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〜ロシア生活を体感する写真レポート〜 今日のモスクワ |
2004年7月号
今は昔、言論統制がされていた時代、「今日のソ連邦」というロシア大使館発行の雑誌があり、ロシアを知るための貴重な情報源となっていました(すいません。実はバックナンバーを読んだだけで当時のことはよく知りません)。
「今日のモスクワ」では、今のモスクワで暮らす私たちの日常をビジュアルにお伝えします。
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チェーホフ没後100周年・・・。 (7/20 ひよこ)
ご存じの方も多いと思いますが、今年2004年は、あのアントン・チェーホフ没後100年の年です。
モスクワの多くの劇場で、今年はチェーホフの戯曲が公演されています。
そして、7月15日は、チェーホフの命日。没後ちょうど100年の日でした。
モスクワの多くの劇場は7月・8月は夏期休業中なのですが、それでもこの日を記念して、この数日間チェーホフの「かもめ」や「桜の園」などが公演され、TVでもチェーホフにちなんだ番組が放送されました。
その、7月15日。私たち(ひよことgonza)は幸運にも、ちょうどチェーホフの戯曲「かもめ」のチケットを手に入れる事ができました。しかも、この戯曲「かもめ」、だれが演出監督したと思いますか?なんと、あの映画監督で有名なアンドレイ・コンチャロフスキーです!コンチャロフスキー監督といえば、ツルゲーネフの「貴族の巣」やチェーホフの「ワーニャ伯父さん」を映画化したり、最近では「Дом дроков(狂気の家)」で2003年のヴェネチア映画祭審査員大賞を受賞しています。「シベリヤの理髪師」のニキータ・ミハルコフ監督のお兄さんであり、「惑星ソラリス」などで知られるアンドレイ・タルコフスキー監督の友人としても有名(?)です。
コンチャロフスキー監督の「かもめ」は、モスクワ都心にある劇場モス・ソヴェート(↑写真)で公演されました。 | ||
モス・ソヴェートのロビーには植物があったり、アクアリウムがあったり。休憩中も観客を楽しませてくれます。 なかなかきれいな劇場です。 |
もちろん、そんな巨匠のアンドレイ・コンチャロフスキー監督ですから、今回の「かもめ」も、かなり斬新な演出ということは言うまでもありません。初演から批評家や一般観客の間では様々な批評が飛び交っていました。なにせ、ロシアではチェーホフ戯曲は長く愛し続けられてきたクラシック。あまりに斬新な演出はチェーホフを愛する観客から受け入れられず、途中でも席を立って帰ってしまうなんてこともあるのです。
これは、すでに書いていることかどうか忘れてしまいましたが、gonzaさんは大のチェーホフファン。チェーホフの戯曲なら、なんでも喜んで見に行きたい人なのです。斬新な演出、古典的な演出、なんでも見たい人なのです。「本場のチェーホフ劇が見られるなんて、それだけでモスクワにいる価値有り!」という人です。彼のあつ〜〜い思いのため(?)、私もチェーホフの劇には何度となく連れて行かれました。
チェーホフの命日の公演も、「ぜひぜひ見たい!」というgonzaさんの熱狂的な希望からチケットを手に入れることとなりました。
「コンチャロフスキーの「かもめ」。楽しみだな〜。」なんて、意気揚々と劇場までやってきた私たち。
会場が暗くなって、全く予期しなかったことが起こりました。なんと、アンドレイ・コンチャロフスキー監督が舞台に出てきたのです。
私たちは、その日(7月15日)がチェーホフの命日ということは知っていたモノの、まさかその舞台に、あのアンドレイ・コンチャロフスキー監督その人が現れるとは思いもしませんでした・・・。
「今日というこの日、私はこの舞台に上がることを拒むことはできませんでした。なぜなら、今日はアントン・パヴローヴィッチ・チェーホフの100回目の命日だからです。」とコンチャロフスキー監督は語り出しました。
「チェーホフが、なぜこれほどロシアで愛されているのか。それは登場人物が、決してХороший(立派な素晴らしい)人ではなく、Добрый(善良で人の良い)ロシア人だからです。そのДоброта(人の良さ)こそが、私たちロシア人の心の奥にあるものなのです。」というコンチャロフスキー監督の言葉が印象的でした。
(ひとことぼーどでも、「マールィ劇場日本公演」の質問のところで、gonzaさんがこの舞台についてコメントしてくれています。)
モス・ソヴェート劇場前の噴水。きれいでした。 | 「アクアリウム庭園」の中に劇場はあります。 |
さて、なにかと話題だった舞台の方は・・・。
やはり古典的なチェーホフの「かもめ」からは、少し離れていたようです。
動きもあり、チェーホフの台詞には忠実ながらもコメディさながらのシーンもあったりと、なかなか面白かったです。
実は、「かもめ」や「桜の園」はコメディ(喜劇)としてチェーホフは書いています。日本ではチェーホフ劇を演出するとき、どうしても、その内容の深さを表現するため(?)に、なぜか「喜劇らしくなくなってしまう」ようですが、モスクワで見る「かもめ」や「桜の園」は喜劇であることを再認識します。(このチェーホフの喜劇性について思うことは、また機会があったら書きますね。)
たとえば1幕目のトレープレフ(主人公)が自らが書いた芝居の舞台を、下男のヤーコフと一緒に準備するシーンがありますが、このときにヤーコフが「水浴びしに池に行ってきます。」という台詞があります。そして、本当に素っ裸(!)になって舞台奥に作られた水池にドボンと飛び込むのです。
これには、文字通り、観客は目を丸くして驚き大笑いしました。
さらに、トレープレフの芝居の中で、ニーナが白い衣装の中から、もじゃもじゃの髪にもの凄い形相でぬっと出てきたりと、本当に喜劇らしく笑える場面が多かったです。
もちろん、チェーホフの「かもめ」だけに、「笑い」だけでは終わりませんでしたが。
カーテンコールで、出演俳優と一緒のコンチャロフスキー監督。 |
最後のカーテンコールで、俳優たちと再びコンチャロフスキー監督が登場!
コンチャロフスキー監督は渋くてステキなおじさまなので、私は個人的に好きなんです。(内緒の話。監督の映画より好きだったりして・・・。はは。^^;)
嗚呼。生のコンチャロフスキー監督を見ることができて、それだけでも幸せ。
さらに、次の日の7月16日。私たちは、リトアニアの監督が演出した「桜の園」を見にいきました。
こちらも、かなり古典とはかけ離れた演出で、しかも休憩も含めて5時間強という長時間の「桜の園」でした。
しかし、こちらも私には目的があったのです。
この「桜の園」のロパーヒン役に、なんと!あのエフゲーニィ・ミローノフが出ているのです。
エフゲーニィ・ミローノフといえば、日本にもやってきたことがあるので、ご存じの方も多いでしょう!2002年に新国立劇場で「ハムレット」に主演したあのエフゲーニィ・ミローノフです。詳しくはこちら。
「桜の園」のカーテンコール。 後ろに見える舞台セットもなかなかステキでしょ?! |
この「桜の園」も演出が古典とは言い難く、登場人物がみんな癖がある人になっていました。
ラネーフスカヤからアーニャ、ロパーヒン、学生のトロフィーモフはもちろんのこと、ガーエフ、フィールスまでが一癖二癖ある人たちになってました。
そして、みんな走りまくります。とにかく俳優が舞台を走りまくるという劇でした。
正直言って、この「桜の園」、私は見ているときは「う〜〜〜む。あんまり気に入らない。」と思ってしまいましたが、見終わってから、なぜか妙に心に残ってしまっています。ロシアのチェーホフとは違うリトアニアのチェーホフでした。
もちろん、エフゲーニィ・ミローノフは格好良かったです!(かなり癖のあるロパーヒンでしたが。^^;)
こんな風に、私たちはチェーホフ三昧の日々を過ごしました。
モスクワで見ることができる、様々なチェーホフ劇。それぞれの演出によって、全く違ったものに仕上がるモノです。
これこそが舞台の魅力、チェーホフ劇の魅力なのかもしれませんね。
最初に書いたとおり、今年はチェーホフ没後100周年。
日本でも、これに因んだイベントが、たくさんあるようです。
モスクワでも、まだまだチェーホフの戯曲は公演されています。
みなさんも、チェーホフの戯曲を見にいってみませんか?チェーホフ劇の中に、ロシアの魂を感じに行きませんか?
マールイ劇場の日本公演は → こちら。
その他、日本のチェーホフ関連公演は → こちら。