2020年02月04日
●第172回
になったが、「~できろ」、「~できるな」というふうに命令法で可能・不可能を表現するのは一般的ではない(не моги + 不完了体動詞不定形は俗語で禁止を示す)ため、同じ可能性でも例示的用法の一つとして、「ひょっとして」という警告предостережениеや危惧опасениеという意味が発達したと考えられる。また警告や危惧も主観(叙想)的ニュアンスであり、動詞が文の焦点にあるので完了体が用いられているとも言える。完了体のもつ叙想的ニュアンスというのは制御(コントロール)できないという、ゼロ(無)の可能性も含まれている。そこから完了体動詞命令形の否定は、普通は警告「うっかり~しないでください」の意味しかなく、Будь внимателен!(注意してね)とかБудьте осторожны!(気をつけてください)というようなニュアンスが含まれているということになる。
(粥を煮るな)Не вари каши. <意識的、わざと煮るな>
(うっかり粥を煮るなよ)Не свари каши. <警告・危惧>
(ここは滑りやすいから、転ばないように〔注意して〕ください)Здесь скользко, (смотрите) не упадите! <смотритеは強調の意味>
(風邪なんかひかないでくださいね)Не простудитесь!
(明日はうっかり遅れないでくださいね。こちらの方もいらっしゃるのを待ってはいられませんから)Смотрите, не опоздайте завтра, мы не сможем вас ждать. <警告から来る懇願(強い頼み)のニュアンス>
(明日は遅れないでください。手持ちの時間があまりありませんから)Не опаздывайте завтра, в нашем распоряжении будет очень мало времени. <不完了体動詞命令形опаздывайтеが用いられているため禁止の意味で、絶対に遅れるなという意味>
この警告の用法はмочь (можно) + 完了体動詞不定形や、ニ人称の完了体動詞未来形を使っても表現できる。一緒に使われる動詞は望ましくない動作を示す動詞деструктивные глаголыであり、заблудиться(迷う)、забыть(忘れる)、опоздать(遅れる)、потерять(失う)、получить двойку(落第点を取る)、проиграть(負ける)、пропустить урок(授業をさぼる)、простудиться(風を引く)、разбить(割る)、сломать(壊す)、уронить(落とす)などである。
(ジーナ、ショールを忘れたね。風を引くかもしれないよ)Зина, ты забыл шарф. Можешь простудиться.
(こんな零下の寒さでは頬に凍傷ができるかもしれない)В такой мороз можно отморозить щёки.
(気をつけろ、うっかり日記を忘れるなよ)Смотри, не забудь дневник. = (気をつけろ、日記を忘れるぞ)Смотри, забудешь дневник!= (気をつけろ、日記を忘れるかもしれないぞ)Смотри, можешь забыть дневник!
危惧の表現として、боятьсяと共に使われるкак бы не (чтобы не) + 完了体(過去形・不定形)があり、主文の動詞の内容をより詳しく解説するという役割がある。
(病みつきはしないかと心配だった)Я боялся, как бы не заболеть.
(彼女がいなくなりはしないかと心配だ)Боюсь, чтобы она не исчезла.
(残念だけと、今晩は行けない)Боюсь, что я не смогу прийти сегодня вечером.
(僕には彼が来るという自信がない)Боюсь, что он не придёт. <直訳は「来ないことを心配している」>
警告を強調した表現としては、не выдумай(те) + 不完了体不定形やне вздумай(те) + 不完了体動詞不定形(~というまねはするな)だが、これらの動詞自体は5-2-4項の警告の用法がもとであり、接続する不定形は