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ロシアのマスメディアについて

ぴえるばやさん投稿

ジャーナリストとの出会い
 ある地方の民間ラジオ放送局を設立するので力を貸してほしいという話が舞い込んできたのは3年半ほど前の夏。
具体的な話を聞くために資本金出資者であるサンクトペテルブルグ在住で会社を経営しているH氏と会った。

 その席にはH氏の他に大手地方テレビ局と新聞社でジャーナリスト経験を持つG氏。技術者3人、そしてメインバンクらしき銀行の重役にあたる代表が1人いた。
 ロシアで経済活動をする場合、大手の会社でもメインバンクがあるケースは非常に珍しい方の部類になるが、どうやら亡命ロシア系アメリカ国民でアメリカのでも金融関係の会社を持っているらしい。話を聞くと「ロシアは勿論、世界の出来事・真実を地方の人たちにもちゃんと伝えたい」というのである。
 規模としては小さなラジオ放送局を買収したのでそこを改修し、将来はロシアのラジオ版CNNを作りたいというのである。何度か具体的な話が進み最終的な見積もりでOKは出たが、結局この話は視聴者の数とコンセプトがまだロシアの地方都市ではリスクが高すぎるという理由で、メインバンクが融資を断った為に頓挫してしまったが、毎回会合の席にいたジャーナリストのG氏とは何度か会う事になった。



ロシアには表向き言論統制が無い代わりに皆口を閉ざした

 すでにご存知の方も多いと思うが、最近つぶされたTBCをはじめとする民間テレビ局などが続々とエリツィン・プーチン政権下で圧力に負け適当な理由を作っては閉鎖されている。閉鎖といえば聞こえは良いがこれは誰もが潰しにかかっていると見ている。

 例えば政府側にとって都合の悪い事は経済界に政府が圧力をかけてゆさぶり、手下と化した民間企業家が傘下の放送局の株式自己所有率を上げるために買いあさりトップを交代させ社員・所属ジャーナリストを退職に追い込むか、よくても左遷していたが特に皆が知るチェチェン戦争における報道をきっかけに、政府首脳にとって都合の悪いものは抹殺にひとしい状況においこまれている。

 G氏もその一人らしく彼と彼の友人からの話では、いわゆる今流行のビデオジャーナリストとして外国通信社にも所属しつつロシアの民間放送局にいたものの放送局が彼を解雇したためにバックボーンを失いさらにそれを知った外国通信社が「もうロシアのジャーナリストではなくなった」と用済みとなり契約破棄されてしまったらしい。

 ロシアは資本主義になってもソビエト型民主主義しかないと言う。「ソビエト型」というのはいわゆる「中央集権型」ではなく「中央集権圧力型」だそうだ。

かなり過激な話をする人だと思ったがいつも口調は冷静でさすがジャーナリストだけあってすべてにおいて客観的な話をする。

ロシアで情報を得るという事は今も昔も何も変わっていない。むしろ「伝達媒体」は増えた。1つはインターネット等をつかい外国からロシア国内へ発信するメディアと、口を閉ざすメディア。

一般的に見てこれだけ開放されているのだからロシアは変わったのだとテレビやラジオ、ネットを見ても思う節があるが実際にテレビ・ラジオの全国ネット局は役員だけでも政府あるいは政治家の息がかかっている。例えば1局あたりニュース・報道番組の枠を見ると欧州に比べて極端に短いか番組自体のコンセプトが娯楽に走ったものばかりで終始している。ニュース番組やドキュメンタリー番組も増えた事は確かであるが「誇張された内容」に終始している事にきずかされる。過去にラジオスバボーダのロシア人特派員が国の裏切り者扱いをすべくロシアの各メディアがいっせいに一個人を叩いた事があるが実際には彼はロシアでジャーナリストの英雄としてロシアジャーナリスト界で迎えられたという矛盾とも言える事があった。



未だにBBCを見聞きするお宅が少なくない事。

 BBCは依然ロシア向けロシア語・英語放送を充実させている。これは短波による放送も勿論であるがロシアではラジオに限った話ですると外国メディアが放送時間帯枠をリースする事が簡単に出来るためBBCニュースがモスクワでもラジオで簡単に聞くことができる他中心部であればケーブルテレビや衛星放送でロシア語・英語によるBBCニュースを見聞きする事が可能である。しかも割りと視聴者数がソ連崩壊直後とさほど変わらないようである。

 妻の多義父母祖父母親戚に至るまで最近でこそBBCを聞くことは少なくなったが日本よりはるかにBBCについては知られている。

「BBCはイギリスにある放送局で中立な報道をする」という事で定評がある。
かつてあのソ連ゴルバチョフ大統領がヤナーエフら保守派第一次クーデターで監禁されていた時の会見で「BBCを聞いて自分と国の状況を知った」と語り、政変後のロシアにおいての2次クーデターでも多くの国民がBBCを聞いていた人が多かった。その一方ラジオスバボーダという局がチェチェン戦争をさかいにロシア全土で聞けるようになったが、これも実はアメリカのVOA(ボイスオブアメリカ)と提携しておりロシアの放送局ではないが視聴者が多い。

 友達と話をしていると「テレビは娯楽として」「ニュースはラジオで」という人が未だに少なくないばかりかニュースは何かあったときだけ見聞きするという人が増えた。これは単に関心が無いのではなく「どこを見聞きしても政治・経済の話題はロシアメディアは同じ」という意見もある。このままではロシアのマスメディアが衰退していく一方で現実問題として有能なジャーナリストが外国メディアへ渡り活躍の場を得ようとしているのは確かといえる。G氏曰く「今の政権では無理。事を伝えるにもジャーナリストが行動に出るにも少しスープが冷めるのを時を待つ必要がある。飲み頃を待つという事だ。」「自分の国で起こっている事を外国から知らされる状況はジャーナリストとしてとても悲しくもあり活躍チャンスが与えられる事は嬉しい」という。「政治に左右されない報道の自由や倫理という側面でいつ民主化されるのであろうか」ロシア国民が期待している点では確かだろう。


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