はぐれミーシャ純情派

タシケント激闘編8日目後編
7月29日
 しばらくして、係員は手ぶらで戻ってきた。「チケットは?」「いまなかで手続きをやっている。あと5ドル払え」なんじゃそりゃ。俺がむっとしていると、係員はお金の内訳を説明しだした。「チケット代がいくらで、その手続き代がいくらで・・・」あきらかにめちゃめちゃな計算。係員は体がごつくて、ゴリラのような顔をしている。その内訳の内容に納得いかないことはともかく、彼は足し算ができていない。もう一回算数やったほうがいいんじゃないの?俺が無視していると係員は「なあ、わかるだろ。俺だって暇じゃないんだ。俺はおまえのために特別やっているんだからさ」と猫なで声で俺の肩に手を置こうとする。俺は手を振って、触られないようにした。いつのまにか係員は3人に増えていた。それでも、おれはきっぱりと否定した。「191ドルって言われたからそのとおりに払ったんだ。何のためにそれ以上払うんだ?」かなり頭にきていたので、すごい声だったらしい。
 しばらくて係員がチケットを持ってきた。チケットの中身の確認。確かに8月1日のチケット。チケットを受け取り、「パスポートをよこせ」と俺はちょっと怒った声で言った。「わかった、わかった」といって係員はパスポートをよこす。やはりまわりには取り囲むように3人の係員。「で、あと5ドルはどうした?」知るか!誰が払うかバカヤロー!日本人をなめんじゃねえぞ!俺とアレーシアはベンチに座って、もう一度中身を確認。ちょっと怖い気もするが、俺にはあと5ドル払う理由がない。「じゃあ行くか。本当にどうもありがとう」にっこり笑って、さーっとその場を立ち去る。係員を置き去りにして。係員の視線を背中に感じながら、俺とアレーシアは笑いをこらえる。おかしくて仕方がない。痛快だ。係員のがっかりした顔が目に浮かぶ。アレーシアは「もうどうなることかと思ったわ。ミーシャったら。怖くなかったの?」だって。怖かったのはちょっとだけ。もうウズベキスタン全体に対して「切れて」たからねえ。チケットの値段を確認してみると本当の値段は180ドル。結局、11ドル多く払ったわけだが、210ドル払わなくて済んだだけでもよしとしよう。
 そのあと二人でブロードウェイに行って買い物。とはいっても、俺の買い物ではない。アレーシアにねだられるために行くようなものだ。でも、今日は彼女も遠慮気味。ビデオ屋で露骨に嫌な顔をしたからかも。現地のお金が減ってきていたのであまり無駄遣いしたくなかったのだ。革のブレスレットを買う。30円。安すぎ。
 おなかがすいたので食事をしようと思う。俺がブロードウェイに来たのはそのためだ。タシケントを離れる前に、もう一度外食したかったのだ。俺の提案でブロードウェイの端っこにある韓国料理のレストランに入ることにする。「レストラン」とは言っても、野外である。先にカウンターで注文をする。メニューを見て「ククシーってどんな料理?」と尋ねると、ウエイトレスの綺麗なおねえちゃんは「韓国人のくせに知らないの!?」と言って驚いている。俺は韓国人じゃねえよ。ククシーとは韓国風の麺料理。韓国レストランに限らずタシケントではよく見かける。そのレストランにあるのはククシーとキムチ以外は普通のロシア料理。あと、ウエイトレスの一人が韓国系(食べられません)。ククシーと魚料理を吟味する。アレーシアは普通のロシア料理を注文。待っている間にテーブルの上の調味料を吟味する。匂いをかごうとしたらカウンターにいた兄ちゃんが寄って来て説明をする「それは酢だよ」。俺がむせると笑っていた。
 さてククシーの味は・・・悪くない。スープは冷麺とほとんど同じ。具も一緒。でも、麺が柔らかすぎる。冷麺の麺がのびたそうめんになったような料理だ。これで麺がおいしかったら最高なのにな。全く辛くなかったので、テーブルの上の唐辛子をがばがば入れた。それを見てアレーシアは呆れ顔。魚はフライにしてあった。骨っぽくておいしくなかった。鯉の類だろう。かなり泥臭い。でも、その付け合せのご飯がおいしかったから許してあげる。お金を払うとき、ウエイトレスの綺麗なおねえちゃんが寄ってきて「ククシーはどうだった?」と聞いてきた。「日本で食べたのとは違うけど、おいしかった」ちょっと、うそをついた。

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