ピョートル大帝さんによるロシア各地旅行記シリーズ。大帝の鋭い観察眼は、何も逃しません。街で見かけたふとしたものを大帝独特の紀行文で読み解きましょう。
ピョートル大帝独自の視点で綴るロシア旅行エッセイ。
ピョートル大帝のロシアの思い出
〜第4回〜
ペOちゃん -ジェレズノゴルスク・クールスク州−
ベロを出した女の子がマスコット・キャラの大手菓子会社がある。小さい頃、友達が言ってた。 友:ペOちゃんが激しく転倒しました。そのあとペOちゃんは死にました。なぜでしょう? 僕: なんで? 友:いっつもベロ出しとるやんか、せやから激しく転んだら、舌かみきって死んでしまうんや。 僕:ふーん。 当然のことながら、現時点においてぺOちゃんは激しく転んだりはしていない。 そういう一か八かのイメージ戦略は、食品会社の採るところではないだろう。食べ物はあくまで”生”の領域のものなのだから。こういう風にブラック・ユーモアのネタにされている、ということは、それだけぺOちゃんの知名度というか普及度が高い、ということになるだろう。 そんなぺOちゃんにロシアで会った。ジェレズノゴルスクという町でである。 もっとも、ここのぺOちゃんは大手菓子会社とは関係がなさそうである。 店の名前はミナミであった。−−ということはミナミちゃんなのだろうか? ”ミナミちゃん”というと、あだち充の漫画”タッチ”を思い出してしまうのは世代のせいだろうか? 今の若手は知ってるんだろうか?
それはいいとしてこのミナミ、隣り合わせになっているスーパーと食堂の共通の名前であるらしい。 店に近づくと、食堂の入り口に浮世絵のれんが掛かっていて、かなりドキドキしたが、まずはスーパーに入ってみた。そんなに大きくはないのだけれど、アメリカ方式とでもいうのか、入口でかごを取って入り、出口はレジのみという、気の小さい僕は心理的圧迫を感じるスーパーの形式であった。モスクワでも、まともげなスーパーでは取り入れている方式である。 かご置き場には、さりげなくキモノおねえさんのカレンダーが貼ってあった。品揃えは食料品がメインで、その外に台所、洗面用品、といったかんじで、ロシアの普通のスーパーとかわるところはなかった。やはり、というか、不O家のお菓子はなかった。菓子はもとより、日本の品物は一見したところ見あたらなかった。そして食堂へ。 浮世絵のれんをくぐると、中はニホンニホンしてた。扇子とかうちわとかお面とか日本人形とか徳利とかが飾り付けられていて、働いているおねえさんたちも”ほんだし・かつおだし”と書いてあるハッピを、普通の顔をして着ていた。 メニューを見て驚いたのは、日本食がメインのところなのであった。スシ、テンプラ、ヤキトリ・・・。それからメニューを見て、ミナミが”美波”であることもわかった。で、僕はトンカツと焼きギョーザを頼んだ。来た時間が悪かったのか、ライスはなかった。黒パンならありますが、と言われたが、ことわった。 うまかった、というより、なによりうれしかった。まさかこんな観光客も来なさそうな町で日本食が食べられるなんて。カレーじゃないけど、ヒデキ☆カンゲキである。
でもなぜこの町に日本食堂があるんだろうか、日本人が住んでいるのだろうか、と食堂のおねえさんに聞いてみた。おねえさんが言うには、この町には日本人はいないけど、モスクワ駐在の日本人商社マンの奥さんがこの町の生まれだから、その商社マンの助力のもと、このミナミがオープンしたという。 ということは、このミナミはその商社マン夫婦の愛の結晶、ということなのか。もしくはロシア版、故郷に錦を飾る、ともいえるか。 スーパーはいいとして、人口10万程度の、日本人も住んでいないような町で、日本食堂はどれくらいがんばれるのだろうか。ジェレズノゴルスク、その意味はズバリ鉄山、鉄鉱の町である。日本がからむプロジェクトか何か、予定されているのだろうか。それをその商社マンが先取りして・・・。 なにはともあれ、通りすがりの旅行者の僕に、はかりしれない喜びと、面白い話のネタを提供してくれたこのミナミ、いつの日か僕が再訪する日までがんばっていてほしい。 でもこのぺOちゃん、ならぬミナミちゃん、よく見ると、手塚治虫の”ブラック・ジャック”のピノコに似てないこともないよのさ。
ジェレズノゴルスク:モスクワから南南西約400キロに位置するクールスク州の町。人口約10万人。 モスクワからの経路:列車、バス共に、モスクワ発ジェレズノゴルスク行き、という便はない。この町は、モスクワ発南西方面の長距離便の停留地である。したがって、どの長距離便がこの町を通るかは、窓口か情報案内所で確かめるほかはない。近くに、オリョ−ルと、クールスクという都市があり、ジェレズノゴルスクはこの2都市から共に約100キロのところに位置している。この2都市からだと、ともに1日5往復程度のバス便がある。 |
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