Rev0624TY
ロシア・ホームステイ手記 |
ラーメン中華 |
−第4回−
決行
その日は突然やってきました。 大学から帰ると家はいつになく静かで、何か不気味にさえ感じるほどでした。今日は飲まなかったのかなと思っていると、酒の臭いがぷーんとしてきて、僕は「ああやっぱり」とまたゆううつな気分になりました。「でも飲んだにしては静かだな」と思っていると、おばあちゃんがやって来て小さな声で僕に言うのでした。 「Sは今日も飲んで、今は台所で寝てるんだよ。だけど、今日Sを病院に連れていってもらうよう警察に頼んであるから。」 それを聞いて僕は「ついに来たか」と思いました。前々からおばあちゃんはSさんを病院に入れると言っていましたが、そのような動きは全然なかったので、それはまだ先の事だと思っていました。 僕とおばあちゃんは警察が来るのを待っていましたが、それよりも先にSさんが目を覚ましました。酒がまだ抜けていないようで、1人ぶつぶつ文句を言いながら、クバルチーラを徘徊し始めました。それでもこの日はすでにA君は友達の所にひなんしていたので、その点は安心していました。 いつも通りSさんとおばあちゃんの激しい口論が始まり、僕は一刻も早く警察が来てくれることをただただ願いながら、ひとり部屋でじっとしていました。しかし警察はなかなか来ませんでした。 「まさか今日は来ないのか」と思い始めた時、ドアのベルが鳴りました。 「ついに来た!」と僕は一人で緊張してしまいました。警察とSさんとの間でまた一悶着があるんじゃないかと、耳をすまし外の様子をうかがっていると、無線のやりとりが聞こえ、5分もしないうちに静かになり、人の気配もなくなりました。まさかこんな短時間で連れて行かれてしまったのか、Sさんは何も抵抗しなかったのかなどと思っていると、おばあちゃんが来て、「終わった」とため息まじりに僕に言いました。 Sさんが病院に送られた事を知り、A君は家に戻ってきました。A君はめちゃくちゃ喜んで、はしゃぎまわり、 「良かったね。これで楽しく暮らしていけるね。うれしいでしょ。」 と僕にきくのでした。A君の笑顔のむこうにおばあちゃんの疲れたような、悲しいような表情を見ると、僕は何も答えることができませんでした。 窓の外では大つぶの雪が降っていて、おばあちゃんは降り続ける雪をじっと見ているのでした。 |
(つづく。予定) 写真:gonza |
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