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ラーメン中華
ロシア・ホームステイ手記

−第3回−

少年


なぜわざわざ酒乱のSさんがいるクバルチーラに住み続けるのか?

ロシア人家庭の生活を身をもって体験できるチャンスだと自分に言い聞かせながらも、いい加減嫌気がさすことは何度もありました。
寮に戻ろうと思ったことも何度もありました。それでもこのクバルチーラに居続ける理由−それはA君がいるからでした。

前にも書きましたがA君の両親はすでに亡くなっていていて、今はおばあちゃんが彼を引き取って育てています。
ひとりっ子のA君は「兄弟」というものに憧れているようで、僕のやることを真似してみたり、一緒に何処かに行くときは自分の貴重品を僕に預けたり、僕と同じものを欲しがったり、さらには僕と同じ髪型にしたがったりと、僕としてもA君を本当の弟のようにかわいく思うのでした。

そんなA君は僕の誕生日にプレゼントを用意してくれると言ってくれました。僕もなんだかウキウキしながら、自分の誕生日が来るのを心待ちにしました。そしてついに僕の誕生日がやってきました。

A君はその日、おばあちゃんに僕へのプレゼントを買ってくるように頼んでいたようでした。夕方、おばあちゃんが買い物から帰ってくると、A君はおばあちゃんに何かコソコソ聞いていましたが、しばらくしてA君は怒りだしました。

実はおばあちゃんはプレゼントを買い忘れていたのでした。正直、僕は少しがっかりしましたが、「プレゼントなんていらないから」となだめていると、A君は申し訳なさそうに「今からプレゼントを買ってくるから!」と言い、家を飛び出しました。

僕は何とも言えない気持ちで彼の帰りを待ちました。しばらくして、彼が何かを抱えて帰ってきました。お祝いの言葉と供に彼は僕に買ってきたばかりのプレゼントを差し出しました。それは額に入った鷹の絵で、額にはガラスがはめ込まれているとてもきれいな物でした。僕は「ありがとう。ありがとう。」とお礼を言い、その絵を受け取りました。

おばあちゃんが「絵の裏にお祝いの言葉と日付を書いて、そしてあげなさい。」と言うと、A君は「分かった。」と言い、その絵を持って自分の部屋に行きました。僕は「どんな言葉を書いてくれるのかな」なんて思いながら待っていたのですが、なかなかA君が戻らないので、変だなと思っていると暗い表情のA君が重い足取りでやって来て、また申し訳なさそうに言うのでした。

「実は部屋で絵を落としちゃって・・・」
そう言って絵を差し出すと、そこにはガラスが割れ、額がゆがんだあの鷹の絵が・・・。そしてA君は自分の部屋に置いてあった犬のぬいぐるみを僕に差し出して、さらに申し訳なさそうに言うのでした。
「これでいいかな・・・。誕生日プレゼント・・・」

僕はA君をなだめながら、壊れた絵とぬいぐるみを受け取りました。
 部屋に戻り、その絵とぬいぐるみを目の前にし、あの少年の申し訳なさそうな顔を思い出すと、僕はまたまた何とも言えない気持になるのでした。そして、またさらにA君をかわいく思うのでした。
(つづく。予定)
写真:gonza
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