2019年09月12日
●和文露訳要覧第505回
『和文露訳要覧』に追記する。
10-9-3 主な前置詞の本質的意味
場所に関して言えばвには対格と前置格を取る用法があり、対格を取れば方向(~中へ)を、前置格なら位置(~中で)を示す。対格の方を突き詰めて考えると、一点に向けての動作の方向となる。
глядеть в небо(空の一点を見つめる)
глядеть на небо(空全体に目を向ける)<このнаは動作の到達点ではなく、方向のみを示す>
Поезд на Ригу подходит.(リガ方面の列車が参ります)<このнаは動作の到達点ではなく、方向のみを示す>
гулять в лесу(森を散歩する) <森の中の小さな区域が対象>
гулять по лесу(森中を散歩する) <森の領域すべてが動作の対象>
стрелять по противнику(敵の隊列に発砲する)<動作の対象が広範囲>
стрелять в противника(一人の敵めがけて発砲する)<動作の対象が一点>
полететь по воздуху вверх(空へ舞い上がる)<поは動作の対象が広範囲のため、二次元(面)および三次元(空間)における動きを示す>
これを時間の用法に援用すれば、対格の方は、時間軸の一点を指し示すわけだから、その瞬間を示すことになる。
в этот момент(この瞬間に)
в последнее время <最近という一定の瞬間>
за последнее время <期間としての最近>
во вторник(火曜日に) <火曜日を期間ではなく、時間軸の一点としてとらえていることになる>
一方前置格の方は「~中で」から「期間内で」という意味になる。
в январе(1月に、1月という期間内に)
наは前置格と結びつくと面上の位置、つまり広がりを持った位置を示し、対格と結びつけば面上の方向を示す。вは「~中で」という限定された場所を示すので、в поле(広野の中で)とна поле(広野で)のように使いわけが可能である。同様にво двореなら「中庭で」であり、на двореなら「家の外で」ということになる。
出題)「飛行機がよければ売れる」をロシア語にせよ。
Самолеты с хорошими
лётно-техническими
данными имеют сбыт.
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иметь хороший сбытならまだわかりますが。完了体未来形の例示的用法を使うべきです。私の答えは、Если самолет хороший, то он сам найдет покупателя.
Если самолёт хороший товар, то он будет хорошо идти.
宜しくご指導お願いします。
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会話では問題ないのですが、従属節は文ですからハイフンを入れるか、товарを削除する必要があると思います。重要なのは完了体未来形の例示的用法を使うことです。そうでないとお答えにあるような主節は未来の反復(習慣)となってしまい、そういうことが日常的に起こるような印象を受けます。
時間軸で使う в に関連して質問があります。
次の文例にある в свои 19 лет ですが、これも、特定の歳を「期間ではなく、時間軸の一点として」指示していると考えられます。そこで、やや脱線するのですが、この文例の用法の場合、свои が無くても良いのでしょうか。あるいは無ければ、意味に差が出るのでしょうか。
Девушка в свои 19 лет обладает несколькими национальными рекордами, включая заплыв на дистанции 100 метров баттерфляем в женской категории.
宜しくご指導お願いします。
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なくても意味は通じます。своиがあれば強調ということになります。
1.Могут продать только хороший самолёт.
2.Если и быть хороший самолёт, то хороший сбыт.
宜しく御願い致します。
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ここで問題なのは両方の文とも不完了体(могут, быть)を使っていることです。そうなると反復・習慣ということですから、ここは完了体未来形の例示的用法を使うべきです。1.は一機の(その)よい飛行機だけが売られるというのを不完了体могутととともに使うというのはどうでしょう?2.のбытьの後に造格が来るべきですが、そうだとしても、良い飛行機であるべきならばというような、出題とは異なる意味になるように思います。
Хороший самолёт может продаться.
ある具体的な飛行機が念頭にあっての会話と考え、СВとしました。よろしくお願いします。
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お答えはそのよい飛行機は売れるかもしれないとなります。出題は一般的な話ですから、完了体の例示的用法を使うべきです。
Если самолет будет хорошим, торговля будет идти хорошо.
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お答えは未来の反復です。ここは完了体未来形の例示的用法を使うべきです。
コメントありがとうございます。
なるほど了解しました。辞書の покупатель にも、Товар не находит покупателя. がありますね。次に訂正します。
Если самолёт – хороший товар, то он найдёт покупателя.
宜しくご指導お願いします。
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正解です。
質問への追加です。
свои があれば強調である、ということですが、何を強調しているのか難しく思いました。日本語で表した場合の1案として、「この娘は、他ならぬ彼女だからこそと言える19歳なのだが、(すごいことに)日本記録をいくつか持っている」となりますと、結局、обладает 以下の内容を含めて強調している、ということなのでしょうか。
宜しくご指導お願いします。
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例えば次のような文では、Дочь спит с мамой в свои 19 лет.(娘は自分が19歳であるのにママと寝る)ということで、年齢を強調しているわけです。
コメントありがとうございます。良く分かりました。
それでは次のような場合は名詞とその定語を倒置することで、これも年齢を強調しているのだと考えていいのでしょうか。
В восемь лет Моцарт создал первые сонаты и симфонии.
宜しくご指導お願いします。
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「名詞とその定語を倒置」の意味が理解できませんが、『和文露訳要覧』10-17項の状況後の語順で書いたように、語順はTPO、つまり、時間、場所、状況(目的)の順が自然です。上の文は時間が最初に来ていますから、年齢を強調していることにはなりません。
確かに в восемь лет を状況語とする余地もありますが、もとは名詞の定語だと考えていました。この場合、Моцарт в восемь лет です。前回のコメントで紹介いだだいた文例では、離れていますが、дочь в свои 19 лет です。形容詞なら восьмилетний Моцарт が普通の語順ですが、定語なら Моцарт в восемь лет が普通の語順だと思いますので、挙げた文例は倒置されていると思いました。定語なのか、状況語なのか区別する基準はどうなっているのでしょうか。
宜しくご指導お願いします。
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それは定語をどう解釈するかによります。中国語文法では連体修飾語を指しますが、岩波露和辞典ではопределениеに定語の訳を当てています。最新版のアカデミー版露露では、определение = второстепенный член предложения, обозначающий признак (свойство)другого члена предложения и отвечающий на вопросы какой? который?чей?とありますから連体修飾語と考えて良いかと思います。つまり形容詞なしは形容詞句かと思います。
一方私が言う状況語обстоятельствоは最新版アカデミー版露露では、второстепенный член предложения (обычно выражаемый наречием, деепричастием, предложно-падежной формой существительного), обозначающий время, место, причину, цель, условие, способ совершения действия и некоторые другие сопутствующие характеристики сообщенияとありますから、時間、場所、原因、目的、状況などを示す副詞、副動詞、副詞句でしょう。となると状況語として考えるのが良いかと私は思います。
コメントありがとうございます。
アカデミー版露露の定義は了解しましたが、その「状況語」の定義にある「時間」は「場所」(空間)と合わせて用いられている用語なので、年齢は含んでいないという気がします。
数詞句の作りからしますと、Моцарт в восемь лет は「8歳のモーツァルト」で年齢を示す「定語」(数詞句、形容詞句)に該当していると思うのですが、日本語でも「8歳の(時の)モーツァルト」と考える余地はありますから、広義では時間を示す副詞に転用可能だと思います。
なぜこんなことを気にしているのかと言いますと、実は、宇多文雄氏の「ロシア語文法便覧、307頁」に、
На пятом году жизни он остался круглым сиротой. 「5歳にして彼は天涯の孤児となった」とあり、城田俊氏の「現代ロシア語文法(中・上級編)、69頁」には
В восемь лет Моцарт создал первые сонаты и симфонии. 「モーツァルトは8歳にして最初のソナタとシンフォニーを作曲した」とあります。
順序数詞と個数詞の違いはありますが、上例の日本語訳で、「(5歳)にして」と「(8歳)にして」と幾分強調された訳はどこから来ているのでしょうか。
ほぼ完全な時間の副詞句(例えば в этом годуのような)なのであれば、単純に「(5歳)の時に」「(8歳)の時に」という訳でいいのではないか、と考えた次第です。
宜しくご指導お願いします。
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年齢であれば時間と考えるのが普通ではないかと私は思います。役に関して言えば、私が訳したわけではないので、訳された方のお考えでしょうし、単文なのか前後の文脈があってのことなのかということもあるでしょう。TPOの語順は語順だけ見ての文として自然さを言っているわけで、強調にはイントネーションや、文脈などいろいろあるとか、日本語の語調などもあるかと思います。
コメントありがとうございます。了解したしました。