2003.03.16 K

第一回

ロシアという地域は・・・

筆 ぴえるばや


●自己紹介と主旨●

 私はいわゆる小規模な貿易会社を家族で日本とロシアで営んでいます。ビジネスという観点ではロシア連邦はあくまでも1つの対象地域に過ぎませんので北米・欧州各国の私共のような小さな会社同士で取引をしています。

 まずお断りしておきたい事があります。ロシアにある日本人コミュニティーはとても小さいもので、日系合弁・日系企業・日本商社はとても狭いコミュニティーで、あっというまにこちら側の意図とは全く異なる不本意なウワサなどの話は当然のごとく妬みともとれる話が出て来ます。よって具体的な企業名や氏名は匿名とさせて頂きます。またここでは特定されない、支障の無い範囲で記述とさせて頂きますが予めご了承下さい。


●ロシアだからロシア人の国??

ロシアという国家構成は「連邦」制度ではありますがアメリカの連邦制度の「合衆」国ではなく文化や宗教も異なる多民族が共和国・自治州・州などの構成へて「ロシア連邦」という連邦国家システムを維持しています。ですからロシア系が多いロシア共和国(実質連邦直轄)=ロシア人の国とは限りません。
 しかし実際に日本人ビジネスマンの多くはロシアという国のシステムは勿論民族や習慣に至るまで理解していない事が多く見受けられます。これは「日本が単一民族」と思い込んでいる節があり、実際には現在、アイヌの方は勿論在日朝鮮人・韓国人の方々など沢山のいわゆる民族が暮らす国として認識が殆ど無い事も原因の
1つかもしれません。つまりロシア連邦のどこに拠点を置くかによってその民族や文化により構成されているマーケットが一見同じように見えても市場戦略の手法をかえなくてはならない事を意味します。

●ロシア進出。明確なビジョンが無い日本企業と確実に成功を収める外国企業●

 現在、ロシア進出で一番問題となりやすいケースは、合弁事業というものでしょう。この合弁事業というのは、相手国の企業と一緒に同じ目的を持った会社をロシアに作りましょうという物で、その地域での販路などノウハウが無い外国企業にとっては一見便利な会社設立方法として用いられます。
 しかし、この手法とも言える「合弁会社」ですが日本企業の多くは自分達でロシアという地域を研究せず、ただ単に利益を求めるだけの企業体に終始している事実があげられます。近年はロシア国内においていくつもの日露合弁企業が設立・経営されていますが進出の決め手がいわゆるマスメディアによる報道とコンサルタントの数値を元に判断している傾向が強いと感じています。実際に合弁会社を設立したものの、稼動していない休眠状態の企業体もあり「とりあえず箱だけ作った」といわんばかりの状態が続いているのも事実です。
 過去10年間を見てもロシア側の税制不備などがありましたが実際の破綻・解除懸案では日本側不備が4割とも言えます。具体的な事として・・・

1.短期投資額回収をするため現地合弁会社への利益が人材へ還元されていない。

2.中途での契約不履行。
3.ずさんな事業計画。
4.必要な資金が廻らず日本人駐在の人件費のみ消費している。
5.通訳頼みになっておりビジネス上のロシア語語学能力が無い人材を上位役職に据えている事。(あらゆる対ロシアビジネス上の分析能力や営業能力がいちぢるしく欠如しているとも言える)
6.事業計画というものが必ずしもロシア・マーケットと合致していない。
7.外国取引の経験が薄い日本企業の尺度をそのまま持ち込んでいる。
8.情報収集能力と実務経験者が適所に配置されていない。
9.日本側経営陣が即断できる案件でも日本側に決済権限などが無い。

10.日本から売る物がない。

など。

 他国企業では考えられない事が日本側の原因によってビジネスとして利益が取れるにもかかわらず破綻してしまうケースが多くあります。

ちょっと意外かもしれませんが「日本から売る物が無い」という現象についてお話したいと思います。

現在、日本は皆さんがご存知の通り、製造業が人件費の安い東南アジアなどに生産拠点を移し内部空洞化現象を起こしています。

 たとえば、PCを例にあげますと半導体の生産拠点は勿論、PC本体が中国やタイなどの海外で生産されています。このため、これらの商品をロシアへ販売するとなると、日本企業が一度、日本で仕入れてロシアの提携代理店へ送ることになり、関税などを含めて末端価格が1.5〜2倍に設定しなければ利益が取れないという状況です。実際に私共もAという商品(日本メーカー)を取り扱っていた時期は全てメキシコ生産でメキシコの現地日系ディーラーと取引しオーダーに応じて直接ロシアへ送って販売した事もあり、現在も弊社(日本)ロシアへの輸出高で計上される利益の年間にして開きはありますが6-80%は日本で、あるいはモスクワで受注し生産国である第三国からの直接輸出に傾いています。ですから必ずしも日本・ロシアのコンサルタントがはじき出している数値、日露間貿易高などという数字はあてになりません。これは長期的に見て日本空洞化現象で例えますと外に出た生産拠点を追いかけるようにして販売側も追従している事になり日本の製造産業だけではなく販売側も歪なマーケット戦略をしいられていると言えます。

●判らない事は頭を下げて教えて頂く事●

 「ロシアのやつらは・・・」とロシア人を否定するような話をよく耳にします。ロシアに「商売をして儲けに来た」はずなのに、日本人駐在の方から、このような否定的な考えを聞くと残念でたまりません。
 現在の日本人ビジネスマンの多くは、高度経済成長期に生まれた
30-40代方が第一線で活躍しているのですが、その先代の現在50-70代先輩が、ソ連時代にコツコツと積み上げた実績が継続評価されているということも認識することは重要なことと思われます。また残念ながらロシア国民は我々より劣ると思っていると考えている人の割合が非常に多いのです。ロシアマーケットに商品を卸・販売しているにもかかわらず・・・・

 知恵を持たないのであれば研究・学習し地元の人間に聞く・・・これは当たり前の事なのですが、こういう企業に限ってリサーチは日本のコンサルタントにまかせてある。・・・その土地に居住し現地スタッフを雇用していているのであれば、その土地の人々と交流し、情報収集することは、重要な仕事になるのではないでしょうか。

●ロシア企業と日本企業はお互いに求めている●

 日本ではサハリンプロジェクトのうち、現在稼動している1期と2期に対して注目していますが、視線があまりにもロシア極東地方に加担しすぎていると思います。ロシア企業は全国土に無数にあり、あらゆる分野で日本企業との取引をしたいと考えていますが、日本が極東ロシアに目を向けているために、いわゆるロシアのゼネコンなどが欧米との提携を進めつつあり、商売として旨みがあるにも関わらず埋もれてしまっている事実もあります。

 現在インターネットショップはロシアで拡大の一途をたどっており、ソフトウェア分野では実は以前から友好国であったインド系ソフトウェア会社が核となりロシアで成功しています。ソフトウェアマーケットは、購買力のある層をターゲットに各種処理ソフトが毎年法人向けに出ていますが、今後日本のソフトウェア会社か゛得意とする電算会計処理やレジスターのPOS連動ソフトなど食い込める余地もあります。異種からの参入では多くのロシア企業が優れた技術や製品を求めて日本企業と取引を求めています。

 1つの地域で見るには、ロシアは広大なマーケットですが、いままでの日本の構造的な物や、過去の失敗や成功を踏まえた上で進む事が重要ではないかと思います。

続く
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