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　　おちぶれ日記 （4）　１９９９年４−６月

　４月１日（木）

　●プーシキン大学訪問（５回目・体験授業）

• 中級の「共通コミュニケーションコース」という授業の体験授業を受けるため、プーシキン大学に行く。朝９時にＢ先生のところに行くように言われていたので、朝早く起きて出かける。
  朝の通勤渋滞があり、遅れそうになったが、タクシーを使って、９時になんとかたどりつく。
  しかし、というか、やっぱりというか、Ｂ先生がいない。そのまま廊下とか、向かいにある別の教授室で待つ。
  ４０分くらいまって、もう現れないと、絶望的な気分で帰ろうとしたときに、Ｂ先生ひょっこり現れる。僕のこと見て「ああ！」と。なんやら忘れられてた様子。
  「もう授業に出たのか？」なんて、無神経なこときくので、「あんたが案内しないとどこに行っていいかワカランだろうが？」と（心の中で）文句言う。
  
  
• それから、教室につれていってもらって授業に参加。
  先生は度の強い眼鏡をかけた、４０前後と思われるアフロヘアの女性。
  生徒は僕の他に２人だけ。トルコから来た主婦の女性と、ちょっと軽薄な感じのチュニジアからきた男性である。後から遅れて中国人の男性が入ってきた。彼は無口であまりしゃべらない。
  これが全メンバーだという。なんとも国際色豊かなクラスである。
  
  
• 授業は基本的な文法の復習が多かった。
  なんとも表現しにくいが、 ちょっと寂しげな感じというか、倦怠的な雰囲気ただようクラスだった。トルコ人の女の子はまじめで良く発言したが、中国人男子は遅れてきて座り終始無言。、チュニジア男性は「祭りに行く」といって途中で帰るという。先生が「何のお祭りですか？」とると「友達と待ち合わせしている。彼が知っている」と言って行ってしまった。
  先生は生徒に問題の答えをかかせている間、ウツラウツラしていた。 
  

　●またすっぽかし●

• 授業の後、ビジネスクラスについて教えてもらうため電話で面会を確約したＤ先生の部屋へ行くが、部屋には鍵がかかっていて、誰もいない。またすっぽかされた。腹が立ったが、もうどうでもいいやという気持ちにもなってきた。
  僕の他にも、部屋をノックして「いないのか？」とか言ってる生徒らしき男性がいた。 
  

　●突然きたバイト話●

• ある人から連絡があり、アルバイトの話をいただく。
  
  外資系の旅行会社で、アルバイトの日本人女の子が辞めるから、急遽代わりの人間を探しているという。条件は英語とロシア語ができること。
  
  授業内容や大学の先生たちの対応には大いに不満はあったが、今日体験したような授業でもなにか学ぶ楽しさというか、最初にロシア語に触れたときの気持ちが蘇りはじめていた。で、「もう疲れたから。どこでもいいや。留学しよう」という気持ちに固まりつつあった。
  
  それが、これは有り難いことではあるのだが、仕事の話を紹介されて、また心の揺らぎが生じてしまった。留学に触れて不安は大きいものの安定しかかっていた心が、また別の方向に引っ張られて、右へ左へと揺れてしまっている。
  
  それでたいへん迷っているが、せっかく紹介していただいたことだし、とにかく先方の会社に電話だけでもして仕事内容などについて確認してみることにした。

　４月２日（金）

　●手探りの日々●

• このところ、懸命に自分の中の恐怖やパニックと闘っている。かなり危ない瞬間もあった。日記を書くのがしんどくなってきた。世間に悪態と害毒を垂れ流しているだけのようにも思うし、もうやめようかとも思う。
  
  僕はもともと文章を書くのが好きではなかった。小学校の作文の時間では、決められたテーマを、決められた時間内、決められた枚数で書かされるのが恐怖で、いつも時間ぎりぎりになっても一行も書けずに、冷や汗ばかりかいていた。あのときの恐怖感覚が残っていて、いまだ書くことに対して億劫になる。自意識の強い僕はうまく書こうと思うから書けない。日記などはいままでつけようと思ったこともない。だからまだ３ヶ月もたたないけど、こんな精神状態のときに、日記を書き続けている自分が不思議でたまらない。いや、病んでいるからこそ日記に逃避しているのかもしれない。この日記は、思ったままのことを、うまく書こうとせずにただただ書く、そういう練習だと思って続けられるところまで書いていこう。
  
  相変わらずの手探り状態。 全てに疲れてしまっていて、ほんとうになにもしたくないという状態は変わらない。でも、ここで暮らすには、ましてや、こういう人生の節目の時期には、常にエネルギーを持ってぶつかっていくことを要求される。本当は今はなにも考えずぼんやりと寝ていたい。今はなにもできないと、身体中が叫んでるようだ。でもそれは許されない。日々決断を要求され、タイムリミットに追われる。そんな日々が正直、きつい。
  
  ときどき、心の優しい友達や、この日記を読んでくださった方がメールをくれて、励ましてくれる僕は幸せものだと思う。でも、もうギブアップ状態なのに、僕には帰るところはない。帰る場所を僕は子供の時からどれだけ探し、求めてきたのだろう。ずっとずっと探してきたけど、見つからずに、ついに、こんな遠い国まできてしまった。親元のところとか、羽を休めることのできる場所を持つ人たちを、僕は、心から、うらやましいと思う。
  
  やっぱり楽になりたい。そう書いてＥちゃんにメールでしかられた。でも、やっぱり本音はここに帰ってくる。心優しい仲間を悲しませるのは嫌だ。でも、いつも寝るときには「このまま目を覚ましませんように」と祈ってしまう。そして朝目をさますと落胆する。その連続の日々。「命」を軽んじるようなこと考えたり、書いたりしている自分は、ばちあたりである。かつての自分からはほんとうにほんとうに嫌いな種類の人間だ。そんな僕が今もなぜか生きている。ご飯も食べず、この世で大切な身体を苦しめて、楽になりたいと願いながら、生きながらえているのは何か意味があるから？
  
  毎日いろんな電話がかかってきて、またかけなくてはならなくて、人と話をしなければならないのがしんどい。それが外国語で自分の思っていることがうまく伝わらないときや、特に一方的にしゃべるばかりで話を聞いてくれないと疲れる。話が本質から完全にそれているのに、黙って聞いていることを余儀なくされたり、これはもうたまらなくなったときに、むりやり言葉を差し込んで訂正しなければならないのがしんどい。
  
  昨日も突然名前も名乗らない女性からぶっきらぼうな電話がかかってきて、一方的に早口でまくしたてる。またいたずら電話だと思いながら、我慢してききながら、それでも少しずつ割入って聞きただしてみたら、どうやらその人は電話局の従業員らしいと見当がついた。「巨額の未払い（？）がある。すぐに来い。さもなければ電話を止める」と脅す。偽者かもしれない、と警戒する。電話代は先週、銀行に払いに行ったばかりなのに。さっぱり訳が分からない。大家さんに相談した結果、明日領収書持って電話局に行かなければならなくなった。
  
  まったくもって心底から疲れる。

　４月５日（月）

　●プーシキン大学訪問（６回目）●

• 再び「共通コミュニケーションコース」の体験授業を受ける。
  このコースは週の前半と後半とを分けて二人の先生が受け持っている。
  僕は今期は、といっても６月末までの短期間であるが、このコースを受けようと半分決めていた。
  先週は木曜日の授業を受けたが、今度は月曜日の授業を体験して、もう一人の先生の授業がどんなものか見てみたかったのだ。
  
  週前半（月曜・火曜）の受け持ちの先生は４０前後の男性。
  なかなか教えるのがうまいなぁと思った。
  午後はニュース聞き取りの授業というのがあって、ＡＶ教室にいき、ビデオのニュースを見て時事ロシア語を学ぶという。今日はユーゴスラビア紛争がテーマで、昨日起こった事件など、やけにホットなビデオだなぁと思ってみていたら、先生がビデオを忘れたらしくて、テレビ放映をそのまま流していただけだった。プリントした活字の内容と映像の内容がまったく違っていたところで先生がすべてを明かした。
  
  先生は「申し訳ない」と何度も謝っていたけど、なかなか丁寧で感じがいい先生だなと思った。
  
  
• 新しい生徒が加わっていた。 ドイツ人のにいちゃんで、両耳にピアスをしている。
  ちょっとなよっとして、まだあまりロシア語が話せない。
  また国際色がいっそう豊かになった。 
  
  
• その後、事務局にいって、相談したら、僕のレベルと目的なら、個人授業の方がいいと勧められた。
  しかし、個人授業はグループ授業に比べ高いから、時間量が限られる。
  先生を紹介してもらい会う。水曜日に体験授業をお願いすることに。 

　４月７日（水）

　●７回目のプーシキン大学訪問●

• 午前中、プーシキン大学へ行く。また待たされて、紹介された女の先生がやってきた。体験授業（簡単なテスト）を受けるが、なんと書いたらよいか・・・どうも会話がかみあわないというかしっくりいかないというか。なにか違うという気がする。ツルゲーネフの小説を日本語に訳し、それを再びロシア語に訳せという課題を与えられて途中で頭狂いそうになる。結局事務局に行き、金曜日に別の先生を紹介してもらうことに。しかし２時間分の体験授業料はしっかり払わされる（１時間１０ドル）。
  
  
• その後、電話で今日の面談を堅く約束していたＤ先生のところにいくが、例によってまたすっぽかされた。これでプーシキン大学に来るのは７回目、その間何人の先生にすっぽかされたか。このＤ先生は２回目。最初の頃は「なぜだ！」と怒りや失望感で胸がいっぱいになったが、最近はもうなにも感じなくなった。３０分待っても来ないので、抗議の置き手紙だけ残して、帰ることに。手紙を書いていると同僚だろうか、年輩の女先生が部屋に入ってきた。「なにをしているんだ？」ときくので、事情を説明したら、抗議文を書くのを手伝ってくれた。こう書けばもっと強い表現になるとか、ここまで書かなくてもいいとか、いろいろ指導してくれる。結果このように書いた・・・
  
  
• 「敬愛なる○○様、私たちは本日４月７日の１時に会うことを約束しました。３０分待ちましたがあなたはいらっしゃいませんでした。またあなたは私をだましました。どうして都合が悪かったら前もって連絡してくださらないのですか？　もうあなたとお話することはないでしょう。敬具・・・」
   
• おまけにいかにも教師経験長そうなこの同僚先生、抗議文をドアに画鋲で張り付けるのまで手伝ってくれた。ドアが堅くて画鋲がなかなかささらないので、先生の発案で、結局机の上に花瓶で押さえて置くことにした。「ロシア語でこのような行為のことをなんて言うのですか？」と聞いたら、「アクツィヤ（ロシアで、抗議のデモとか、ある目的達成のための行動）といいます」と教えてくれた。別れ際に「私のアクツィヤのためにご協力ありがとうございました」と礼を言ったら先生笑っていた。いい人のようである。しかし僕はなにをやっているのか？

　●最後の給料●

• その後、最後の給料を受け取りに会社に赴く。
  会社はひっそりとしていた。廊下に新しいドアロックができていて、警備がいっそう厳重になっていた。
  「もうこの会社にはもうくることもないだろう」としみじみ思う。
  受付の健康的なロシア美人、ユリアに「成功を祈ります」と言われる。
  
  
• アルバイトするか、大学にいくかまだ決められずに悩んでいる。どちらの選択もピンとこないところが決断を遅らせている。このまま帰ってもまたあれこれ考えるだけだと思い、突発的に映画にいこうという気になった。

　●Lost in Space

• 前からちょっと気になっていた「Lost In Space」を見に「American House of Cinema」に行く。
   「American House of Cinema」はキエフスカヤ駅近くの外資系ホテル「ラジソン・スラビャンスカヤ」の内部にある。
  基本的に英語での上映で、ロシア語希望の人はヘッドホンで吹き替えを聞くシステムになっている。
  ここには初めて行ったが、ホテルの奥深くあるうえに、なんの表示もないので場所がわかりにくい。上映内容とか時間の掲示もないのでお姉さんに聞かなければならない。
  客はあまりいなかった。
  
  映画の印象。宇宙船や小動物はＣＧ多用のせいかどうも重量感が感じられず実感がわかない。ＳＦ的小道具は結構こっている。ストーリーは？？？　いかにもＳＦチックな展開もあれば、子供受けをねらったところもあるようだ。もっとも英語ヒアリング能力の問題から細かいストーリーはよく分からなかった。エンドクレジットはかっこよかった。
  
  そんなこんなで、宇宙の果てに現実逃避。自分の選択については、明日まかせ。もうどうでもいいやという気になっている。

　●ループ読了

• 日本から持ってきた「ループ」読み終える。コンセプトや細かいところで前２作との違和を感じつつも、しばし壮大な世界に想いを巡らすことができた。この小説では多元宇宙（宇宙の中に別の宇宙があるという世界観）と仮想現実がキーコンセプトになっている。実際、この世は未来人か宇宙人か神か、誰か別存在のつくった仮想世界と考えると、僕の気分や問題など、実際どっちでもいいことかもしれない、という気になってくる（どんどん厭世的に・・・） 。
  でも、それだと、僕が生きてるって、一体？ 

　4月８日（木）

　●アルバイトの面接●

• 仕事の面接を受ける。
  
  デンマークの旅行会社。
  マネージャーはフィンランド人女性、
  
  ２時間近くロシア語で面接。
  後半ボロボロになる。
  
  聞かれたことは・・・、
  今までの経緯や、英語やロシア語がどのくらいできるか、タイプは早く打てるか？　なぜロシア語を始めたのか？　とか、旅行がすきか？　とか、給料の希望などなど、いっぱい。
  
  仕事内容はロシア在住日本人のヨーロッパ旅行の手配や雑務など。
  
  毎日勤務で夏までの期間アルバイトで、その後社員登用の可能性もあるが保証はない。
  
  結果は月曜日に出るとのこと。
  そして火曜日には回答がほしいといわれる。
  
  給料もあまり出せないと言われる。
  
  
• 面接を受ける前、受けている間、そしてその後も、もし採用ということになったら、そこでそのまま働いちゃっていいのか？それとも留学すべきか？
  ずっと心が揺れている。
  
  働く場合、アルバイトといえども身分がある程度保証され、ビザのことであまり心配がないのはいいが、仕事内容がピンとこないのと、朝から晩までの雑務の中でまたもや毎日流されてしまうような気がする。
  ロシアにいる意味が感じられないのではないか？
  
  かといって、留学するとしたら、たとえ勉学の充実感を得られたとしても、常に不安定な身の上とビザの問題、将来の不安を抱えて生きていかなければならない。
  
  留学に心が決まりかけていただけに、突然頂いたこのアルバイト話、やはり考えてしまう。
  しかしビザの期限切れはどんどん迫っており、少なくとも来週水曜までには、当座の身の振り方を決断しなければならない。

　●グルジア料理とワニ●

• 夕方、友人Ｈと会って、今後の身の振り方について相談。
  
  「自分で決められない病」にかかっていて、回りの人々を巻き込んでばかりいる。
  
  栄養つけて考えようと、トベルスカヤ通りのグルジア料理レストラン「アラグビ」に行く。
  
  グルジア風サラダにパンにスープ、シャシリクを二人でおなかいっぱい食べて計２５００円程。
  
  値段がそこそこで、味もなかなか良かったが、例によってミュージシャンが大音響で生演奏していて話ができない。
  
  給仕が頼んでもいない料理をどんどん持ってきたりする。
  
  抗議すると、「Very Good!」とか怪しい英語でしきりに食べろと勧める。
  
  食事中に、花売りとか、演奏させてくれとか、いろんな人が机を回っているので、気が散ってせっかくの料理の印象が薄まったりする。
  

• ふと見ると、片手にサルを抱き、片手にスポーツバックを持ったおじさんがホール入り口に立っていた。
  
  よく見るとスポーツバックから生きたワニが、ひょっこりと顔を出している。
  
  我々のテーブルまでやってきて
  
  「サルやワニと一緒に写真撮りませんか？」
  
  と言う。
  
  観光客が集まるアルバート通りの街頭でならまだ分かるが、トベルスカヤ通りの、日本で言うなら銀座通りのレストランで、
  食事中の人たちで、いったいどのくらいの人がナイフとフォークを置いてワニと一緒に写真を収まりたがるのだろうか？　
  
  この移動記念写真屋さんたちの商売うまくいっているのか？　
  この人たちは「顧客ニーズ」というものを考えたことあるのか？
  
  いろいろ考えてしまう。

　４月９日（金）

　●プーシキン大学訪問（８回目）

• また片道１時間１５分かけて、プーシキン大学へ。
  別の個人授業の先生を紹介してもらう。
  ３０代後半ぐらいと思われる厚めがねをかけた男性。
  話し始めて５分とたたないうちから、「僕は聞いていない。担当が違う」とか言い始める。「授業プログラムはないのか」と 逆に僕に要求するありさまで。事務局あるいは前に紹介された先生から情報がまったく伝わっていなかったようだ。
  
  結局問題はすぐに事務局戻しに。
  こういう事態になってばかりである。こちらは真剣な気持ちで何回も何回も通っているのに「すっぽかしと」か、「いきちがい」とか「さっぱり勘違い」とかばっかりである。事務局の担当の女の人が僕の話をまともに取り合ってくれていないように見え、また別の担当の女性が割り込んできて話がますます訳の分からない哲学的、理念的な方向に向かいそうになったので、僕はついに切れ、大声を上げてしまった。「この大学はあまりにも対応がいいかげんすぎる。たらい回しとかすっぽかしとか多すぎる。いったい誰に聞いたら分かるのですか？　僕の目的にあったコースがあるのかないのかはっきりしてください」といった内容のことを、もう崩壊しそうになりながら訴えた。
  
  
• すると、担当の事務局女性は、「すみません。私たちはあなたの助けにはなりません」と言い出す。そして、この大学に電話してください。といって、モスクワ大学とか別の大学の電話番号を差し出すのだ。それだったら、なぜ最初から言わないんだ。
  こりゃダメだ。という気持ちになった。
  

　●モスクワ大学訪問●

• 「ああやだ、もうやだ」といいながら、気力をふりおこして、前に、タチアーナ先生から教えてもらっていたモスクワ大学の言語学部に行き、学部付属のロシア語コースについて聞く。ちなみにモスクワ大学には学部ごとにロシア語養成期間があり、それぞれ内容、料金共に全く違うので、モスクワ大学のロシア語コースといってもたくさんあるのだ。
  
  電話で指示された部屋に行ってみると、ギターとかロックのポスターとか張ってある。高校生の部屋かと思った。担当の先生（教授？事務局員？）は少しぞんざいな態度の男性。
  
  うちは一年中いつでも入って、希望の期間学べると言われる。グループコースで１時間７ドル。個人コースで１時間１４ドル。料金が若干高いなぁと思った。 
   
• プーシキンに行って来たことを言うと、自信を持った声で
  
  「あそこの大学はもう機能的に終わってる」
  
  と断言された。
  
  「優秀な先生はみんなうちに来ている」と言われた。
  だからといって、ここのコースが内容がよく、安心できるといえるのかいな。
  １０回ぐらい通わないと実体が分からないのでは。
  いろいろ回って、もうこの国の大学機関というものが信用できなくなっている。 

　４月１０日（土）、４月１１日（日）

　●悩む悩む●

• 月曜日、もしバイト先から雇うという返事をもらった場合、受け入れて働くか、それとも当初の予定通り留学するか、悩みに悩む。 

　４月１２日（月）

　●会社からの連絡●

• マネージャーから連絡があり、アルバイトとして採用したいが、どうするか返事が欲しいと言われる。
  そのやり手っぽいフィンランド人の女性マネージャー。
  
  もう一人の応募者と僕はほとんどレベルが同じだが、いくつかのポイントにおいて僕の方がプラスに出た。だから僕を採ることにしたが、僕の返事によっては「すぐもう一人の志願者に電話します」
  
  ・・・なんて、言うモノだから、結論のいまだ出てない僕の頭はパニック状態に。
  とにかく明日まで返事を待ってくださいっていった。
  
  マネージャーは具体的な条件等について、今日もう一度話をしたいという。
  それは僕も望むところ。それですぐに会社まで赴き、話をした。 
  
  僕としては、アルバイトの重要な目的はビザを取得することと安定した身分確保である。もちろん未知の仕事内容にも興味はあるが、今すぐにものすごい忙しい中に身をおく精神的自信がないし、というか働く気力がない。先生のところにも通ってロシア語の勉強を続けたい。
  
  だから時間を少し減らしてもらえないかとお願いした。最初週４回はどうかと提案したが、ダメだと言われたので、始業時間を１時間おくらせて１０時からにしてもらうことで了解してもらった。 
   
• その後、マネージャーから、面接のときに聞き忘れたといって、突如「サービスについて」どう思うかと聞かれた。
  
  僕はよく分からなかったけど、自分の意見というかほとんど単純なことを、崩壊しそうになるたどたどしいロシア語で説明した（マネージャーはロシア語堪能）。お客さんに対する丁重な態度の大切さを（自分はたいして熱心な営業ではなく、お客さんにたいしてもたいして丁重に接して来なかったのにも関わらず）僕が前の会社の最後２年間区役所回りの営業をやっていたときの体験を例に出して説明した。
  
  そしたら、マネージャーは大きくうなずいて、そこがあなたがプラスになった点だ。と言った。
  これは意外なことだったが、嫌で嫌でしょうがなかった、日本で前に勤めていた会社の最後２年の「営業経験」（といっても半分は研修だけだったし、たいしたものではないが）が僕を採る決め手になったようだった。
  
  もうここにきては、これは運命だなと、受け入れざるを得ないような気分になっていた。留学したい気持ちはあるけれど、もういいや、ものは試し。ここでしばらく働いてみようと心の中で決めた。 

　４月１３日（火）

　●契約する●

• アルバイトの契約をする。期間は５月から９月末まで。その後社員になるかどうかは、そのときの景気判断と、先方と僕の意向による。純粋な現地法人採用のため給料は良くない。日本の新卒の給料に遙かにおよばない。
  
  
• おまけに契約書をよく見たら、アルバイト期間は１０時始まりにしてもらった分、給料も１２％割り引くとの記述がおしまいのほうに書いてあって、「しっかりしてるなぁ」と思った。 

　４月１７日（土）

　●誕生会におよばれ● 

• ５月からアルバイトすることになっている会社で働いていて、僕の入れ替わりに退職される日本人女性から、彼氏の誕生日会をするから来ませんか？とおよばれになる。
  
  彼女の手作りのボルシチをご馳走になったが、むちゃくちゃうまい。
  ロシアでこんなにうまいボルシチ食べるのはじめてだ（？）、と思った。
  
  二日かけて煮込んだという。
  
  こうやって後から書いていてもあの独自のこくと、
  煮込みに煮込んでスープにとけ込んだ具のざらざらした舌の感触が蘇ってくるようだ。
  
  彼女はロシアに７年暮らしているベテランである。最初こちらの大学に留学して民族学を学び、それからいまの会社に入ったという。
  
  ロシア人の友人直伝というボルシチからは、彼女のロシア生活の重みと豊かさが感じられた。
  
  
• 彼女の彼氏はピアニストである。部屋の中に、ドーンと、グランドピアノが置いてある。
  
  
• その席で、共にお呼ばれになっていた彼氏の友人たちとお知り合いになる。
  
  聞けばみんなモスクワの音楽院でピアノを専攻されているとのこと。
  
  音楽関係で来られている留学生とお知り合いになるのは初めて。
  
  ちょっと繊細か気むずかしい方々なのではとの先入観があったが、実際は大違い。
  みなさんとても親しみやすくきさくな方ばかり。いわば私的な集いの席に飛び込んだ形となったが、すぐにうち解けて、ワイワイガヤガヤ。久しぶりに冗談言い合って、楽しい時間を過ごせた。
  
  そのなかのひとりに、ひときわパワフルな女性がおられた。
  彼女はいわゆる帰国子女。日本の高校を出て、オーストラリアとアメリカの大学に留学。アメリカではピアノも習っていたという。
  ロシアにはサマースクールでちょっとこちらに来られたときに、英語ができる彼女は音楽院の入学選考会の通訳をすることに。
  通訳しながら音楽院に興味が沸いてきた彼女は「私も受ける！」と名乗り出て、そのまま試験を受けて通ってしまったという。
  それからアメリカからロシアに引っ越し。もう２年近くなるという。
  
  ご自分では「ふらふらしているんですよ」と言っておられたが、なかなかどうして、僕には彼女の魅力的なキャラクターにあった素敵な生き方のように思えた。
  
  そんな彼女でもロシアでは悩み多く、身体を壊してしまったという。
  しかし全身から感じられる彼女のパワフルさと明るさは、ここロシアで生きて行くには一番大切なもののように僕は思う。
   
• 彼女は最近ある男性を紹介され、そのひとのことでいろいろ「想い」があるという。そんな彼女の（恋の？）悩みをみんなで聞いてあげることに。
  
  誕生会の話題の８割は、誕生日の主役である彼氏のことではなく、彼女の関心の的の「そのひと」のことと、彼女の人生相談に占められた。
  
  いつのまにか一番年長の僕は人生相談の座長みたいになっていて「一緒にいてくつろげるのが一番です」「その人のもとに行きなさい」とか無責任なことを。
  ああ恥ずかしい・・・僕という人間は。なにエラそうなこといってんだか。バカ。
  
  恋愛経験だってそんなに豊富なわけでもないのに。
  
  でも彼女と話していると、「ボケとツッコミ」の要領でどうしても鋭いツッコミ入れたくなる。関西出身の悲しいサガか。
   
• そのうちなぜか「UNO」大会始まる。盛り上がり、そのまま夜中の３時まで続く。
  うっかりものの僕は最後一枚になったときに「ウノ！」というのよく忘れて、いつも指摘されて、罰として５枚のカード抱えることに。
   
• 「UNO」なんて修学旅行以来。あのころを思い出すなぁ。
  
  
• 違うのはバックミュージックがプロコフィエフのピアノ曲だったりする。
  ピアニストのみなさん、「チンケなカードばっかだよー」とか言って「ＵＮＯ」に集中していると思ったら、「ここのフレーズなんだっけ？」「○番○小節のリピートだよ」なんて会話が飛び交う。
  ちゃんと聞いてる（みんな、頭の中でピアノ弾いてるのかも）。スゴイ。

　●また出たミリツィヤ●

• 帰り道。夜中の３時頃。
  友人宅を出て、大通りに出てタクシーをひろわなければと、知り合った留学生とふたりで夜道を歩いていると、案の定また出た。
  ふたり組のミリツィヤ（ロシアの民警）現れ、捕まってしまう。
  
  「どこに勤めているんだ？」と尋問され、びくっとする。反射的に「 ○○（←以前勤めていた会社）で働いてます」と答えたが、本当は嘘。内心ひやひやものである。
  
  といってもこんな夜中問い合わせたりしないだろうという計算があった。
  
  住んでいるところとか、いろいろ聞かれたが、なんとか釈放。
  警官の矛先は、留学生の方に向かう。
  「（ビザの）登録は済ませたのか？」とか「（登録）スタンプはどこで押してもらったのか？」とか「（登録は）学校にやってもらったのか？」とか「学校の誰にやってもらったのか？」とかいろいろねちねち責めてくる。
  
  留学生は学生証まで出しているのに、やっぱり難癖をつけてくる。なにかふんだくろうと目論んでいるとしか思えない。
  
  まあ確かにこんな時間うろうろしている外国人ふたり組も怪しいといえば怪しいが。
  
  今の時期、僕の方にもやましいところはある。
  
  僕はいまロシアの失業者。不法滞在者なのだ。
  
  不安定な身の上。今後もミリツィヤとの戦いは続くだろう。
  

　４月１８日（日）

　●春が来た？●

• モスクワはポカポカ日和の陽気。
  完全に春が来たいう感じだ。
  
  というよりも暑い。
  
  街行く人々はもう半袖、女の人はミニスカート姿でさっそうと歩き、子供たちは上半身裸でサッカーボールを追っている。
  なんでこんなにすぐに変わってしまうの？という感じだ。ついこの間まで毛皮のコートに帽子姿。零下の日々が続いていたのに。
  といっても、安心はできない。ロシアの春は四季が凝縮されており、気候の変化が激しい。
  
  去年は４月に入って突然大雪が降り交通が麻痺した。
  コートはまだしまわない方がいいだろう。
  
  
• ２年前に日本を発ち、ロシアに来るときに、前の会社の同期入社の友人たちが、送別の品として、また、「ちゃんと報告してくれよ」との意味でもプレゼントしてくれたカシオの往年のベストセラー機QV-11（←デジタルカメラ）。
  
  全然使っていなかった。
  
  ここらでいっちょう活用してやらないと、カメラと一緒に送り出してくれた友人たちの気持ちに申し訳ない・・・ということで、４月のモスクワの景色をちょっとお届け。
  

　４月１９日（月）

　●髪を切る●

• 今日も快晴。外はぼかぼか陽気。
  
  なのに朝からうつうつ状態が再発。
  なんとか気分を変えなければ、と、さんざん迷ったあげく、とにかく外へ出よう、と、
  一念発起して、いつもの美容院（サロン・クラサティ）にいく。
  
  散髪行くのはずいぶん久しぶり。髪も伸び放題で、もう４ヶ月も髪を切っていないのである。
  
  担当は若いにいちゃん。
  説明するのめんどくさいから、
  「短く刈り上げてくれ」というと
  にいちゃん「えっ、短く？」と驚いて、本気か？といった表情をする。
  
  そんなに驚くということは・・・と、僕は警戒して、
  「え〜、あまり短くしないで」と訂正する。
  
  初対面のにいちゃんで、ちょっと不安だったが、日本の床屋の２倍の時間をかけて、情熱をこめて丁寧に丁寧に髪を切ってくれる。
  丁寧すぎ。
  「ずいぶん髪を切ってなかったのか？」と尋ねられる。
  
  仕上がりも上々。頭が軽い。
  
  散髪代は１５０ルーブル。値上げしていた。
  でも日本円にすると７００円程度でそんなに変わっていない。
  
  幸いなことに、僕はロシアではひどい髪の刈りかたをされたことがない。
  僕の少ない経験からいえば、ロシアの床屋は愛想については比べるべくもない（つまりロシアの床屋は愛想悪い）が、少なくともテクニックにおいては、日本と同等かそれ以上である。
  
  僕が前に仕事で関係していたパソコンのソフト開発でも感じたことだが、ロシア人の技術的才能には、感心させられることが多い。
  なんといったらいいか、集団プレイはぎくしゃくすることもあるが、きっちり目的が決まっている、個人ワザ的クリエイティブの世界では、ロシア人は卓抜したエネルギーと集中力と芸術的才能がスパークするときがある。
  ノルシュタイン（切り絵などを使った凝りに凝ったアニメ作家）がその最たる例といえるか。
  
  
• 前回髪を切ったのは、日本に一時帰国した去年の１２月である。
  そのとき池袋の床屋のにいちゃんに聞いたことだが、床屋の世界では、「世界床屋コンクール」というようなものがあって、年に一度世界の理髪師が一カ所に集まって、技術を競うのだそうだ。
  
  その世界では、ロシアの技術力の高さは広く知られており、毎回優勝候補にあがるそうである。
  去年もロシア代表団の作品は素晴らしく、すわ優勝か、と思われたが、
  あまりにも芸術しすぎたというか、アバンギャルドに走りすぎて、その大会では髪の長さとか、髪が襟にふれてはいけないとか、細かい規定がいっぱいあるのだが、それにことごとく触れてしまい、失格となったそうである。
  
  それで、規定にきっちり適合した日本代表団の安定した作品が優勝したそうな。
  
  なにか、現実のロシアと日本の国民性の違いを思い起こさせる話である。

　●プロバイダにお金払いにいく●

• 試用的に、少額を払い込んで接続してみたインターネットのプロバイダ。
  
  料金不足で、すぐ使えなくなってしまったので、プロバイダの会社まで行き、まとまった金額を払いに行く。
  ロシアのプロバイダはほとんどが前払い料金制である。
  
  化粧の濃いマネキン人形のような顔した窓口のねえちゃん。すこぶる愛想悪い。
  「サインしなさい」「お金出しなさい」「なにまだ突っ立ているのよ」という感じである。
  
  「なに怒ってるんですか？　僕がなにか悪いことしましたか？」と、よっぽど聞こうかと思ったが、
  こんなこと言ってもロシアでは時間のムダ。ぐっと腹の中に納める。
  
  時間かけて、遠くまで地下鉄で行って金払って、なんとも気分悪い。
  まあこんなこと、ロシアでは至極当然、きわめて日常的風景であるが。
  
  またうつうつしてくる。
  
  ロシア人の知人はみんな、とにかく外に出て散歩すれば、気分も晴れる、病気も治る、と言うが、
  特にうつの人は、ロシアのお店とかに行くのは、身体に悪いと思う。
  

　４月２０日（火）

　●またまたウツウツ●

• 極めて個人的なことの悩みと、アルバイト先のビザの手配についての不安から、またウツウツ再発。
  もうふっきれたと思ったのに甘かった。
  
  あせって働くことを選択したことを後悔。
  やっぱり早まったことをしたかもしれない。
  ５月からのこと自信がない。
  
  一日中ほとんど、ビールを飲んで、寝て過ごしている。
  最近、以前は絶対やらなかった、ひとりでビールを飲むというクセがついた。
  ウォッカさえ飲む（ロシア人になったのか？）
  昼間から飲んでいる。
  
  でも、もとから酒は飲めない体質なので、飲んだ後、いつもふらふらになってしまい、苦しくて飲んだことを後悔する。
  今日も、ビール２本（僕にとってはかなりの量）いっきに飲んでしまい、めまいがして洗面所に立ったとき廊下でぶっ倒れてしまった。
  苦しかった。
  
  自分は酒飲んで母親の悪口を言う父親の姿がいやで、自分は酒飲みにはならないと決めていた。
  しかし、ついに自分もアルコールに頼るようになってしまった。
  
  そんな演歌があったなぁ。
  
  ♪〜親父みたいな、酒飲みに、ならぬつもりが、なっていた・・・（だったっけ？）
  
  こんな自分が信じられない。
  でも、もうどうでもいい、ちょっとでも逃げ場があれば逃げたい、という感じだ。
  
  

　●New Order熱●

• 最近、 New OrderのＣＤばかり聞いている。
  New Orderはちょっと訊くとありふれたエレクトリックポップスにしか聞こえないかもしれないが、曲のあちこちに、前身バンドのメインボーカル自殺という、バンドが背負ったトラウマが潜んでいる。
  
  軽快なダンスミュージックのメロディーは悲しいくらい美しい。
  
  一番のお気に入りは、アルバム『Substance』に納められている「Bizarre Love Triangle」 。
  これを聞くといつも同曲のビデオクリップを思い出す。
  背広きたにいちゃんが、青空の中をクルクル回転しながら、どこまでもどこまでも落っこちていく映像。
  
  　　♪Every time I see you falling
  　　　I get down on my knees and play
  　　　I am waiting for that final moment
  　　　You'll say the words that I can't say... ♪
  
  明るくて暗い（？）サビを口ずさむ。
  
  そしてビールを飲み、
  決めてしまった選択と、こうなってしまった結果について、「これでいいんだ」と自分の心に言い聞かせる。

　４月２２日（木）

　●神はいるか？●

• インターネットで、なにげなく
  
  「生きる意味」
  
  って打って検索したら、
  
  白血病と闘い２３才で亡くなられた男性が書き残した闘病日記に行き当たった。
  （http://www.fin.ne.jp/~tip-star/cb/cb1.htm）
  
  もう彼はこの世にはいないのだが、彼の友人たちがホームページで彼の手記や彼への思いを残しているのだ。
  
  読んでみて、びっくりした。
  
  明るいのである。
  
  どんどん悲観的になっていく状況のなか、作者は最後まで絶対に（少なくともＨＰの日記のなかでは）明るさと笑いを失わない。
  
  どこまでもどこまでも明るく書き続ける。
  
  すごい人だ。
  どうしてこんなこと可能なんだろう？　
  どうしてこんな人が死ななければならなかったのだろう？
  
  その人のことずっと考えていた。ちっぽけなことで悩んでばかりの自分が恥ずかしくなった。 
  

　●生きる意味●

• 子供の頃から、もうずっとずっと長いこと「生きる意味」について考えてきた。
  
  「なんのために生まれてきたのか？」「自分はなにをすればいいのか？」とか、
  「運命」とか「使命」ってあるのか？とか。
  
  それは結局「神」はいるのか？という問いになる。
  いつまで考えても結論は出ない。
  
  思いついたときから、「神」や「意味」について考える機会が多かった。
  
  僕の母と妹はクリスチャンでいまでも毎週教会に通っている。
  僕自身はその後はいかなくなったが、幼稚園のときは教会の日曜学校に通っていた。
  
  クリスチャンにはならなかったが、高校は偶然ミッションスクール（男子校）に通うことになった。
  
  理系の大学を目指していたが、受験に失敗し、家を出て新聞屋の二階に下宿して新聞奨学生として働きながら浪人することになった。
  そこで自分にとってはどん底と思える生活を経験し、また、初めて「新聞専業員」という人たちに出会った。
  彼らは僕がいままで出会ったどんな大人たちとも違っていた。
  
  彼らは賭博に人生のすべてをつぎ込んだり、酒や薬への依存から抜け出せなかったり、嘘を言ったり、酒を飲んで泣いたりした。金貸してくれという人もいれば、気前よくおごってくれる人もいた。
  借金を踏み倒したり、夜逃げした人もした。やくざのような同僚から弱みを握られて脅されたり、イジメにあっている人もいた。
  
  そんな環境から脱出する過程で、むしょうに「生きる意味」について考えたくなり、大学は哲学科を選んだ。
  
  しかし哲学科では、人間の生を対象として、客観化して突き放して考える作業が中心で、学問の迷路に迷い込むばかりで、哲学書や思想書を読めば読むほど、自分の本当に知りたいことから遠ざかってしまった。
  
  会社に入れば、そんなことも考えなくなるだろうと、世間からは安定していると思われている会社に入った。しかし勤めはじめて、日常に忙しさと会社の論理に流されていくうちにますます、また「生きる意味」について考えるようになった。
  
  そして、そんな日常に堪えられなくなり、なにかを、きっと「意味」を求めてロシアに来た。
  
  でも、いまも「意味」はみつからず、考えてばかりいる。
  
  

• 小さいときからの習慣で、僕はつらいときには手を組んで神に祈る。苦しいときは福音書を読みもする。
  でも、調子いいときは神を忘れている。もともと、洗礼も受けていないし、教会にもいかない。
  結局「苦しいときの神頼み」ってだけの都合いいやつである。
  
  そもそも神を信じているかどうか自分でも分からない。
  
  もう人類が無数に繰り返してきた疑問だろうが、
  一番の疑問はここだ。もし神がいるのなら、神の「意志」があるなら、世の中はどうしてこんなに矛盾だらけで、不公平なのか？
  
  いままで生きてきて何人もの知人や友人の死に出会った。僕が知る限り彼らはみんな善良で心が温かい人たちばかりだった。
  
  彼らは生きていることにあまり不平を言わなかった（もっとも僕の前だけだったかもしれないが）。僕はいつも不平不満ばかり言っている。彼らや「闘病日記」の彼はこの世から去り、僕はうだうだ文句いいながらまだ生きている。　なんで？と思う。
  
  テレビでは、ユーゴスラビア空襲で丸焦げになった死体が写し出されている。難民が溢れ、泥の上にテントを張って暮らしている。栄養失調で生きられない赤ちゃんがいる。世の中には生きたくても生きられない人がたくさんいる。
  
  僕は失業したとはいえ、家もあるし食べ物もある。ロシアには別に逃げてきたのではなく、自分の意志で来た。でも頭抱えて泣き言ばかり言っている。
  

　●ヨブ記のこと●

• 旧約聖書に「ヨブ記」という物語がある。
  
  この話をはじめて聞いたのは、幼稚園の日曜学校でだった。大人になってＣ・Ｇ・ユングの「ヨブへの答え」という本をを読み、そういえば前にどこかで聞いたなぁと思い出した。
  
  ヨブという信仰あつい忠実な神のしもべがいた。
  
  彼は神の前で一度も過ちをおかしたことはなかった。
  しかし、神は悪魔と賭をし、ヨブを試す。
  
  悪魔が神に「すべての持ち物を奪えば、神を呪うに違いない」と言ったからだ。
  
  たちまちヨブは家畜を奪われ、彼の僕たちや、息子や娘たちは打ち殺される。彼自身も病に冒されて死の淵をさまようことになる。ヨブの体中が悪性の腫れ物で覆われ、ヨブは灰の中にすわり、土器のかけらで身体を掻きむしる。
  
  彼の妻は「神を呪って死になさい」と彼を蔑み、見舞いのため遠くたちからやってきた三人の友人は、見当違いなことを言ったり、説教をしたり、「神が間違うわけがない」とヨブの不正を責める。
  
  ヨブは、苦しみに耐えながらも、それでも神への信仰を失わなかったが、神は沈黙したままである。ついに自分の生まれた日をのろいはじめ、憤りが爆発。
  
  彼は神に訴える。
  
  「どうして？」、
  「どうして？わたしはここまで苦しまなければならないのか？」
  
  そこではじめて神は降りてきて、ヨブに広大な全世界を見せ、この世界をつくった自分の偉大さと、人間の卑小さを示す。 
  
  ヨブは「私は自分をさげすみ、 ちりと灰の中で悔い改めます。 」と、ただただ神の前に体を投げ出して、ひれ伏す。
  
  それで神は 彼の言葉を受け入れ、ヨブにはそれまでの二倍の財産と十人の子供が与えられる。（その代わり三人の友人は神に怒られる・・・？？？）
   

　●結局・・・●

• ヨブは最後には救われるというものの、一見理不尽な話である。
  
  あまりにも冷酷で気まぐれな神。そして現実。
  
  でも「ヨブ記」の物語は、問うな、ただ信じろ、そして受け入れろ、と教えているように思える。
  
  この世に生きる意味はあるのか？　神はいるのか、救いはあるのか？　やっぱり分からない。
  
  
• 言葉は届かず、問いへの返事はない。たぶん１９９９年の世紀末になっても神は降りては来ない。ノストラダムスの「恐怖の大王」も降りてこないだろう。あるのは（またあるように感じられるのは）、そしてずっとずっと続いていくのは、ただ自分を包み込む「いまここにある現実」のみだ。 
   
• 去っていってしまった人々の姿を脳髄の奥に刻み込んで、現実を受け止め、黙って生きて行くしかない。
  特にこのような壮絶な「日記」を読んだ後は。なにを言うのも傲慢なように思える。
  
  
• なんか訳の分からない展開の文書になり、後で読んでちょっと恥ずかしくなったので、削除しようかどうか迷ったが、これも正直にいまの自分が考えたことなので、残すことにします。
  いろいろ考えさせられたので、柄にもないことを、長々と書いてしまいました。
  

　４月２３日（金）

　●新緑のモスクワ●

• 会社に行って、フィンランド行きの往復航空券を受け取る。ビザ切替のため、来週の月曜から木曜までフィンランドに一時国外脱出する。
  しかしホテル代は自分持ちというところが、やっぱりしっかりしている会社である。
   
• この前まで木の芽がふくらんできているなぁ、と思っていたら、とつぜん「ぶわっ」と新緑の季節になった。街はエメラエルドグリーン一色の世界。みずみずしい若い葉っぱの色が僕は一番好きです。ロシアが最も素敵に輝く季節。
   

　４月２４日（土）

　●新しい先生●

• 今日は新しい先生の第一回目の授業だった。先生はうちから１０分ほど歩いたところ、ご近所に住んでいる。
  Ｈさんがおすすめだというこの先生。このひとも名前はタチアーナ先生である。３０年もロシア語を教え続けてきたベテランである。パワフルな中年女性という感じの新タチアーナ先生の授業は、厳しいが、学習者のニーズにあったメソッドを一生懸命模索してくれているなあと好感を持った。
  新聞を使った授業は、ときに彼女の深い教養も感じさせる。しばらくアルバイトをしながら彼女のところに通って、マイペースでやっていこうと思う。
  
  
• 「拡大する」という単語についての学習で、新タチアーナ先生は「エリツィンは自分の権限を拡大した。彼は国民をだました。ずるい」と言っていた。ロシア語の授業からはいくぶん逸脱した発言だといえるが、僕でも納得できる点はあるし、ロシアの人々の多くは同じように思っているのでないか。最近も大統領の賄賂疑惑についての捜査を積極的に推進しようとした検事総長を、大統領令を発行してまでして解任しようとしたりして、ますます強権を発行して権力にしがみつく姿勢を見せている。
  大統領の再出馬の噂が大きく取り上げられたこともあったが、たとえ立候補したとしても実際に投票するひとはまれである。支持率は１％を割っている。
  
  もっとも国民が選挙で大統領を信任したからこうなったというのも事実ではあるが。

　４月２５日（日）

　●お詫び●

• ずいぶんと日記を更新しませんでした。
  みなさん、ご心配をおかけしすみませんでした。何回か来てくださった方、ごめんなさい。
  
  ３月の中頃から、４月にかけて、精神的落ち込みのピークを迎え、またいろいろあって、日記を公開することがしんどくなりました。
  。
  また会社のプロバイダが利用できなくなったことから、NETに接続することができなくなってしまいました１ヶ月以上の間、インターネットなしの生活。ＨＰの更新ができず、頂いたメールにもお返事できませんでした。
  
  ここに来て、自分でプロバイダに加入し、試行錯誤の結果、やっと安定して接続できるようになったところです。
  
  僕は３月末で会社を辞めました。
  留学を真剣に考え、何回も大学に通ってみましたが、なかなか決まらないうちに、ある外資系旅行会社のアルバイトの話が突然浮上してきました。
  悩みに悩んだ結果、結局５月からそこで働きながら、ロシア語の勉強の方も先生のところに通いながら、細々と続けていくことにしました。
  
  精神状態は、いまは一進一退というところ。
  特に朝方は不安になったり、うつになりますが、心に濃く立ちこめていた霧が少しずつ薄まってきているなぁと感じるときもあります。
  
  
• 日記は、断片的ですが書いてはいました。
  書き散らしていた３月１１日からの日記を記憶に基づいて補足整理し、以下アップしました。
  １ヶ月以上にわたる日記は、かなりの分量になってしまいましたので、僕の「空白期間」の遍歴にご興味のある方だけ、読んでいただければ嬉しいです。
  
  改めて、日本の僕の大事な友人、知人の方、このＨＰを読んでくださっている方々、こんな僕を暖かく見守ってくださったり、励ましのお便りをくさった方々、ありがとうございます。また、ご心配をおかけしました方々、ごめんなさい。
  
  いろいろありますが、みなさんに支えらながら、僕はもうしばらく、このロシアで、なんとかなんとかやっていこうと思います。
  

　4月２６日（月）

　●フィンランド行き

• 新しいビザを手に入れるために、フィンランドに行く。
  
  
• なんやかんやと家を出るのが、かなり遅くなってしまったので、白タクを使ってしまった。
  家（モスクワから若干北東部）から空港まで３００ルーブル（約１２ドル）。
  
  （みなさんがモスクワに来られたとき、税関の外にでたらすぐにしつこく声かけてくる白タクのおっさんは、５０ドルとか１００ドルとか言いますが、あれはボッタクリですので、注意しましょう）
  
  車（ジグリ）はかなりボロボロだったが、運ちゃんが善良そうな人で良かった。急いでるっていったら、かなり飛ばしてくれた。着いて「ありがとう」ってお金を渡したら、「こちらこそありがとう」って言ってくれた（う〜ん、モスクワではかなりいい人だよぉ）。
  
  
• 毎度おなじみ（？）のモスクワ・シェレメチボ空港である。
   
• 急いで関税申告書を書いて、税関のところにいったら、誰も並んでいる人がいない。税関職員は、フィンランド行きは２時間後だと言う。「そんなはずはない」とチケットを見せたら、僕の便はゲートが反対だった。
  
  

　●サクソホン摘発●

• 「ああ、失敗したー」と思って、急いで反対側のゲートにいったら、ものすごい人だかりができている。
  例によって行列は崩れ、ものすごい量の荷物を荷台にのせた人たちが割り込んで道を塞ぎ、人々が押し合いへし合い、だんご状態になっている。
  
  
• 仕方がないから、行列の一番後ろらしき場所に並ぶが、一向に前に進む気配はない。先頭は何をやっているんだと、背伸びしたり、横からのぞいたりして様子をうかがうと、どうやらＸ線装置のベルトコンベアが全ゲートにおいて停止しているようだ。なにやらすべて人手で荷物のチェックをやっている。また故障か、あるいは電気代を節約しているのかと思ったが、どおりで進みが遅いわけだ。
  
  
• さらに、我が列の先頭では、黒人のにいちゃんがつかまって、彼の持っている金色のサクソホンが、あれこれ税関職員によって調べられている。職員はサクソホンを縦にしたり横にしたり、ラッパの中身をのぞいたりしている。
  
  
• なかなか通してくれないらしく、黒人は抗議しており、それに職員総出で対応している。「総出」ということは・・・カウンターのにいちゃんもそっちの方にいってしまっており、待っている客に対応する人間がまったくゼロになっている。つまり税関は完全に停止してしまっている。
  
  まったく。分担しろ分担。なんのために何人も職員がいるんだ。と見たら、隣の通行止めになっているカウンターでは職員どおし世間話している。あああ、もう。
  
  
• しかし、黒人さんに対する職員の対応だが、また証明書がないとか、楽器の持ち出しはどうのこうのとかいって、ネチネチいじめているのだろう。
  まったく、誰がどう見てもただのサクソホンじゃないか。そんなことで時間かけるんだったら、Ｘ線装置を早く修理して、いまロシアで社会問題となっている武器とか麻薬の摘発に力を入れろ・・・！
  
  
• 隣にいたアメリカ人かイギリス人か、英語を話すにいちゃんが、「サクソホン」「サクソホン」となんどもつぶやいてはため息をついていた。きっと彼もばかばかしいと思っているのだろう。

　●FINNAIRかっこいい●

• そんなこんなですごい時間がかかり、なんとか税関を突破したら、もう搭乗が終わりかけていた。危ない。ぎりぎりセーフといったところだ。
  
  
• 久しぶりに乗ったFINNAIR（今まではもっぱらAerofloatを利用していたのだ）。かっこいー。座席とか基調カラーが濃いブルーで統一されていて、スキッとしてセンスがいい。 これが「西側の飛行機（？？？）」か。AeroFloatにはない洗練されたラインを感じる。
   
• 離陸前に各座席の天井パネルがパカッと開いて、液晶ディスプレーがポップダウンしてきた。必要な情報を映し出す。なにかＳＦみたい。これは今の旅客機では当たり前なのでしょうか？　僕は初めて見ました。
  
  
• 「乗客への注意事項」もすべてがコンピュータグラフィックスである。そうかぁ、今はこうなのか、と思った。AeroFloatのちょっと年増のスチュワーデスさんのビデオも味があってなかなかいいかもしれないが、ちょっとセンスに欠ける。
  
  

  ←宇宙船の内部(?)です、といっても通用しそうな（ほんとか？）、ＳＦな機内。

　●ヘルシンキ空港きれいすぎ●

• モスクワ・シェレメチボ空港から、フィンランド・ヘルシンキ空港にきて、いつも感じること。
  きれいすぎる。明るい。これが同じ世界か？と思う。日本の成田についたときも同様な感覚を味わうのだが、こちらは９時間の心の準備がある。
  モスクワからヘルシンキまではわずか２時間のフライトなのである。文明社会に降り立ったような感覚。 たとえば古い工場のライン現場から、最新鋭の研究室の無菌室に入ったような感じ（ちょっといいすぎか）といえば分かってもらえるだろうか。
  逆に、ちょっと落ち着かないのだが。

　４月２７日（火）

　●フィンランドとロシア

• フィンランドに来るのはこれで４回目。
  ロシアに来た当初は、３ヶ月ごとにフィンランドに行き、新しいビザを受け取らなければならなかった。その後は制度が変わって１年に一回で済むようになったが、いままで頭の片隅にしかなかったフィンランドの存在が、ぐーんと大きくなったのは、ロシアにきてからだ。
   
• というのも、フィンランドはロシア（モスクワやサンクトペテルブルク）から見て、一番近いヨーロッパ、西側の国なのだ。
  モスクワからは２時間、ペテルブルクからは１時間のフライトで、西側の暮らしを体験し、豊富な商品群を目にすることができる。お金があれば手にできる。
  ウラジオストックとかの沿海州の都市の人々にとっては一番近い西側の国は日本だろうが、人やモノの交流という面で、ロシア（モスクワ）の人々の、フィンランドへの親近感、信頼感とは比べるべくもない。
  
  ソ連時代の影響と旅行資金の問題で、外国に行ったことのあるロシア人は限られるが、フィンランドに行ったことのあるロシア人は多い。
  
  ヘルシンキの街でも、両替所とか、ロシア語表示の案内をよく見かける。
  
  
• 僕はフィンランドに来るたびに、ロシアとのそのあまりの違いに驚かざるを得ない。
  
  
• フィンランドは北の果ての森と湖の国。
  落ち着いた街並みに整ったインフラ。
  街のお店は商品であふれ、店員さんは笑顔で「ありがとう」と言ってくれる。
  人々は概して穏やかで親切。道を尋ねても、笑顔で答えてくれる。
  
  
• ノキアで知られるハイテク国であるこの国の人々は子供までが携帯電話を持っている。街に出ると、片手に携帯電話持って歩きながら話しているひとのなんと多いことか（普及率は５０％を大きく上回っているという）。
  そして、初等語学教育がしっかりしており、店員さん、タクシーの運転手をはじめ、だいたいの人がフィンランド語、スウェーデン語に加えて英語を話す。
  
  
• いやそれ以前に、僕にとって驚きなのは、道（石畳が多い）が平らで、信号はちゃんと動いており、横断歩道を渡ろうとしたら車はちゃんと止まってくれる。つまり・・・ロシアみたいに人が横断歩道を渡っていても、車はスピードあげてつっこんではこない・・・。
  
  
• そのことを、去年アイルランドにいったとき、英国から来た日本人留学生に言ったら、不思議な顔をされ、「どんな国から来たんですか？」と言われた。
  
  
• ロシア人にとっても驚きのようで、前の出張で一緒に来たロシア人の友人、若いインテリのバロージャは、この街を夜遅くまで歩き倒して、「どうして？　どうして？」とうなっていた。
  
  
• 民族は違うものの同じような気候の北の国で、この違いはどうして生まれたのか分からないというのだ。おまけにフィンランドは１９世紀はじめにロシアの領土とされ、その後１００年以上ロシアの支配下にあった。その後も領土問題でソ連に不当な要求をされ、１９４４年まで継続戦争を行い、おまけに重い戦争賠償を払わされるハメになった。
  
  
• バロージャは興奮して言っていた。「見ろ！　いま歩いていて、すれ違った婦人が何をしたか知ってるか？　なんとにっこり微笑んだんだぞ！　我々の国でこんなことぜったいあり得ない」
  と、感動していた。
   
• 僕はこの国はもしかして理想の国なのではないかと思うときがある。
  大自然にあふれ、人々は自然を愛し、環境を大切にしている。経済的に成功し、この１０年ほどの間にハイテクの国となった。人々はまじめに働くが、そんなにあくせくとは働かず、自分と家族との生活を大切にしている。街の中心には巨大なデパートがあり、たいていのものは手に入る。日本のように街はゴミゴミしていない。通勤ラッシュもない。
  
  本好きのひとが多く図書館に通う。休暇には家族と湖畔や森の小屋に行き、そこでスポーツや釣りやボートを楽しむムーミンたちの国。
   
• もちろん実際に暮らしてみると現実はまた違うのだろう。福祉は充実しているものの、失業率が高いと聞いている（その割には街で浮浪者をほとんど見ないのだが・・）。また物価も日本なみである。
  
  
• それでも、どっちがいいかは一概にはいえないが、僕はここに来るたびに、フィンランドと比較することで、逆にロシアのことを考えてしまうのである。もちろん日本についても。

　●大使館にいく●

• せっかく来たというのに、夢見が悪く、朝方ウツウツ考え事をしてしまい、起きられない。
  しかし、だめだめだと、昼過ぎになんとかホテルを出て、大使館に向かう。
  
  
• なにかトラブルがある、きっとあると、強迫観念ぎみに覚悟していたが、特に大きな問題は起こらずロシアへの入国ビザを手に入れることができた。強いて言えば、お金を払うためにいつも使っていた近くの銀行にいったらつぶれていたので、往復１時間ぐらい歩いて代わりの銀行を探し回るハメになったが、こんなこと、いままでに比べたら大したトラブルではない。
  
  
• もっともこれをロシアに帰ってからマルチの出入国ビザに切り替えなければならないのでまだ予断は許さないが。
  

　●お散歩●

• フィンランドはモスクワよりも寒い。
  
  でも空は青く抜けて、空気は澄んでいる。
  
  
• 大使館の帰りに、ちょっと近くの丘の上の公園を通って帰った。
  
  ここは木々の芽は膨らんでいるものの、緑の季節はまだ。
  でも、緑の芝生の上で、赤いチューリップのつぼみがふくらんでいるのを見た。
  
  そこに穏やかなお日様の日差しが降り注いでいる。子供が遊び、アベックは芝生に寝ころんで寄り添っている。平和な風景。
  
  
• その後ちょっと船着き場に出る。ずいぶん久しぶりに見る海にちょっと感動。
  
  ヘルシンキの街は、石畳の道が多い。それが落ち着いた外観を形作っている。足の裏に感じる石の感触が気持ちいい。
  

• 実は朝からなにも食べてなかった。食欲がなかったのと、起きれなかったのでモーニングサービスの時間に間に合わなかったのだ。手頃なカフェに入り、注文したが、ウェイトレスのおねーさんの英語が流暢すぎ（？）て何言ってるか分からない。「Ｏｋ」「Ｏｋ」で聞きながしながら、とりあえずツナサラダときのこスープとサンドイッチを頼んだら、サンドイッチは普通だったが、まさに洗面器に盛りつけたような巨大なサラダとこれもボールに入れたようなスープが出てきた。わー困ったなぁと思ったが、あんなにサラダばかり食べたの始めて。長年の野菜不足もこれで一気に解消といくか？？？
   

　●つい手癖が・・・●

• 僕はこの街に来ると、普段張りつめていた緊張の糸が、「ふっ」ととぎれてしまう。
   
• 店で買い物をしてレジでお金を支払った後、なにを思ったのか、隣のお客がカウンターの上に置いていたその人の買い物袋まで持っていこうとして呼び止められた。ああ、恥ずかし。バツ悪い。「置き引き」と思われたかなぁ？
   
• ついひさしぶりのフィンランドだったので、ばかみたいにたくさん書いてしまった。ここまでつきあってくださったみなさん、ありがとうございます。
  

　●写真追加●

• せっかく同期入社の友達にもらったデジタルカメラを活かそうと、 過去の日記（４月１８日「春が来た？」と ４月２３日「新緑のモスクワ」）に前に撮ってあった４月のモスクワの写真と少し文章を追加しました。
  
  
• ノートパソコン持ってきたので、試しにモスクワのプロバイダに電話かけたら、 何回かの試行の後、ネットにつながったので急いでアップします（なにしろホテルからの国際電話なもんで高い）

　４月２８日（水）、２９日（木）

　●物欲地獄●

• しかしこの国に来ると、お金を使う使う。
  
  これだけお店があって、商品が豊富にあり、喫茶店やファーストフードなど気軽に休めるところがたくさんあったら、
  つい嬉しくて街の中をうろうろ歩いてしまう。
  
  そして、街を歩けば、いやでも色とりどりの商品に目がいく。
  
   
• 僕は普段からあまり買い物をしない人間だが、
  これだけ街によりどりみどりの商品があふれていると、つい財布のひもも弛んでしまう。
  
  ロシアで我慢していた分、いろいろ買い込んでしまい、
  ロシアからパンツの中に隠して（←極秘）持ち出したドル札があっという間になくなっていく。
  
  店員さんも笑顔で迎えてくれ、「ありがとう」と言ってくれるので、つい嬉しくなって、余計な物まで買ってしまう。
  
  

　●ロシアとの違い●

• まさに消費社会である。
  
  ならばロシアは非消費社会（あるいは半消費世界？）か？
  
  だいたいロシアにいると、あまりお金を使わないのである。
  お金を使わなくても良い仕組みになっている。
  
  ロシアには庶民が気楽に入って、商品を手にとって、ショッピングを楽しんだり、
  リーズブルな値段で買い物できるところもすくないし、
  気を使わず、ゆっくり時間つぶしできる喫茶店もほとんどない。
  ひとりで外で食事できるところがない。僕みたいなひとり者でも、自炊せざるを得ない。
  
  手頃な値段でロシアの一般家族が入れるレストランがない。
  週末のマクドナルドは家族連れでいっぱいである。つまり、ロシアのマクドナルドは「昼飯どうする？」「時間ないしマクド（ナルド）でいいかぁ」というところではなく、日本のファミリーレストランのように、休日たまに家族がちょっとゼイタクして家族サービスできる場所になっている。
  
  市場経済で街にモノが溢れるようになったといっても、商品の絶対量が決して多いとはいえず、デパートを回っていてもあまり欲しいという商品に出会わない。
  
  だいたい、気になる商品がたとえあったとしても、店員の態度は冷ややかで、というか、「なぜ俺から買う！」と身体全体から怒気がわき出ている店員も見受けられ、金払って屈辱的な気分にさせられることもしばしばである。もう誰が買ってやるか！と、腹が立ってくる。
  
  つまり、買う前に消費意欲が急速にさめていく。
  
  ロシアでは街全体がお金を使わせない、いやお金を使わなくてもよい仕組みになってるのである。 

　●ふたたび物欲地獄●

• ＣＤ、一挙に２０枚も買ってしまう。
  失業者が。気でも狂ったか。
  
  大きなレコード屋（といっても、TowerRecordやMegaStoreとは比べるべくもないが）を見つけて入ってみると、ロシアのレコード屋にはない洋楽の豊富な品揃え。つい嬉しくなって、どんどん買ってしまう。
  
  買ったのは、NewOrder、Depesh Mode、PetShopBoys、RoxyMusic、KraftWerk、DevidBowieなどなど。いっぱい。
  
  どうせ読みもしないペーパーバック買う。
  
  ロシアでの通信状況を改善したかったので、５６ｋflexのカードモデムを買ってしまう。
  
  電気屋でＩＣレコーダーというものを見かけて、思わず衝動買いしてしまう。
  
  フィンランド語のテープ買う。
  日本語と同じように絶海の孤島のように独立した言葉、フィンランド語に興味を持った。今度の上司がフィンランド人 ということもあり、（媚びを売るために？）ちょっと使ってみるのだ。
  
  ↑ウソです。買ってきたけど、ぜんぜん聞いてません（５／２１追記）
  
  ホビーの店の中をぶらぶら見て歩く。
  展示している知恵の輪をいじっていたら、解けないので、そのままガチャガチャやりながら、レジに持っていって買ってしまった。

　●閑話休題●

• さて、ユーロの登場とともに、いずれはなくなってしまうであろうフィンマルクであるが、５０フィンマルク札を使うときいつも、かつて「浮沈空母」発言で物議をかもした元首相を思いだしてしまう。
  
  

  ←中曽根さん。フィンランドのお札にも載ってます。

４月３０日（金）

　●僕は旅行に出かけても名所を回らずに、ぶらぶらだらだら無為に過ごすのが結構好きだ。

• 結局この３日間はホテルで寝たり、テレビを見たり、日記を打ったり、夕方ふらっと外に出かけて、散歩したり、買い物したり、喫茶店に入って本を読んだり。朝は気分が憂鬱になり、昼過ぎまで寝ていて掃除に来たおばさんに起こされたりした。
  
  美術館とか、博物館、植物園などの観光にも行かなかった。
   

　●う〜ん、残念●

• 地下鉄の乗り換えのために、降りたホームで、路線図を見るために、荷物を置いたら、
  大家さんの旦那さん（酒好きらしい）に買ったおみやげのウォッカ。がちゃん、と音がして、割れた。
  袋の中で転げたらしい。
  ひぇ〜。同じくおみやげに買った、袋内のチョコレートボンボン（フィンランド製）、ウォッカでびちょびちょに
  なっている。 ウィスキーボンボンならずウォッカボンボンになっちゃった。でもたぶん、何もいわずにあげると思う。

　５月４日（火） 

• 気分が落ち込む、落ち込む。
  なんともいいようのない不安の波。
  明日から仕事は始まる。ネットにはつながらない。
  ものすごい孤独感。
  この休みにメールを書きたかったのに、結局誰にも送れなかった。 

　５月５日（水）

　●初出勤の日●

• 今日はアルバイトの初出勤日であった。
  朝、強烈な不安感にとりつかれ、逃げたくて、行くのが怖くなり、初日だというのに、すんでのところで欠勤するところだった（←ああ、なさけな）。
  意志を強くして、起きて、ペットボトルの水をゴクゴク飲み、血の気を多くして（？）、「とにかく行くんだ」「外に出るんだ」と自分に何度も言い聞かせながら、重い体を押し出すようにして、出かけた。
  
  初出勤とはいえ、たかがアルバイトになにをおおげさな、と思われるだろうし、自分もなんだろなーと思う。しかし、今の自分にはかなりきつい。
  
  昨日、 不安と孤独の波におぼれそうになり、たまらなくなって、日本のＫちゃんに国際電話してしまった。
  「ちゃんと治療しないからでしょ」と言われた。まったく、その通りだと思う。
  
  モスクワはふたたび冷え込んでいる。気温は３〜５度といったところか。コートはもちろん必要だが、その下にセーターを着てくるのだったと後悔した。
  
  こじんまりとしているが、明るっぽいオフィス。壁にはフィンランドのポスターなどが張られている。
  僕が働くことになるセクションは日本人女性二人（うち一人は退職予定）と日本語が堪能なロシア人男性で構成されている。
  僕の教育を担当する女性に「よろしくお願いします」と挨拶。社員全員に英語で挨拶メールを打つように言われる。宛先指定をまちがえて、コペンハーゲンオフィスに３回も同じメールを出してしまう。
  
  みんな親切に教えてくれたが、まだ今は居場所がないように感じる。結構気づかれした。
  
  仕事は定型書類作成＋雑務。端末ソフトの関係で操作が結構複雑にできており、覚えきれない。日本語メールもローマ字でやりとりしているので、なんとかシステム改善できないかなぁ、といろいろ考えてしまうが、もうＩＳ業務のことは頭から消して、機械のようにオペレーター業務に徹することにする。
  INVOICEの番号間違えて発行してしまい、後始末で担当女性にかえってお手間をかけさせてしまった。
  
  

　●プロバイダ騒動●

• 定時になったので、今日はさっと引き上げる。
  
  会社帰り、疲れてたので嫌だったけど、家とは逆方向の地下鉄に乗った。何回電話してもさっぱりつながらないプロバイダ会社に行き、
  
  誰か知らない人間が僕のＩＤでインターネット使っていること、
  そして、ネットに接続できなくなったこと
  
  を直接話して、なんとか対処してもらおうと思った。
  
  
• 角をまがると、会社の古い建物が見えてくる。
  
  びっくりした。
  
  会社の入り口から前の空き地にかけて、長い行列ができている。
  
  この寒空の中、たくさんのロシア人たちが外でぶるぶる震えながら、ずらっと並んで待っている。
  ヘッドホンをした若者や、コートの襟を立てて、新聞を読んでいるおじさんもいる。入り口では警備員が入場規制している。
  これはいったい何だ？と思った。ハッカーの被害者が続出し、苦情が殺到しているのかと一瞬思った。
  が、違っていた。
  インターネットの料金を払いに来ている人たちなのだ。
  
  
• 銀行やクレジットカードがほとんど機能していないロシアではインターネットの支払いは、直接持ち込みの前払いが基本である。
  僕が使っているこのプロバイダ、ここのホームページにアクセスすれば、新規ＩＤとパスワードはただちに発行される。しかし、そのままでは使えない。会社にいき、お金を支払ってはじめて、そのＩＤが有効になるのだ。
  
  
• 実は銀行振り込みという手段も使えるのだが、時間がかかるし、ちゃんと送金されるかどうか不安が残る。手数料もかなり取られる。僕は知らなくて、先週金曜、近所の国民貯蓄銀行（ズベルバンク）から払い込みしてしまったのだが、手数料日本円で２００円ぐらい取られた上で、送金に１０日かかるという（地下鉄料金１回２０円ぐらいの国）。これでは誰も利用しない訳である。 
  
  
• しかし、この長蛇の列。どうやら窓口が一つか二つしか機能しておらず、処理も遅く、お客をさばききれないようだ。
  これを見て、まったく同じだと思った。肉やパンやウォッカを買うための行列、両替所の行列、マクドナルドの行列。この国ではなんでも行列ができる。供給側（売る側）の対応はのんびりしており、概して高飛車である。買い手は我慢して並び、ありがとうといって商品を受け取る。モノが肉から最新のインターネットに変わっただけで、供給体制の本質はまったく変わっていない。
  
  
• さて、最初列の後ろに並ぼうかと思ったが、まったく動かず、 これではさっぱりらちがあかない。かといって、このまま帰るのはくやしい。もうしんどかったし、嫌だったけど、いちおう強行突破を試みることにする。
  素知らぬ顔で、ドアから中に入ろうとしたら、案の定、警備員に止められる。屈強な体したにいちゃんが「なんだ？」と聞くので、「インターネットのことで相談がある」と言ったら、「列の後ろに並べ」と言われた。「支払いではない。トラブルだ。すぐに相談したい」というと、「ここは支払いだけだ。技術はない」というから驚いた。「技術サービスに電話しろ」という。 ところが、その技術サービスにいくら電話してもつながらないから、ここに来ているのである。
  
  
• 「電話してもつながらない。どこに行けばいいのだ？」と聞くと、「技術は電話だけだ」と答える。なんちゅーとこだ、このプロバイダは。
  ダメだ。入り口でこんなやりとりしてもなんにもならない、だいたい何で対応するのが警備員だけだのだ。くやしい。心臓がドキドキしてくる。もう帰るしかないと思ったが、一応「緊急だ。ここから（技術に）電話させてもらえないか」と尋ねる。そこで、ちょうど受付の者と思われるおっさんが帰ってきたので、「彼にきけ」と通される。
  
  
• このおっさん、かなり態度がぞんざいである。ひとを見下ろすような視線で、なにごとも大儀そうに答える。 事情を話して調べてもらうように頼んだが、「金がなくなったんだろう」と取り合ってもらえない。「それは俺の担当ではない。技術に電話しろ。２４時間受け付けてる」の一点張りである。
  
  
• 「むかっ」ときて、机ひったおして帰ろうと思ったが、「ハッカーだ！」「なんとかしてくれ」と騒いで、ああ嫌だと思いながらも、とにかく技術にかけあってもらうようにしつこく頼む。
  そしたら、そのおっさん、やっと重い腰を動かして、技術に電話をはじめたが、やっぱりつながらないでやんの。３０分ぐらい繰り返してかけてもらったが、さっぱりつながらない。そのうちおっさん、かばんから「Aerofroat」とかかれた手帳（←どうせタダでもらったんだろ）を取り出してどこやらに電話して、友達なのか「おお、アリョーシャ、技術につなげてくれ」とか話したら、一発で技術が出てきた。やっぱりロシアでは個人的コネがものをいう世界だと分かった。しかし、それだったら最初からそうしろよ。
  
  
• 結局、パスワードを昔のものになおしてもらって、「家に帰って、すぐにパスワードを変えろ」という。「別の人間が使った分」を返してくれという要求には「パスワードを頻繁に変えないあなたが悪い」とのことで泣き寝入り。「今から家に帰る間に、誰かにまたパスワード変えられたらどうするんだ？」という問いには、「俺は知らん。権限がない。早く帰れ」の三言。

• 別のプロバイダに変えようと決心した。
  
  
• しかし、しかしである。ここが僕の人間の弱いところ。
  家に帰ってもまたつながらなかったら、 と不安になった僕は、
  念のためにと、この後、行列の後ろにならんで待って、新しい別のＩＤの権利（カード）を買ってしまったのだ。
  
  ここまでされても金を払う自分はなんと情けないことか。ロシアではなにごとも我慢と寛容が必要、また念のための手を打っておく必要が常にある、とはいえ、このときは帰り道、ほんとうに屈辱的な気持ちだった。

• このプロバイダ、mtu-intelという名の国営電話会社系列の会社である。前の会社のロシア人プログラマが推薦してくれた。
  ロシアでは料金が比較的安い（１時間０．９ドル、深夜早朝は０．４５ドル）のと、一次プロバイダ故のスピードの早さ（一応５６ｋｆｌｅｘ対応である）から、行列から見てもロシアではかなり人気だと思うが、セキュリティーがかなりあまい（パスワードは変更時も一方的に決められる）のと、「技術的理由により」突然つながらなくなるときがあることに加えて、技術サービス体制がなってないゆえ、インターネットに詳しくない人や外国人（いや嫌な気分味わいたくない人みんなだ！）避けた方がいいと思う。

　５月６日

• なんというかな
  「意味」なんて考えたらいけないなぁ、と
  アルバイトしながら、ぼんやり思った。
  自分が存在することの幸せだけに意識を向けたい。
  

　５月７日

　●夜明けのモスクワ●

• いま、モスクワは朝５時。
  夜の帳が開けようとしている。
  昨夜は、ネットを覗いていたら、鬱々としてきて、そのまま夕食もとらないで寝てしまった。
  
  急にDepeche Modeが聞きたくなり、
  Finlandで買ってきたベスト（The Singles 86>98）を聞きながらこの日記を書いている。
  
  漆黒から濃紺、そしてほんのりとした灰色へと、空の色が変わっていく。
  夜明けの冷気が伝わってくる。
  1
  朦朧とした気分と覚醒が混じわる時間。
  朝日が差し、じきに恐ろしい鬱の波がやってくるまでの
  短いけど、一番好きな時間。
  
  うまくいくはずのないこと。うまくやろうと望んだこと。うまくやったと勘違いしていた自分。
  すべて、ちりとなって、
  ぼんやりとした意識の中で、全ての価値が溶け込み、平らになり、世界の境界線があいまいになる。
  
   

　●また誰かに使われてる！●

• ふと、プロバイダのネット課金を調べてみて驚愕。
  また、誰かに使われてる！
  課金リストの利用者欄に知らない電話番号（発信番号）が載っている。
  こいつ俺のＩＤの残り金額全部使い切りやがった。
  幸いなこと（？）、ロシアの金融システムの問題から銀行（国民貯蓄銀行）に払い込んだお金がまだ届いていなくて、残り７分ほどしか残っていなかったが。
  
  もうひとつ、新しくとったＩＤの課金リストを調べてみて、なんと！
  ここにも別の電話番号がのっている。
  さっきの電話番号と同じものだ。
  こいつ、俺が寝ている間に１時間もつかってやがる。
  
  もうがっくりである。
  どうして？どうして？と疑問符が頭をめぐる。
  別のＩＤとっても、パスワード変えても効果がない。
  
  いったい、こいつ、どうやって僕のＩＤとパスワード手に入れたのだろう。
  狙い撃ちされているとしか思えない。
  みな（ハッカー連中？）に「おすすめ情報」として回され、いいように食い物にされているのかも。
  もしかして、電話を盗聴されているのかもしれないな。
  
  
• それでなくても、ロシアの電話は信用できない。
  よく電話している間に、電話局のオペレーターのおしゃべりとか、ため息（？）とか、コーヒー啜る音とか聞こえてくる。混線も良くある。
  日本人の友達と電話しているはずなのに、知らないロシア人が加わり、３人、４人で平行して会話していることもざらである。そんなときは向こうもこちらの声を認識していて、
  

　５月末

　●なんとか・・・●

• その後僕はフィンランドから帰ってきて、アルバイトの仕事（不安定労働？）が始まりました。
  ロシアのハッカーにパスワード盗まれる（！？）という事件に巻き込まれ、またもやネットにつながらなくなりました。
  
  定期的におそってくる鬱の波にあらがいながら、なんとか生きてます。

　６月初旬
 
　●モスクワはまた暖かくなった●

• 日差しが強い。
  モスクワはまた暖かくなった。暑いくらいである・・・といっても気温は１０度くらい。ただ太陽の光が燦々とふりそそいで、ネガの写真のように、冬の時期に比べてコントラストが１０倍ぐらい増した感じだ。
  
  日の光を浴びて、緑の芝生に点々と咲くタンポポの黄色が、鮮やかに冴える。
  
  金曜日の会社帰り。いまはパスポートがない身の上。「ミリツィヤ（市民警察）に会いませんように！」と。祈りながら、コソコソ早足で家に向かう。が、途中スーパーに寄ることにした。ミリツィヤ遭遇の危険を避けるため、今週末は（といってもいつものことだが）部屋ごもりの予定。食料を買いだめしたら、袋が重くて手がちぎれそうだ。
  
  人の往来が多い。というか、ぶらぶらしている人も多い。ベンチに座ってひなたぼっこしているおばあさんたち。無表情でベビーカーを揺らしているお父さんがいる。立ち話をしている女子学生や主婦たちの人囲い。たばこ吸いながら遠くを見て立っている中年男は何考えているんだろ。モスクワではすっかり若年層に定着したローラーブレードの少年たちが脇をすいすいすい通り抜けていく。通りの人口密度が一気に増した感じ。みんな夏の到来を待ちかねたようで、ふだん無表情なロシアの人々の顔も、心なしかうきうきと晴れやかだ。
  
  商人がいつもよりたくさん出ていた。トマトやジャガイモやネギ、なにか分からない草を地べたに置いて販売している。ダーチャ（別荘）の庭（畑）でとれたモノ売ってる一般人もいるんだろうな。道沿いには、両手にハンガーつき洋服ぶら下げたおばさんがズラーと並んで立っていた。一瞬なにごとかと、気後れした。重量級のおばさんたちが勢揃いで、気迫むんむん。前を歩くのがなにか気恥ずかしかった。
  

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