ピョートル大帝さんによるロシア各地旅行記シリーズ。大帝の鋭い観察眼は、何も逃しません。街で見かけたふとしたものを大帝独特の紀行文で読み解きましょう。
ピョートル大帝独自の視点で綴るロシア旅行エッセイ。
ピョートル大帝のロシアの思い出
〜第3回〜
オリョール駅での出来事 −オリョール−
これは僕がオリョール駅で切符を買うために窓口の行列に並んだときの話である。
僕:あなたが最後ですか? 青年:はい。 僕:私はあなたの後ろです。 こうやって列の最後の人を確認してから並ぶのがロシアの行列のルールである。 僕は、青年のうしろについた。(図1)
その直後、 青年:ずっとここにいる? 僕:はい。 青年:15分ほど離れるから(オレの場所をとっといてくれ)。 僕:はぁ。 青年去る。(図2)
青年の前には二人組の少女だった。 15分後。 少女:私たちそこに(目の前の空いたベンチを指して)座っているから(場所とっといて)。 僕:はぁ。 少女二人、ベンチに座る。(図3)
30分後。行列も残すところ4〜5人。 男性、僕の前に割り込む。(図4) 僕:(少しムッとして)あなたは誰のうしろなんです? 男性:ほら、そこの女の子たち(ベンチの二人組の少女を指して)の前だったんだよ。 僕:そうですか。(・・・なら、しゃあないな) 10分後。少女達も列に戻り、男性の順番になった。 そこへ、あと30分で列車が出てしまう、と婦人が割り込んできた。 男性:ちゃんと列に並びなさいよ。 といって、窓口をガードし、切符を買い始めた。 少女:そうよ。私たちはずっとここに“立って”いたんだから。 僕:・・・。(お前ら、ずっと座っとたがな!) 僕の後ろに並んでいた人々:行列に並びなさいよ!きまりを守って!
男性が切符を買ったあと、少女達もすかさず窓口をガード、切符を買う。僕も窓口をガードしてパスポートを提示して(ロシアの寝台車およびエクスプレスの切符を買うときは、パスポートもしくはそのコピーの提示が必要である。)行き先を言った。しかし窓口は僕のパスポートを見ようとしない。 窓口:ご婦人、どうぞ。 婦人はパスポートを提示し、切符を買い、去った。(図5)
僕はその後、切符を買い、駅舎を出た。暑い日だった。換気の悪い駅舎はさらに蒸し暑かった。屋外は日が射すとはいえ、風もあり心地よかった。 切符を買えた、ということもあり心は弾んでいた。ほんの2,3分前までイライラしていた自分とは大違いである。 僕の心理状態なんて、ちょっとした状況の変化でコロコロ変わってしまう「チョロい」ものでしかないのか。 ・・・。 だがしかし、だがしかぁし! と哲学的人間心理深淵探求的思索を始めようとしたその時、前方から、場所を離れたまま結局帰ってこなかった青年がこちらに向かって歩いてきた。 青年:もう切符を買ったの? 僕:もう買いました。 青年は、苦笑して駅に入っていった。 そのあと、彼はどうしたんだろう。「オレは並んでいたんだ!」とでも言い張って切符を買うのだろうか。それとも、また並びなおすのだろうか。そしてまた懲りずに小一時間離れていったりして・・・。 そんなことを思ったのは、ほんの一瞬のことで、僕の興味はすでに市内観光に向けられていた。 昼一時。街を見て回る時間は充分ある。 でも、「哲学的思索」はなしである。
オリョール:モスクワの南南西約350kmに位置する人口約40万人の都市。オリョール州の州都。電車なら、モスクワ・クールスカヤ駅から。エクスプレスも1日に数往復ある。バスなら、モスクワ・ショールコフスカヤのバスステーションから。 |
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