより適切な体を選択しなければならない。ロシア語会話において体をうまく使いこなすためには、正しい体の規範を知る必要がある。その規範を知れば、ロシア語の読解力もつき、会話における実際のロシア語の担い手として動詞の体の用法の規範意識を持ち、外人ロシア語の弊から少しでも逃れることができると考える。ロシア語会話が上達するためには、初級文法の理解と語彙(和露辞典の助けを借りてもかまわないが)だけでは無理で、日本語とロシア語の時制の違いと類語の使い分けの理解が不可欠である。会話と言うのは、自分でロシア語の文を組み立てて行くわけで、意味やニュアンスにより体を自分自身で主体的に使い分ける必要が出てくる。一般的な場合なのか、反復なのか、具体的な1回の行為なのか、動作の結果は残存するのかなどを瞬時に判断する必要があるわけである。これは体のみならず、-тоと-нибудь、単数と複数の使い分けなどについても同様であり、ロシア語会話では、語彙は当然のことながら、どういう文脈で使うのかなど話し手に主体性が求められるという点を強調したい。
これまでも数は多くないとはいえ和文露訳の参考書が出版されているが、四季、日本文化、あるいは銀行、買い物といったような会話集でよく使われる事柄やトピックに偏した場面シラバスのようなものや、旅行者向けなど、会話の頻度を優先した便宜的なものか、語彙も文法もという総花的なものばかりのようで、文法的な説明もほとんどないものも多く、系統的にも難易度順にもなっていないものが多い。あたかも語彙を覚えれば、初級文法だけで、和文露訳やロシア語会話ができるかのように書かれているものもある。
本書は、これまでになされていなかった和文露訳の学習の体系化へのアプローチの一つであり、日本語とロシア語の時制をそれぞれバラバラに理解するのではなく、有機的、統合的、体系的にその真髄を究め、和文露訳に役立てようとするための一つの試みである。発話の「時間軸」を中心にした、認知学習法で言う、時制を中心とした概念シラバスと呼んでもよいかもしれない。本書は題名通り、和文露訳を扱ったものであり、日本語の文法に対する理解は欠かせないと考える。日本人だから日本語が分かるというのは、感覚としての暗示的知識であり、明示的な知識も不可欠であり、日本語の文法を詳しく学ばねばならない。日本語の文法には、大まかに言えば学校文法と日本語教育の文法があるが、外国人である日本人がロシア語を学ぶという観点から、外国人への日本語教育を対象とする日本語教育の文法を用いることがより適切であると著者は考えており、本書における言及も概ねそれに依った。
体の使い分けは動詞によって違うという事も言えるが、同じ動詞でも語義によって、また時制によっても違うし、同じ時制であっても反復、過程、遂行動詞など用法によっても異なる。本書では日本語の時制を中心に、和文露訳の観点から体の用法を中心に据えて考察したものである。
本書では体の用法の規範的用法を中心に、和文露訳のための基礎をどうつけるかを記述しているが、基本は動詞であり、その動詞を時制、法、運用法により240ほどの(小)見出しに分け、その構文ごとに勉強すれば、ロシア語会話の基本ができ、あとは語彙を増やすことだけとなる。本書がロシア語会話や和文露訳をする際の伴として、役に立つことを切に

Posted by SATOH at 2020年01月26日 17:17
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