一般向け文化講座「はこだてベリョースカクラブ」の今年度第5回目の講話内容です。
テーマ:「ロシアの妖怪」
講 師:イリイン・ロマン(准教授)
ロシア語で「妖怪」を説明するのは、とても難しいです。日本語では、妖怪のほかに、おばけ、幽霊、妖精、それから怪物など同じではないけれど似たような表現がいくつかあります。ロシア語で「妖怪」に近しいものを表現しようとすると「精霊」になるかもしれません。
しかし、美しいものばかりが精霊ではありません。背景となる自然に対する姿勢や歴史が伝承で残っています。ロシアでいう妖怪は、神話的登場人物です。
それでは、いくつかロシアの妖怪を紹介します。
一つ目は、キキーモラです。
マースレニッツアに来たことがある人は、モレーナをご存知でしょうか。モレーナとキキーモラ、似ている音節があります。「モレ」と「モラ」です。これは悪いものをもたらすという意味です。では「キキ」とは何かというと、鳥の鳴き声を表しています。顔が鳥のようですね。この妖怪は、機織り機が好きで、家庭に現れては、機織り機にいたずらをすると言われていました。
もし、夜にキキーモラが現れたらどう戦うかというと、十字架を見せるとよいとされています。そうするとキキーモラは、固まるか逃げてしまうそうです。
キキーモラは、女性です。おばあさんかおばさんの年齢と考えられています。もし、冗談でも女性に「キキーモラみたい!」だなんて言ってしまったら、それは大変な悪口です。僕が奥さんに言ってしまったら、離婚されてしまうでしょう。
次に紹介するのは、ヴォジャノイです。
これは、水に関する妖怪です。見た目は似ていませんが、日本でいう河童に似ていると思います。ヴォジャノイは水辺に現れて、泳いでいる人の足を引っ張るなどします。ヴォジャノイの食べるものは、動物や人間です。ヴォジャノイは、怖い妖怪です。自然界で起こる悪い現象、洪水や干ばつはヴォジャノイのせいだとされています。
そのほかにもヴォジャノイには悪いイメージがあります。洗礼を受けていない子どもを連れ去り、自分の子どもにするだとか、溺れた女性をお嫁さんにし、子どもを産ませるという話があります。
彼が食べなかったものは、ナマズです。ナマズはヴォジャノイにとって、馬のようなものだったからです。ナマズに乗って移動する姿を想像すると面白いですよね。現代でも大きなナマズが釣れると、ヴォジャノイもいるのでは?と話のネタになります。
三つ目は、バーンニクです。
ロシアのお風呂にいるとされています。日本でいう「あかなめ」に似ています。ロシアでは、夜12時以降バーンニクに会うからお風呂に入ってはいけないとされていました。お風呂に入っているときにいたずらされてしまうので、お土産を用意するとよいとされていました。例えば、石鹸とかですね。
バーンニクには面白い占いについても伝説があり、クリスマスの時、結婚した女性はお風呂でツルツルした手のバーンニクに触られたら、貧乏な生活を今後送るとされ、ふさふさした手で触られたら、豊かな生活が今後できるとされました。そんな占い嫌ですけどね。
四つ目は、ルサールカです。
いわゆる人魚です。しかし、ルサールカには当初足がありました。19世紀頃にアニメなどの影響で今の姿が定着しました。ルサールカは、海ではなく、川、湖、池の近くに住み、見た目は普通の女性のようでしたが、人間にあまり友好的ではありませんでした。子どもを誘拐したり、漁師たちの道具を壊したりしました。
五つ目は、レーシーです。
森に住む、森を支配する妖怪です。森のイメージでいうと日本では天狗が似ているでしょうか。目が緑で、森の中で樹木と同じように大きい体をしています。
レーシーは賭け事が好きと言われています。ある年、シベリアからヨーロッパ方面へ大量のウサギとリスが移動したという事象が起きました。これはシベリアとヨーロッパ方面のレーシーが賭け事をし、シベリアのレーシーが負けてウサギとリスを譲ったからだと言われています。
そのほか、レーシーと遭遇すると襲われると言われていますが、対策として靴を左右逆に履く、服を表裏逆に着ていると、レーシーは混乱してきて襲われないそうです。しかし、10月4日はレーシーの日とされ、対策は何も意味がなく、襲われてしまうと言われています。なので10月4日は森に入ってはいけません。なぜ10月4日なのかは、僕も分かりません。
六つ目はドモヴォイです。「家にいる」という意味の妖怪です。
家や家族を守る精霊とも考えられましたが、例えば引っ越して新しい家に入る前には、悪いドモヴォイがいるかもしれないので、身代わりにネコを先に家に入れて確認しました。
ドモヴォイは、基本的に悪くはないとされています。座敷童のような可愛い見た目ではありませんが、気に入った家族のところに住み、家族を守るとされています。寝ている時にドモヴォイが上に乗ってきたら質問をします。回答があれば幸運が訪れ、無ければ不運があるとされています。
しかし万が一、ドモヴォイに気に入らない家族の認定をされてしまうと、いたずらされたり、悪いことが起きるそうです。
最後は、美しい女性に見えるこのポールドニツァです。お昼の時間に現れます。この時点で珍しいのですが、手をよく見てください。彼女の手には大きな鎌が握られています。これは今でいう熱中症で亡くなることを意味しているのですが、暑い中、仕事をしていると彼女に会って殺されてしまうのです。
ロシアの妖怪、いかがでしたか?ロシアは大きな国ですが、日本のような方言は無く、皆同じ言葉を話します。伝承、文化についても同じ意識を受け継いでいます。そのため、ある地方のみで存在するという妖怪はいなく、ロシアのどこで聞いてもこれらの妖怪や精霊の存在を今でも信じていたり、知っていたりします。もちろん、この現代で姿をはっきりと見たことがあるわけではありませんが、私たちの身近には今日お話した妖怪や精霊がいるかもしれません。