はぐれミーシャ純情派
タシケント激闘編5日目後編 |
7月24日
そこから、タクシーで大学に行く。今日は、ちょっと大変な作業がある。契約を破棄するために、演技をしなければならない。気持ちを悪いほうに盛り上げて、悲しそうな顔をする。今の俺は泣きそうな顔をする理由には事欠かない。フサンの部屋の前でちょっと緊張。思いきって部屋に入るがフサン(副学長)は留守だった。旅行に行ったまま戻ってこないのだと言う。フサンの秘書のようなウズベクのおばちゃんに今の状況を説明する。「水曜日に”お父さんが倒れた”という連絡がありました。今病院に入院しています。意識はありますが、当分仕事が出来ない状態です。家族はみんな僕が帰ってくることを望んでいるが、当然僕はここに残りたい。今日までずっと悩んでました。やはり帰らなければならないようです。親は帰ってこなくていいと言っていますが、僕には親が強がっているのがよくわかります。僕の兄が言うには状況はあまりよくないのです。」よくもここまで嘘がつけるもんだ。思っていた以上にスムーズに口は動いていく。表情もばっちり。おばちゃんは完全に信じているようで、「あなたがつらいのはよくわかるわ」と何度も言っている。こうも完全に信じられると、ちょっと罪悪感にとらわれる。でも、しょうがない。こんな理由でもつけないと契約を破棄するなんて出来ないだろうから。パスポートはレギストラーツィア(外国人登録)の手続きが遅れているので明日になるという。とりあえず最後まで演技をつづけた。おばちゃんは大丈夫。問題はフサンの前でどう振舞うか。そして、契約破棄に対する向こうの出方である。一抹の不安が残る。
火曜日の午前中、フサンに会うために大学に行った。昨日のおばちゃんの反応からすると今日もうまくいくかな、と思った。しかし、そううまくいくものではない。昨日と同じように、苦しそうな顔で迫真の演技をしていると、フサンの顔がどんどん曇っていった。近くにいた秘書らしきおねえちゃんにウズベク語でなにやら話している。もしかしたらビザのお金を払ってもらうことになるかもしれないとのこと。「この件について学長と話をするから、お昼過ぎに電話をしてくれ」お昼過ぎに電話をすると、誰も受話器を取らなかった。何らかの悪意を感じざるをを得ない。とにかく早くパスポートを手に入れなければ。
水曜日の午前中また電話をすると、今日はパスポートを受け取れなかった、と言う。そして、木曜日はレギストラーツィアをやっている役所が休みだから、明日は受け取れない、金曜日の午前中には確実にパスポートが戻ってくる、金曜日の12時に電話をしてくれ、とのこと。もしかしたら、パスポートを返す気がないのかしら。お金の事を聞くと、ビザのお金は50ドルだ、と言ってきた。なんとか払えるかもしれないと答えてしまった。
その日の3時に知り合いの人に電話をした。その知り合いの人は俺がロシア語の檄をやったときにお世話になった人で、ミンスクの大学で先生をやっている。再就職の口を探してもらっているのだ。とりあえずミンスクに行くことで話がまとまっているのだが、招待状がないとビザが取れない。招待状を個人で出すのは少し難しいと聞いている。その件がうまくいっているかどうか確かめるために電話をした。しかし、留守。5時ごろに電話をしてくれとのこと。5時過ぎに電話をすると本人が出た。招待状を出すには二週間ほどかかるとのこと。7月中にはウズベキスタンを出ることを告げ、ホテルかどこかにファックスで送ってもらうことにした。それにしても、いつも知り合いの人は元気で俺のことを助けてくれる。もちろん精神的な意味でだが、今回は俺に招待状を出すためにいくらかお金を払ったらしい。「とにかく気をしっかり持ちなさい。きっとうまくいくから」俺もそう思いたいんだけどね。ミンスクに行ったところで仕事にありつける保証はないのであった。それが一番の問題だ。二週間待っている間、どこかにじっとしてるのも嫌なので、旅行がてら仕事のありそうな大きな町に訪ねて行って、直接に高尚しようと思う。冒険心がうずうずしている。知り合いの人は「誰も信じちゃダメ。外国人をだまそうとする人がロシアにはたくさんいるから」確かに危険な香りがぷんぷんする。いい仕事が見つかったら契約を結ぶ前に知り合いの人と電話で相談するということにした。
その電話の後、珍しくここの家族が全員そろった。そこでこのことを言うと、アントンが「お金なんか払う必要はない。お金がないからといって断ればいいさ」という。そんなことができるのだろうか。